大樹の下での分岐点
「サーペントエッグ?」
そのエルフの女性は言葉に出して自分をそう呼んだ。
反応するべきか。否か。
対話をするか。否か。
「大丈夫よね。おとなしい魔物の…筈よね」
ふむ…魔物の知識はある系の冒険者…だろうか?
しかし、見覚えがある。
誰…だったか?
この辺りに来るとなれば。よっぽど…熟練した冒険者じゃないと。
しかも単身で来るとは相当な手練れとみるが…ふぅむ。記憶にない。
だけど…記憶のどこかで引っかかる。
「一撃必殺…」
おいコラ待て、言葉に出して言うんじゃない。
魔城効果は一切の意味が無かったようです…
正面切って弓を構えられるぐらい、どうという事はないんだけども。
万が一、本当に一撃必殺だったら相手が死んでしまう。
流石に対話だ、殺し合いはしたくない。
今回の自分は癒しがほしいのだよ癒しが。
(あのー。聞こえてるんだけど)
という訳で念話だ。
声帯関連は後回し。
なんだかんだで念話が楽だ。
多分通じるだろう。通じなかったら『視覚的呪術』で訴えよう。
「ほへっ…?」
不意を突かれたエルフは素っ頓狂な声を出してつがえた矢を慌てて戻す。
声の主が自分と気づくのにも時間はかかるまい。
(だーかーらー。聞こえてるよ。何が一撃必殺なのさ)
とりあえず、突っ込んでやる。
おとなしい魔物の筈と言っておきながら弓矢で攻撃とは。
おだやかじゃないですね。
「あっ…いえ。これは。なんでもありません!」
流石に睨みを効かせていたし。他に誰もいなかったので気付いたみたいだ。
自分の事を認識し、慌てて弓矢を背に隠す姿はなんとも滑稽である。
(はいはい。ボクの事殺さないでね。別にその程度じゃ死なないけど)
目立った敵意は今の所は無し。
目に入る魔物は淡々と駆除する系の子だったのでしょう。
意思が通じれば一応話は通じるようで助かりました。
この子の目的なんだろうね?
予想としては、この大樹関連の来訪者。というのが一つ目。
もしくはアスピク。始祖竜。などが候補にあがるが。可能性は低いだろう。
(それで、こんな所に何しにきたの? ボクの家でも見にきた?)
という訳で聞いてみる。
ついでに魔城の評価も聞いてみよう。どんな反応するか。
でも言ってから流石にちょっとだけ後悔した。
だって…犬小屋なんだもん。我ながらに、これはどうかと思う。
「えーと。素敵なお家ですね。可愛いです」
まあ…妥当な返事が返ってきた。
軽く聞き流しつつ肝心の目的を聞きたい所ですな。
「私が来た理由ですけど。なんとなく…です。
こんなでっかい大樹がいつの間にか出来ていましたし
…それに。私がこんな姿になったのにも関係があるのかなと思って…」
ん~、なんともまあ予想通りでした。
そりゃ、こんな大樹がポっと沸いて出たら誰だって気になるよね。
(やっぱり気になるよね。ボクが作ったの。凄いでしょ?
それでどうしたの? こんな姿になったとか言ってたけど)
正確には自分自身だったもの…らしいのだけど。
まあ間違ってはいまい。嘘は言ってない。
嘘だと思われそうだけど。それは仕方あるまい。
「えっ…あなたが作った?」
素直に驚いている顔をしながらキョロキョロしだすエルフがそこに居た。
見比べているのは。『魔城作成』で作った小屋と。大樹だろう。
そこまで観察して、ああそう来るかと、我ながらに恥ずかしくなる。
もっと数日の間を空けてきてくれれば…
ちょっとはマシな魔城が作れていたかもしれないのに。
「じゃあ…えーと。聞きますけど。
私が…ハイエルフとなったのは…アナタの所為?」
んん…?ハイエルフ?
そういえば…自分の前にいるこの子。ただのエルフとは違うような。
ハイエルフ?…エルフの上位みたいな存在?
少し頭の整理が必要だな。
そもそもエルフ自体、自分はあまり知らない。
エルフとハイエルフは別…として。
魔物みたいに進化する…ってこと?
(んーっと。ちょっと分からないけど。どういう事?)
(ボクはこの大樹をちょっと前に作った。それだけだよ?)
とりあえず素直にちょっと前に大樹を作ったとだけ強調して言っておく。
エルフ…いや、ハイエルフ側。うーん、ややこしい。
自分も情報が全然だし、少しずつ前進していけば良い。
「私も…分かりません。
夢から覚めたら…ハイエルフとなってたんです」
やっぱり分かってないようで。
なんとなくココに来たというのも。本当になんとなくなんだろう。
実力は備わっているみたいだし。
それでいて可愛いし、敵対はしたくないな。
存在自体が癒しだ。癒し第1号。
―――確認 守護者は?
あ、守護者は第0号で、1号より前の存在だよ。
―――確認
ハイエルフ情報
通常のエルフと違い 不老の肉体を持ち 強大な魔力を扱うスキルを得ている
単純なエルフの上位種という訳ではなく
神や世界に選ばれたエルフのみがハイエルフとなれると伝えられている
へえ、神や世界に選ばれたエルフ…ねえ。
この世界樹と呼ばれた大樹に引き寄せられるのも自然な事…なのか?
このほんわかした感じのエルフが………あれ、このほんわか具合。
やっぱり覚えがあるぞ? もう一度じっくり見てみよう。
(ふーん。ハイエルフ…ねえ?)
(はじめてみるけど。ちょっと触っていーい?)
じぃ~…っとな。
ふむ、ふむふむ、ほうほう。
もしや…この胸の大きさ。
ちょっと拝見。
ぼふっ…とな。
ぱふっ…パフッ…魔物の特権。発動。
む………もしや、この感覚。あのエルフ!
「な………何してるんですか?」
恥ずかしがる様子はない。戸惑っているだけだ。
流石ハイエルフ、器が大きい。色々大きい。
ちょっと硬めな気がするが、なんとも落ち着くこの感じ。
(狭い場所が落ち着くの)
このフィット感。あの時代を思い出す。
今となっては懐かしいあの頃よ…
癒しを求めるのであれば…再びあの場所に戻るのも悪くあるまい。
『アサシンヴァイパー』であったあの頃に。
「へぇ…じゃあそっちに入って下さい」
至福の時間終了。
タマゴの中へ、強制的に押し込まれました。
意外とパワーがありおる…
流石ハイエルフ。物理的な力も向上しているのか。
(ところで、どんな夢見てたの?)
ともあれ、ただのエロい蛇と思われてはイカん。
気になるワードといえば見ていた夢だ。
このエルフ…もしかすると、あの子かもしれん。
「……蛇になってしまった夢です。妙に現実味があって。
長い間…続いていた気がします。
この大樹も…どこかで見たようなそんな気がして」
…マジですか?
記憶…残ってるの?
始祖竜といい、今回どうなってんの?
ねえ守護者? 本当にロード成功してるん?
―――確認
始祖竜ユミルはその膨大な魔力とご主人様との接触が影響したものと推測
蛇王アスピクは元よりご主人様と一つであった事で何度も経験済み
ハイエルフについては自らの鱗と『呪術』にて繋がりを得てしまった経緯が影響?
良く覚えていますこと…
そうですよ、ちょっとしたお楽しみのつもりだったのですよ。
忘れてましたけど。確かに…やった覚えがある。
もしかすると…他にもロード時に記憶が残っているとまではいかないまでも…
夢だったのかも…から確信を持つ存在が現れてくる可能性は否定できない。
敵視される恐れがある…ならばどうする?
ザッ―――
(ふ~ん。ちょっと確認だけど。1度目ね)
「はい。なんでしょう?」
(この大樹。元がなんだったかわかる?)
「分かりません…夢が覚める前に。それを見ていた気がするんです」
ザッ―――
(ふーん。ちょっと確認だけど。2度目ね)
「はい。なんでしょう?」
(この大樹。元がなんだったかわかる?)
「分かりません…夢が覚める前に。それを見ていた気がするんです」
ザッ―――
(ふーん。ちょっと確認だけど。1度目ね)
「はい。なんでしょう?」
(この大樹。元がなんだったかわかる?)
「分かりません…夢が覚める前に。それを見ていた気がするんです」
ザッ―――
(ふーん。ちょっと確認だけど。1度目ね)
「はい。なんでしょう?」
(この大樹。元がなんだったかは分からないんだね?)
「うーん。元がなんだかは…ちょっと分からないです」
ザッ―――
ザッ―――ザッ―――
ザッ―――ザッ―――ザッ―――
…んん? やっぱり記憶無いっぽいな。
一切の戸惑いは無いし、表情もずーっとほんわかしておる。
夢心地という訳でもなさそうだ。
これが演技だというのなら今の自分に見破る事は出来まい。
ちょっと前の自分であれば怪我をさせる。
簡単な拷問の後にさらには命を奪う等していたものの。
そんな行為での判断は、今の自分には出来ん。
…むしろやるべきか? 守護者よ?
―――確認
お好きにどうぞ
守護者としては胃袋の中で泣き叫ぶ声を所望します。
ところで始祖竜より何事か? と念が届いてますが。
おっと、ユミルは感じてたのね。
ちょっとした検証で問題が起きないようにしてただけだから心配いらないかな。
しかし守護者はそっちの気があったのか。
むしろ…癒しがこのハイエルフに向いてしまったから嫉妬してる?
―――確認
この程度であれば問題無い 細かい部分で勝手は覚えた
気にせず使っても良い だそうです
守護者への質問に関してはスルーします
…うーむ、守護者にはスルーされたか。
しかしこの程度でもユミルには察知されるか。
問題無いとも言われたし
今のところは気にしないで普段通り使い続けるとしよう。
それにしても…なんでハイエルフとやらになったんだ
この…なんというか元エルフさん?
もしかして…魔物であった事と関係してる?
眷属化中での記憶が夢であった…と感じている説が今の所。
一番しっくりくる。それ以外の理由が思いつかん。
(その夢、もしかしたら夢じゃなかったのかもね)
(ボクも似たような夢見ていたし)
ともあれ、話は続けてみよう。
一体どの程度まで覚えているのか。
その夢の話で共感してみれば少しは仲良くなれるかもしれないし。
かといって事情を全部把握された場合。
自分の立場が危うくなるだろう、とうい事は頭に入れておく。
「そうなんですか?…詳しくは思い出せないですけど。
この大樹のお陰で世界が…戻ったと………戻った?」
おっと…戻ったというワードで何かに早速反応しおった。
流石に認識させるのはまずい。方向習性せねばならんな。
(そうそう。この大樹が世界の毒素を浄化したとか)
簡単だ、実際やった事を伝えてやれば良い。
夢だと認識してるぐらいだ。どうせはっきりとは覚えてないだろう。
前世の経験で、多少ゴリ押した方が上手くいく系の子だった気がしたし。
「あ、それです。そんな感じでした。
闇に包まれた世界をどうにかしたっていう感じでした!」
という訳で食いつきました。
同じ夢を見ていた仲間って事にしておきましょう。
(そんな夢を見たから、この大樹を作れたのさ)
(でも新しい家にするには…ちょっと大きすぎたかな~)
まあこの辺はアドリブで。
正直。この大樹を拠点に活動しようとは思っていた。
『魔城作成』も機能するのであれば城を近場に構えようかと思ったのだが。
結果は見ての通りの犬小屋よ…
「…え?…え?…ええ?家ですか!?
そもそも、どうやって作ったんですか!?」
疑うことを知らないハイエルフちゃんは癒し。
前世でひどい事しちゃったな…ゴメンネ。
そう心の中で呟きつつも。
魔王への道を、また歩んでしまう可能性も否定できず。
自分って酷い奴だな…そう改めて思うのであった。
(それは秘密だよ~)
(ボクを見つけるなり、弓を構えて一撃必殺なんて言っちゃう子にはね~)
いっその事。一度ぐらい殺され返されても構わないと思ったりするも。
ロードを挟めば実際死んでいる訳でもなく。
相手側もこうして生きている。
なんとも人間的な感覚が自分には欠如してしまっているようだ。
便利スキルの弊害である。そんな自分の内情は露知らず。
ハイエルフの女の子はひたすらに純粋である。
今もこうして。あたふためくばかり?
「うっ…そうでした。謝ります…ごめんなさい
お話し出来るなんて思わず…」
今はただ、目の前のハイエルフが可愛い。
それだけを堪能する一匹の魔物がここにいる。
今後どうなるかなんて、もう考えないようにしよう。
変に考えると。変な方向に話が向いていく。
例えばこんな感じに。
(分かればよろしい。実はこの大樹を作り出したのには理由があって。)
(ボクの真の姿。みてみたい?)
「むむっ…みてみたいです!」
(それでは括目して見るが良い!これがボクの真の姿~)
「おおっ…本当に変身しました!」
(ユグドラシル・ティアなのでした~)
「か…可愛いです!」
一連の流れは何がどうしてこうなった? と我ながらに思う。
サーペントエッグで生き抜いて進化先を模索する。つもりだったのだが。
気がつけば、寝床にハイエルフがやってきて。
自分はユグドラシル・ティアとなっていた。
ハイエルフもノリノリである。
そんな彼女にこの姿を見てもらいたい!という思いが強かったのだろう。
後悔はしていない。流れとしても失敗はしてない筈だ!
でも…ランクAに分類される魔物。なんだよね。この姿。
怯えた様子は無い。むしろ可愛いと言われる。
さらに抱き寄せられた。そして自分は胸の中。
やはり、対話は重要だ。
魔物であっても仲良くなれる。
意思が通じないのが一番の問題なのだ。
(実はこの大樹はボクの誕生記念に作ったモノなのだー!)
「ほえー、そうだったのですか。
ユグドラシル・ティア…あれ。覚えがあります。」
(知っているのか?ハイエルフさん?)
「えーと確か…」
―――確認
『ユグドラシル・ティア』情報
世界樹の眷属 涙 朝露 そのような呼び名をもつ魔物
過去に世界の大半を自らの眷属とし 崩壊への道を歩ませた種
生けるもの全てを自らの眷属を含め世界樹に捧げ献身を続けたが
その存在は長くは続かずハイエルフに討伐されたという逸話が残る
追記:
ユグドラシル種は世界に4つまでが同時に存在出来ると記載されています
ご主人様も数に入っているようで別の姿をしていても
ユグドラシル種とされているようです
へえ…なんともまあ可愛い姿をしながらも恐ろしいコト。
しかもユグドラシル種…ですと?
つまり自分のようなユグドラシルなんとかっていう魔物が
この世界では他に3匹居るかもって事か。
そして…ハイエルフもその守護者が説明したことを。
知っていた。という事ですな。
…えーと。そのー。アレですね。はやまったかな?
「ランクA魔物…」
いかん、顔色が優れない。
癒しを失う訳にはいかない!
(えーと。ボクは良い魔物です。本当だよー!)
必死にアピール!
我ながらゴリ押し感は否めないが敵意だけはないとアピールせねば!
「………信じます。こうやって話せているんですから。信じます。」
信じられた!元より印象は悪くはなかった筈だったからね!
そんな過去の情報なんかよりも今目の前の自分をみるのだ!
世界を一度崩壊させた種ですけど。
今、目の前にいるこの自分は世界を一度崩壊させた魔物…でしたけど。
(本当?一撃必殺しない?)
そして唯一の攻め所をしっかりと責める
あまり虐めたくはないのだが
ココで攻め切らねば変に突っ込まれるかもしれぬ!
「はいっ。しないですから許して下さい!」
攻め切った!許しを乞われた!
やはり、可愛いは正義!許される!
(許す! えーと。ボクは【ヨルン】っていう名前があるんだ)
そして名乗ろう。
名前付き魔物となった自分の名前の使い所はココだ!
感謝しよう。アスピク…ユミル!
まさかこんなにも早く名乗れるとは思わなかった。
「えっ…はい。私は【エレナ】・エルミアと言います」
そして相手も名乗られた。信頼関係はそこそこに築けたようだ。
少なくても友好的な魔物ぐらいにまでは…持っていけただろう。
しかし…夢の中だと思ってるらしいけれど。
前回のあの…眷属化。
なんて体験をしながら魔物と仲良くなれると思えるなんて。
後光がさして見えそうなハイエルフという種族も合わさり。
女神に見えるわ、この子。
(じゃあ。ヨロシクね。エレナって呼んでいいのかい?)
という訳で早速呼びすて、魔物だし別に良いだろう。
相手からもヨルンで良いので相手から嫌がられなければそれで行く。
「良いですよ。友達からもそう呼ばれています。
ヨロシクね。【ヨルン】ちゃん?」
だが相手からはちゃん付けであった。
そうか、そうだよね。今の姿は小さいもん。可愛い系だもん。
こうやって胸元に抱きしめられる程度の存在さ。
ペット感覚だけど、それもまたおつなものである。
(ちゃん付け!…別にいいけどね~エレナちゃん?)
でもなんだか悔しいのでちゃん付けし返してみるが。
自分より大きな子をちゃん付けするのはなんとも抵抗がある。
「私にちゃん付けは許しません。エレナだけでいいです。」
へい、やっぱり許してくれないのね。
自分がランクAに分類される魔物だって分かってないのかな~?
なんて凄んで返しても見た目可愛いだけっぽいので諦めるとしよう。
(はいはい。分かりました。エレナ。そろそろ離してよー)
そして気がついた。
実はこの子、とんでもない馬鹿力じゃないかい?
この魔物の体でさえ、ちょっと息苦しさを感じてきた所だ。
もしかして…この力であの弓矢を受けてたら結構危なかったのではないか?
そのぐらい…力強い。下手したら首が…
胸の重圧にてへし折られそうなぐらいに。
「あっ、ごめんなさいです。力入っちゃいました?」
多分、自覚はないのだろうけれど。
ハイエルフって実は物凄く強い種なのではないか?
守護者がユグドラシル・ティアを討伐した種とも言っていたし。
(すっごい強かったよ? 岩ぐらい簡単に砕けそうだった)
今は…胸で岩が砕ける種。
それがハイエルフとだけ覚えておこう。
危うく甚大なダメージを受ける所であった。
恐ろしい種族だ…ハイエルフ。。。
「………え? ……え?私そんなに力は…」
(ハイエルフになっちゃった…って言ってたじゃない?)
(もしかして、力も強くなっちゃったのかも?)
魔物の自分にもそういう覚えはあるので気持ちは分からんでもない。
加減、難しいのよね。
自分は変身が出来る故に慣れたといえば慣れているのだが。
「うう…そうなんです。加減が効かなくて…さっきも猫耳さんが」
おっと、被害者は既にいた訳だ。
多分だけど、その猫耳さんって、アレの事だろうか。
前回…検証の為に食べてしまった覚えがあるので鮮明に覚えておる。
ちゃんと生きてたのね…素直にうれしい。
ちょっぴり気になっていたのよ。
可愛かったし、お陰でついつい物理的に食べてしまったのだが…。
こうして世界をやり直し、生きているのだ。許してね…
食べてしまった子はもう二度と戻ってきませんってならなくてよかった。
ロードにて世界を戻した後にても存在していませんなんてならずに…
ああ、でもユミルの事食べても戻ってたしそれはないか。うん。良かった。
記憶残ってないよね?…後で確認しおかねば。
(猫耳さん?)
でもエレナの前ではとぼけておこう。
実際名前も知らないし、嘘はついておらぬ。本当だ、知らないよ。そんな子。
我ながら白々しい。罪悪感が半端ないのは…やはり自分に悪の道は向いておらんという事か。
その道を突き進むと決心した場合はそうでもなかったのだが。
果たして、もう一度その道を歩むと決心した場合。
自分は…平然とまた世界を壊せるのだろうか。
その時は、今は止めてくれる存在は…
むしろまた協力されそうな子が居るじゃない?
その時はその時だ。なりゆきに任せてしまう系魔物だもん。
「えっと…猫耳さんっていうのは。
私の仲間の方でして。ココアちゃんっていうんです。
でも…ココアって、お店のメニューにもあるので。
宿の中で呼ぶ時は猫耳さんって呼んでいるのです」
そうかそうか、ココアちゃんっていう名前だったのか。
なんておいしそうな名前なんだ。じゅるり…
しかし今回の世界ではそのような事は起こらない筈です。
相手側から望まれでもしない限りは起こりませんよ。流石にね?
(ふーん、それでその猫耳さんに。もしかして。。。)
今回もまた酷い目にあってしまったのか。
その猫耳さんとやらは…どの世界でも酷い目にあってるように感じるよ。
スキルで『不幸属性』なんて天性で持ってたら可愛そうだな。
『幸運の卵』持ちの自分が傍にいてあげれば
少しはマシになるんだろうか?なんてね。
「背中をどーん…ってしちゃったら…
ほんとにドーンって飛んでいってしまって…」
うっわぁ…すっごい申し訳なさそうな顔してるよ。
この話題になったとたんに凄く分かりやすく落ち込んでおられる。
エレナは根っこからの良い子なんだね。自分とは大違いである。
どの程度飛ばされたかは分からないけど。
この力だ。相当な事が起きたに違いない。
(星座の一つになってしまわれたのね)
脳裏には空の彼方に吹っ飛び星となった。
そんなイメージを浮かばせての一言である。
冗談のつもりであるが、本気でやったら一体どうなる事やら?
「そこまでは行きませんでしたけど。怪我させちゃいました…」
現実的な想像するなら、壁に人型の穴が開いたとか。
崖から突き落としてしまった程度のレベルであろう。
いや、後者はその程度では済むレベルでもないか。
どの程度の怪我か分からないが。すごく…深刻そうな顔をしてらっしゃる。
お友達みたいだし、かなりその事で堪えてるのだろう。
(わざとじゃないんでしょ? 気にする事ないよ。友達なんでしょ?その子)
月並みであるが慰めよう。
誰かにそう言って貰えるのであれば少しは気持ちも紛れるであろう。
可愛い子には優しくである。それ以外にも優しくしよう。
とりあえず良し良し。なでなで。お顔もペロペロしちゃうの。
なんとも、くすぐったそうな顔をして喜んでいるので嬉しい限り。
今回の世界は…癒しを…とにかく癒しだ。それを邪魔されなければ。
自分は……この世界での自分は武力を行使する事はあるまい。
でも魔物である以上は。いや…考えまい。癒し以外は考えぬ。
「うん…そうです。猫耳さんも大丈夫とは言ってくれましたし。
でも…なんで私、ハイエルフになってしまったんでしょう?
此処にくれば…何か分かるかもしれないかなと思ってたんですけど。
あてが外れてしまいました…」
さて、ココまでじっくりと話したり考えたりとさせられたけれども。
この子、ハイエルフになった原因を探しにココまでやってきたんだったね。
どう考えても、自分の影響です…という考えにしか辿りつけないのよ。
ロードした直後にコレでしょう?
となれば自分の所為だ。確定的に明らかである。
それなら…自分がやるべき事は、決まっている。
(そうでもないと思うよ?)
「えっと…どういう事でしょう?」
(だって。ハイエルフになったのって最近だよね?)
「朝起きたらハイエルフでした!」
(そう。ボクも朝起きたらこの姿になれたんだ。)
「確かに同じです!」
(その時、結構な魔力で周囲が溢れたと思うんだ。)
「ふむふむ。」
(同じ夢を見ていたみたいだし。)
「そういえば。見ていました!」
(ユグドラシル・ティアについては知ってるんでしょ?)
「…文献でしか知りませんけど。世界樹に係わる魔物であるとは!」
(なら話は早いね。つまり。エレナは…)
「つまりは…」
(世界樹に選ばれた存在なんだよー!)
「そ…そうだったんですかー!」
勢いだけで話していましたが、嘘は言ってない。
朝起きたらこの姿にもなれるし。
世界樹にも選ばれた。つまり自分が選んだ…とも言える。
あとはこの説明で納得して貰えれば丸く収まるだろう。
「なんだかしっくりきました。
そうですよね、予想は間違ってませんでした!
ヨルンちゃんとも会えましたし…納得です!」
うむ、丸く収まりすぎたようだ。
自分がランクAに分類されていた魔物というのもあって説得力が備わっていたか。
なにせ世界に4つの個体しか存在できないらしいとかなんとか…
良く分からん種族…でもなんで4つまでなのだろう?
―――確認
正確には『世界樹干渉』のスキルを持つ個体が4つまでとされているようです
詳しい情報は不明 しかしご主人様が4つ目の個体である事は確認出来ました
現在はこれ以上の個体は増えない模様
なんと、4つ目にギリギリ舞い込めた訳か。
なんともまあ、運が良い事よ。
この能力…とんでもない力を感じているからね。
この世界で生き延びる為に、これ程頼もしいスキルはあるまい。
しかし種族の説明にあった『ユグドラシル・ティア』であるが。
世界樹へ奉仕し続けていた…だって?
―――確認
ご主人様に分かりやすく説明するのであれば
世界樹ラブ! この世の命は全て世界樹様に捧げます!
最後に自分の命も捧げて世界が平和になるのです!
そのような思想の持主だったようですが。
野望果たせず討伐されたのだけは確実と思われます。
おお、そりゃ分かりやすくてヤバイ個体だったようだ。
しかし守護者って。どっからその情報仕入れてるの?
―――確認
基本的に備わっているマニュアルより
適当に翻訳してなんとなくな感じで伝えています
『世界樹干渉』『ラプラス感応』のスキルにより作業効率が上がっています
守護者自身のレベルも上がっているので今のように伝える事も可能となりました
なるほど、そりゃ助かる。
基本的なマニュアルとは気になる所だが。
この世界とは今更ながらに一体…うぐぐぐ。。。
―――確認
先人達が残したスキルを取得しながら生き延びる世界
命尽きてもスキルは残る
世界が滅びてもスキルは残る
主に世界樹がそれ等を記憶
神と呼ばれるモノも世に現れる事があると記録に残る世界
ついでに守護者に備わるマニュアルもスキルの一つです
………ふむ。守護者よ。
……もしかして。
…自分達って。
―――確認
全ては推測です
ご主人様の中に存在するラプラスもスキルの一つ
世界樹に奉仕するも選択肢の一つ
ひたすらに生き延びるのも自由
世界が崩壊の危機に陥るのも珍しい事ではないようです
記録によれば守護者の知る限り8件 知る事が出来ました
後にじっくりお話ししますか?
そうしよう、今はエレナもいるからね。
守護者との長々としたお話は後にしよう。
「どうしました? ぼーっとしてたみたいですけど?」
やっぱり心配されていた。
守護者を相手にしている最中はなんというか。
周りから見ればぼーっと、考え事をしてるようにしか見えないのだろうし。
こうして他者が居る場合は控えねばならんね。
慣れねば。今までの対話相手が殆ど守護者だった弊害だ!
もっと輪を広げねば…ぼっち卒業するべし。
あの頃とは違うのだ!対話も出来る!がんばるのだ!
(えーと。ちょっと考え事してた。)
(なんとなくそれっぽいかなって。流れで言ってみたけど。)
(エレナがハイエルフになったのって。ボクの所為なのかなーって…)
と意気込んだ矢先に。
なんとなくテンションが下がっている自分がココに居た。
エレナが悪い訳でもなく、守護者が悪い訳でもなく。
単に気になる事が出来てしまったが故に。
癒しを求めるつもりだったが、別の目的も出来てしまった。
どちらを優先するべきか、選ばなければならない。
重大な分岐点だ…
「…ええと。別に悪い事でもないんですから。大丈夫ですよ!」
これが癒し。後光が見えるぐらいに気遣ってくれる女神の微笑み。
ハイエルフとは一体…
申し訳なさそうな…演技をすればこうしてやさしくしてくれる。
自分の中で罪悪感が癒しを上回っている瞬間でもある。
しかし…甘えて良いのか? と聞かれれば。やっぱり良い筈だ!
ただ…単に今は甘えたい気持ちよりも芽生えてしまった探求心が上回ってしまっている。
守護者の情報により、得た知識の所為だ。
癒しを得る為に、やんわり過ごすつもりだったけれど。
今回の世界はちょっと行動範囲を広げて動き回る事になるか。
人間の世界を堪能するのも、また少し後になりそうだ。
そうと決まれば悩みは吹っ切ろう。
(そう? なら良いんだけど)
とりあえずは此方も分かるか知らないけど。
自然な笑みを作ろう。
表情…蛇の表情ってなんだろう?
可愛く見えてるのかね?
鏡を前に確認したい、あの時試しておけばよかったな。
今は…エレナの反応だけが頼りであるな。
「ハイエルフなんて…私。なれるだなんて…思ってませんでしたし。
なんというか、まだ夢を見ているみたいで、実感が沸いていないだけで」
ともあれ、エレナも上の空。
まだまだ意識は夢の中という訳ね。
そうなれば、きっちりと夢から覚ませてあげねばならぬ。
そんな使命感を抱き、どうすれば良いかなと思いつくのは。
(猫耳さん吹っ飛ばしちゃうぐらいだもんね)
猫耳さんにドーンだったよねぇ、ココアちゃんっていう名前だったか。
いずれ面と向かってお話ししたいものだ。
仲良くなれるか分からないが。
その時が来れば、エレナを仲介役にお願いしよう。そうしよう。
「ああー…。言わないで下さい…気が重いです」
あらまあ。相当にヘコんでいるようだ。
心のメモにエレナとココアの関係は深いと残しておこう。
別に百合の花咲く展開は期待していない。
女性同士で仲が良いというのはそれだけで良いものだ。
後でじっくりと観察させて貰うとするよ。
そしてその間に自分が挟まれればそれだけで至福の時を過ごせるというもの。
その時がくるのを壊さぬよう、細心の注意を払わねば…
(ゴメンよ、だけど少なくても今は夢ではないと思うな~)
まずは謝ろう。悪気はない。何事も言葉に出すことが重要なのだ。
相手に伝わらねば意味がない。
言葉に出して尚、拒否されるのであれば…その時はその時で考えよう。
でもまあ、この程度、別に気楽に済むであろう内容だ。気にするこたぁない。
しかしその猫耳さん…一体どんな目にあったというのだ。
エレナの落ち込み具合…相当なものなのですが。
その様子は可愛らしくて弄りたい。
だけど、もう突っ込むのはやめておこう。
謝ったのだから。続けてしまえば口先だけの謝罪になるからね。
「うー。本当です。夢ではなさそうです。分かってますけど。」
あーあー。可愛い。これはもう。襲うしかない?
魔物だし。頭からガブガブと。マルカジリ。
という冗談交じりの思考も実際に行為に移しそうなので自制せねば。
しかし…そうこうしてるうちにも時は過ぎるものだ。
気がつけば日は傾いている。
談笑しながら時を過ごすには時間が経ち過ぎた。
自分はともかく、目の前のエレナはどうなる?
人間の感覚が良く分からない。
エレナはエルフ…というかハイエルフになってるが。
帰る?野営?当の本人は全然その辺気にしてないみたいだし
話しかけて確認しておかないとね。
(うんうん。そういう訳で今日はこの辺にしておく?)
(日が暮れたら夜の森は危ないよ?)
(エレナも大分強いとは思うけど夜中に出歩くのは関心しないな)
(それとも。ボクのお家に泊まっていくのかい?)
「そういえばそうでした。ついつい長く出歩いてしまって。
何も準備せずにここまで来てしまいました!」
(あらま。それはそれは。)
(ボクのような魔物に食べられたいのかな?)
(今晩の御飯はまだだから、ボクのお腹の中…空いてるよ?)
ふと守護者のあの言葉を思い出す。
胃袋の中で泣き叫ぶ声を所望します…あの言葉だ。
思い出してしまうと、その一言が後押しで…
理性が。自制心が。少し揺らぎ始めた。
だが…自分が求めているのは癒しだ。癒しを所望する!
ぐっ…と牙を噛みしめて気合を入れ直しながらエレナを見れば。
「ひい…ヨルンちゃん。。。そんな事言わないでください!
困りました…今からだと戻る前に日が暮れてしまいます…」
なんてこった。やっぱり何も考えてなかった。
一人でこんな場所に来るんだもん。
何の心配もしていなかったよ。
最終手段としては、自分が一日中守ってやるのも手だけど。
流石にそこまで過保護にしていたら…
自分の理性が持たないかもしれない。だって、自分魔物ですよ?
10年以上この姿でサバイバル生活です。
そんな中でもハイエルフなんて…食べた事ありませんし。
『セーブ&ロード』なんていうスキルがあるから食べちゃいそうだもん。
流石にそれはまずいと心の中で猛烈に拒否をしているのだけど。
やっぱり思ってしまうものは思ってしまうものなのだ。
それが魔物と呼ばれるモノの本能なのだろう。逆らえない事もないが。
今しばし…慣れる必要があるのだ。
時間が必要。今の自分には特に。
最終手段は…本当に『セーブ&ロード』にて食べちゃいました!
その後に世界ごと戻すから許してねコースだ…
一番それが楽なんだもの。
でも選びたくないので他の道を探すのだ。
(そういえばそうか)
(エレナ。空は飛べそうにないもんね)
(いや…というか、良くここまで来れたね)
(実は物凄く足速かったりする?)
「ええと。地面をこうやって。移動すれば早いんですよ。
なんだかハイエルフになったら、すぐに出来るようになっちゃいまして」
おお、エレナが滑るように移動しておる。
一体どうやっているのか。
地面とスレスレの所で宙に浮かんでいるのが確認できた。
これは…『元素魔法』の風属性か?…いや、何かと複合しているな。
結構な魔力を消費するようだが。これはこれは…気になる効果だ。
だがしかし。これではエレナが森を抜ける頃には真夜中であり。
むしろその魔法が気になる自分は思考が逸れて上の空。
(ほほ~。そんな移動方法が。今度真似してみようっと。)
(だけど。困ったね。良い方法は。)
(一晩此処で過ごすか。)
(それとも。)
ともあれ、そんな些細な魔法を覚えるのはまた今度だ。
一晩エレナと過ごすのも良いが。
極上の餌を前にずーっと…それを御預けの時間を過ごすのはなんとも危ない。
仕方あるまい。自分のスキルで今すぐ送り届ければ…大丈夫かな。
「何か、良い方法でも?」
(一緒に空を飛んで送って行ってあげる?)
「出来るのであれば、それで!」
(よし。挑戦してみよう!)
やはり、考えるよりはその場のノリと勢いだ。
思い立ったが今スグに。
構想整え上手く行くかもしれない予感に任せ準備を進める。
『龍の象徴』その背に広げ『触手』と『世界樹干渉』にて
即席の蔓の籠を作り上げる。
イメージとしては気球の籠!
バランスが取れ、持ち上げられるならこれでイケル!
あのエビルパイソンの巨体ですら『蛇王の象徴』で飛べたのだ。
あの頃よりも魔法の力に溢れる自分だ。
エルフの一人や二人、簡単に連れ去れるだろう。
(ちょっとお試し! 座れるかい?)
ちょっとドキドキする。
上手く行くか心配だ。
だけど…出来ない事はない筈だ。
作った籠に乗るように勧めてみる。
「なんか…凄いです!」
出来栄えは良いようだ。
女の子が一人乗ったぐらいでびくともしない。
問題点は落っこちたりしないか…そのぐらいなのだが。
イザとなれば触手で絡め取れば良い。
絵的に不味いかもしれんが問題あるまい。
(ちゃんと落ちないように…掴んでいてね?)
「よいしょ…大丈夫…のハズです!」
普通に乗った。拉致準備完了。
甘いお誘い。この時点で自分がその気であれば…
おっとイケナイ。真面目に運ばねば。
(それじゃ…いくよー?)
さて、飛べるかな。底が抜けたりする心配は無い筈だ。
このエルフの重量が規格外に重かったりするなら話は別ですが。
まずはやってみねば分かるまい。何事も挑戦だ!
翼を広げいざ飛翔!
「おお。ううう…ほんとに…飛んでます!」
まずはゆっくり。そして地面が遠くなり。ちょっぴり風が涼しく感じるが。
やっぱり空は気持ちが良い。順調だと思ったが。
なんともずっしりくるこの感覚。
………あ。ヤバイ。意外と重い。
「聞こえてます…やっぱり重いんですね。」
念を送ったつもりはないのだが聞こえていたようでした。
流石に籠の底が抜けるぐらいに重い訳でもなかったけど。
人間一人を持ち運ぶのにはちょっとばかり慣れが必要のようです。
(あっ…いや。エレナが重いんじゃなくて。細かい操作が!)
(重心が上手くいかなくて!)
言い訳上等!実際バランスが取り辛く調整が必要と判断し。
「はいっ! 分かりました! 何も言いません!」
怒ってる訳ではないようだけれど。もしかしてちょっぴり怖い?
(うん。集中させて! 方向こっちで良い?)
まあ帰り道が合ってるかだけは確認しよう。
大体の場所は前世の『脳内地図作製』にて見当がついている。
空を飛んでいけばまあ、夜にはなるが、なんとかなるだろう。
「あれ、説明した覚えはないんですけど。こっちで大丈夫です!」
眼下にはやっぱり木々が生い茂り。
どこまでも続いていそうなぐらいに地平線の彼方まで森である。
所々、崖だったり岩肌が見えたりするも。やっぱり大半が森である。
一部…前世では近寄らなかった異質な地形が見えるが。
今の自分であれば、それが何なのか。分かる気がする。
調べるべきだろう。『脳内地図作製』にてマーキングしておいてと。
(大体どっちから来てたか分かってたし。勘だよ勘。)
エレナも方角は大丈夫と言っている。
行く先に間違いはないだろう。
流石に…抱えて飛んでいる訳でもなく、ひと手間加えての空の旅。
人間側に目撃されても連れ去られてる!
すぐに助けねば! にはなるまい。多分。
「それにしても…本当に飛んでますよ…やっぱり夢を見ているんでしょうか私」
依然として夢心地、という訳でもなさそうだけど。
やっぱり人間が素で空を飛ぶなんて。夢っぽいよね。
魔法で空を飛んだりは出来ないのかね。
なんというかこう、町から町までひとっとびみたいな魔法とか。
それがあれば、こんな手間をかけて送り届ける必要もない訳で。
やっぱり妙に現実味がある魔法の世界であると感じてしまう。
(ふーん。夢だと思うなら。ボクに食べられてみるかい?)
(目が覚めるかも~?)
それにしても、気を抜くと意識が持っていかれます。
どうにも食べてしまいたい思考になってしまうのが魔物として困ってしまう所である。
ついつい口に出してしまいの恒例の蛇ジョークのつもりなのだが。
これで相手側がOKサインを出そうものならば本当に食べてしまう自信がある。
まあ、流石にそんな奇特な人間やエルフはおるまい。
「うー。ヨルンちゃん? そーいうの…やめてください! 怒りますよ!」
そして素直に怒られる。当たり前です。もっと怒って!
なんて願うも嫌われたくはないのでこの辺で。
(あっゴメン。でも食べられたくなったら言ってね)
(ハイエルフ…おいしそうなんだもん!)
そう思いながらも続けてしまう自分がいた。
あ、こりゃダメだ。もっと時間をおいて頭を冷やそう。
今は集中して運ぶ事だけに専念。変な事は考えるな自分!
「もう…やっぱり魔物なんですね…仲良くできませんよ?」
本当にゴメンナサイ。と心の中で謝るばかりである。
ちゃんと送り届けるから許してね!
(えー。仲良くなって頂戴! 冗談のつもりだったんだよ! うん)
「分かってますけど。他の人には。特に猫耳ちゃんには言わないように!」
(心得ました! ちゃんとボクの事、叱ってあげて下さい!)
「よろしい。許してあげます! 守れなかったら一撃必殺です!」
(は…ハイ! 分かったから。エレナ。そろそろ降りても良い?)
(これ以上、近寄ると流石に不味いでしょ?)
「そうですね。ヨルンちゃんの事。まだ知らない人ばっかりですし」
良かった、嫌われてはないね。
社交辞令で表面上のなんとやら。という訳でも無さそうだ。
がんばろう。理性的に行動せねば問題を起こしそうです。
今の状態では、まだまだ人間側には馴染めそうもない。
エレナの器が大きくて助かった。やっぱりこの子、女神だわ。
(暗くなっちゃったけど。この辺でいいかい?)
「うん。大丈夫。この辺なら危険な魔物も出ないと思うし」
(心配ならもうちょっと付いてくけど?)
「ヨルンちゃんの方が危ないと思います!」
(ごもっともです…今度会う時までなおしておきます…本当に許して。)
「…分かってますから。また会えるんですよね?」
(また会えるよ!…だけど今はこんな調子だからね)
そうして暫く会話が止まってしまった。
ふと夜空を見上げれば流れ星が一つ瞬いた。
願い事を3度、祈る事が出来れば願いが叶うなんて聞いたことがあるけれど。
そもそもに願う事なんて特になし。
自分の力のこの力があれば、前向きに行動してればなんとかなるものだからね。
どうしようもない壁にぶち当たった時。
そんな祈りを何かに向ける…あるのかな。今の自分に?
「ヨルンちゃん。良ければだけど。」
(なんだいエレナ?)
自分としては、このままエレナが帰ってしまうだけかと思っていた。
けれど、心のどこかで願っていたのかもしれない。
それとも今の流れ星にでも祈っていたのだろうか。
「私と一緒に…来ませんか?」
ザッ―――
自分の選択は。
悩む必要なんてない。
なあに、自分には…やり直す事が出来るのだ。
今は…。今の自分の選択は…
* * *
メモ1.ハイエルフは要注意 ロード後 記憶持ちかもしれない
メモ2.ロード後 ハイエルフはその日のうちにやってくる
メモ3.ハイエルフの胸は岩をも砕く




