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- 蛇のサバイバルの弐 -

 蛇は悟る。この森の中はハードモードすぎると。

 チートな能力はあれど、ソレが無ければ自分はもうこの世から居なくなっている。

 だが今はこの力のお陰で生きているのだから、深くは考えまい。

 自分には強くなれる可能性が、他者よりも多く与えられているのだから気にしない。

 ゲームを例えにすれば、ごくごく一般的な何度死んでも蘇るチート持ちなのだし、

 ゲーム的な例えを続ければ、セーブ&ロードも機能もありますし、余裕過ぎるでしょう。

 とりあえずの所で、地道に経験を貯めつつ、心が折れぬようにするだけだ。


 その為にも娯楽は大事。美味しいモノも食わせろ。可愛い奴もいねーかー?


 欲望に身を任せ始めた蛇は、懲りずに長距離の移動を開始する。

 森の様子は相変わらず、視界に入るは植物ばかり。

 トゲトゲしい茨には注意しつつ、木々の間や根っこの隙間を掻い潜り、

 蛇行しながらも素早く、そして尚且つ音を立てずになるべく日陰を通る。


 熱源を感知しながら、なるべく生き物の居なさそうな場所を選び、

 進むべき道をある程度、見極める事に慣れてきた所だった。

 思えば、拠点にしていた水場に戻る事は出来るのだろうか?


 つまりは何も考えずに進むだけ進んでいたので道に迷った訳だ。

 まあなるようになる精神で、蛇は兎に角進む。

 進んで進んで、何を目的に移動していたのか忘れてしまった頃だった。


 都合良く発見したるは、犬顔の人間っぽい奴の集まりである。

 そうだった、自分は癒しを求めて移動していたのだった。

 美味しい物。可愛い奴。その他の様々な発見をだ!


 そうして考える頭を取り戻して観察する事の…アレは、コボルトなのではないか?

 ファンタジーな知識だが、犬顔の獣人とか、精霊的な何かとか知ってます。

 今までに出会った奴等と比べれば、犬っぽいですし何となく可愛げがあるその姿。

 互いにワンワンと何かをやりとりしている様子も見受けられますし、頭は良さそうだ。

 仕草が何となく野生的で、そこそこ物騒な物を持っていたりもしますが、

 最悪な事態は想定済みですし、今更ソレが何だというのかね?


 これはもうスキンシップを図る以外に道はあるまい。


 死を繰り返していながら、全く懲りていない蛇は、

 精いっぱいの配慮をしつつに離れた位置より自身の身を彼等の視界にさり気なく映し出す。

 見上げる仕草をしながら、チロチロ舌を出しながら、ほんのりアピールを繰り返す。

 様子を伺い続けた所で、コボルト側も蛇に気が付いたようだ。

 お互いに顔を見合わせるコボルト達は、頭にエクスクラメーションマークを浮かべたような気もするが、

 クエスチョンマークに切り替わったような気がしないでもない。


 ざわめき始めるコボルト達だが、その声は訳も分からず、ヒソヒソと小さな鳴き声でのやりとりであった。

 半分時が止まったかのような、静けさが続き、蛇は訳も分からず首をふりふり。舌をチロチロ。

 犬顔に見つめられ続けるばかりだが、襲われたのならそれまでだ。

 襲われなければ顔でも埋めてモフりましょう。

 甘い幻想を抱く蛇は、コボルト側が何を思っているのかは全く考えていなかった。


 手を振るコボルトを確認した蛇は、ゆっくりと近寄ってみる。

 すると、騒がしくなった犬顔は、その手に持った棒やら何やらで突っついてくるではないか。

 その動作を見てアテレコするに、アッチイケー、コッチクンナー、ヘビコワイヘビコワイ。


 そんな印象を受けたので、蛇側としてもこれ以上迫り寄るのはなんだかなと、やる気は減退。

 無理強いはイケマセンものね。攻撃してくる訳でも無く、距離を取って追い払うような対処しかしてませんし。

 一際大きな物音がした所で、それが意識を切り替える合図となり、蛇は退散をする。

 草むらに隠れるように逃げ帰り、大きくため息を付いた蛇は、物陰から改めてその犬顔達を見上げると。


 その犬顔がありませんね?

 胴体はそのままで、頭部だけが綺麗さっぱり消え去っている。

 出来損ないの噴水から飛び散る赤い花。

 一泊遅れてドミノの倒しのように転がるコボルト達は、それぞれに致命的な外傷が出来上がっていた。


 あれ、自分何にもしてませんよ?


 何が起こったのかの理解は追いつきませんが、コボルト達は分かり易く死んだ。

 貴重でもないもふもふ成分が、あっさりとモザイク必須レベルになるなんて…。

 蛇さん犬顔遭遇イベントを終えて、身を隠した後の一瞬でこの有様なのだ。

 こんな危ない場所からは、一刻も早く離れるべきだ。


 逃げる蛇は、慎重さを欠いて移動した結果。

 物音を立ててしまい、コボルト達と同じ運命を辿る事となった。

 加害者の姿は見えず、探そうにもその姿は実にあっさりと血溜まりと化す。


 そして、蛇だけが復活するんです。

 死ぬ事に慣れ始めている自分を認識つつ、死ぬ度に大きくなる蛇の体に違和感を覚える事の、気にするのは一瞬だ。

 なるようになる。あっさり死ぬけど、すぐに元に戻るのだ。 

 ゆっくりと、何が危険か安全かと判断していけば良い。


 蛇は考える。考えに考えた末に、移動を続け、はや3日。

 蛇さん自身にとっては秘境と呼べる程の、雄大な地形を幾つか発見し、

 ソレ等を目印に探索をする自分は意外な所で慎重派だった。


 そんな秘境の一つは大樹の枝の上に、まるで担がれてしまったかのように設置されていた都合の良い岩の洞穴。

 中には何もおらず、蛇のこの身が入っても、しっかりとした洞穴であり、

 蛇の身が収まるには丁度良い休憩場所として重宝している場所だ。


 他には、森の中の断崖絶壁。見晴らしの良いこの地形は地平線は見えない。

 視界に広がる限りに、全方位で木々が密集する森だ。

 むしろ蛇になってから光を感じる視力が弱めなので遠くまで見えないのが難である。


 そうそう、水場と言えば、気にする必要が無いぐらいに泉や川は点在している。

 ずーっと川を下れば人里なる物があれば、辿り着いたりするのかね?

 考えてみたが、とりあえず巡ってみた川下りの終点はちょっと大き目な泉だったりした。

 まあ人に会えた所で蛇だし、現状では言葉も通じず相手が死ぬだけだろう。


 とりあえずの所で、言葉は通じずとも、何かしらのコミュニケーションが取れる相手が欲しい所。

 魔物とはいえ、友好的な関係を築き上げられる何かしらは、いるかもしれないものね?

 そう願い続けた蛇の目の前に現れた、この何と言いますか、

 毒々しい、派手な斑点が付いた蜥蜴は、即座に襲ってくる気配もなく、蛇の体を見つめていました。


 ヤッホー。


 無意識のうちに尻尾をフリフリ、お互いにスキンシップを図っています。

 さらには一定の距離を取りつつぐるぐる回り、ひと段落が付いたら首を振る。

 蛇側が、とぐろを巻いて、そのまま体を伸ばして体を大きく見せれば、蜥蜴側も2足歩行でポテポテ歩く。


 きゃわいい…。


 胸が満たされる感覚を覚えた蛇は、体を上下に喜びを表現。

 蜥蜴側も、頭を上下に両手を万歳、チョコチョコ歩いて両者の距離は縮まり…。

 開いたお口から、蜥蜴汁を蛇の顔面にブシャー!


 ヌギャワッー!


 濃密にブレンドされた粘性のある蜥蜴の毒素をぶっかけられた蛇は、

 苦悶の表情を精いっぱいに表現しながらのたうち回る。

 びったんびったんと音を響かせ、暴れ狂う蛇の怒りゲージは一瞬で限界突破。


 ヤロォ…、ブッコロッシャー!

 

 剥がれぬ毒液を顔面に纏いながらも、蜥蜴の居場所を蛇は突き止めた。

 アイツめ…、木に登って逃げやがった!

 だが甘いぜ。蛇だって木ぐらい登れるんだぜ!

 それどころか、セメントだろうが、ブロック材だろうが、垂直の壁に張り付く蛇だって自分は知っている。

 そんな訳で、本気を出せば、こんな木を登るぐらいは一瞬なんだヨォー!

 逃げる蜥蜴。枝の先まで追い詰める蛇。


 もう逃げられんゼェ~♪


 自分より小さな相手にシャッハーしていた蛇は、頭を振って威嚇する。

 その結果、毒が体中に回ってふらつきが増してしまうとは、何とも馬鹿な事をしたもんだ。

 そしてふらついた所為で、枝の揺れが大きくなり、蛇の体は支えを失って、枝の上より落下する。

 蜥蜴の方はと言えば、蛇が落ちる直前に飛び掛かっていた、揺れる蛇の動きが毒が回っているものと見て反撃に転じたのだろう。

 呆気にとられる蜥蜴は、空中で起動を逸らす事なんて芸当は出来なかった。

 蛇の自爆のお陰で飛び掛かる対象を失った蜥蜴は、ギリギリの所で枝にしがみ付く。

 しかし、蛇が揺れ動いた所為で折れかかっていた枝にトドメを刺す事となり、蜥蜴は蛇と同じ運命を辿る事となった。


 ボヨン、ボヨン、ポテーン。


 落下の痛みに身を捩らせる蛇。

 木の枝が突き刺さってしまい、悶える蜥蜴。

 2匹は横並びに苦しんだ。


 痛みから先に回復したのは蛇であり、蜥蜴は足を怪我した所為で逃げられない。

 となればやる事は一つ。蛇は蜥蜴の首筋をガブリと止めの一撃。

 お食事タイムに、蜥蜴肉を生のままに齧り付くも、毒持ちの為か味はイマイチ。

 それどころか毒の詰まった臓器であろう部分を、お口の中で引き裂いてしまい、

 痛みに苦しむ蛇は、特に苦しむだけで済んでいる現状を喜んだ。


 やったぞー、死ななかったぞー。


 余裕が湧いて出てきて、食事を再開する蛇はなんだかんだで、毒じゃない部分は食べられると感じていた。

 皮はモッチモッチしていて、噛み千切り辛いが味は無い。

 お肉はなんとなく、肉っぽい感じがしていて食べている気がする。

 臓器については、知識が無いのでさっぱりだが、全部食べてしまうのだから気にせずで問題ないだろう。

 知識を得た後に、この部分が貴重で、お金になる部分だったとか…、何てことは考えない。

 どうせ持ち運べないのだ。貴重な物があったとしても、お腹に収めてこの身の一つにしてくれよう。

 そういえば貴重そうな物と言えば、例えばこの、蜥蜴の中にあった、魔石とでも呼ばれそうな程に綺麗な石。

 意を決して噛み砕けば、何とも言えぬ幸福感に包まれる。疲れも吹き飛んだかのような爽快感が得られた。

 とりあえず、魔物を食べる時はコレを優先して食べれば良い感じに体力が回復出来そうだ。

 こうして魔石を食べた事により、蛇の体は体力が回復したようだが、

 それに収まらずに、蜥蜴を完食してしまった後には、物足りなさを感じていた。


 食い足りねえ…。

 

 何か他に美味しそうな奴はおらんかね?

 血塗れ毒塗れのままに散策を始めた蛇は、間もなく獲物を発見する。

 アレは兎なのではないか?

 辺りをキョロキョロ見渡すその後姿。

 長い耳にまんまる尻尾。丸みを帯びたボディは何とも触りたくなる魅力がある。

 そんな可愛らしいモノは、時折後ろ足で立って、ほんのり視界を高くして、

 愛嬌のある顔を蛇さんにアピールしておられる。


 なるほどなるほど、そんなにこの蛇さんに食べられたいか?

 蛇の姿を見つけているのだろうに、逃げずにいるとはそういう事であるな?

 初めはゆっくりと迫り寄り、一定の距離まで近づいて。

 蛇の体に力を伝えて、タイミングを見計らう。


 兎の視線は蛇から離れる事もなく、ヒクヒクと鼻を鳴らすのみ。


 可哀そうと思う気持ちを廃した蛇は、力を解放。

 襲い来る急加速に、蛇の体を委ねて尻尾を突き刺すその瞬間。

 先に攻撃がヒットしたのは兎側の頭突きだった。


 見るも無残に、骨が砕かれた蛇の頭部は誰が診ても死亡確認と判断するだろう。


 そして死んでしまった後に、対象を食らって復活を果たしてしまう蛇は考える。

 生き延びる事は考えるが、これはもう、何かがあるたび死んで覚えるしかないな、と。



   *   *   *

何度死んでも良いなら好奇心は抑えられぬ

わたしこそ しんの ゆうしゃだ 精神を持っている蛇

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[一言] 馬鹿は死んでも治らない
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