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- 蛇のサバイバルの壱 -

序盤の展開に追加の話を割り込み投稿

特に他の話に影響が出ない程度の話ですが、矛盾点が見つかればその都度修正します

 蛇として生活する事の、早数日、もしくは1週間ぐらい?

 日にちの感覚なんてものはなく、その日その日を生き抜くのが精いっぱいな蛇です。

 まあ、死ぬ事なんて無いと理解しているのですが、

 普通に考えたら死ぬであろう場面に直面すれば、それはもう怖いの一言。


 どうやら蛇の体は限界を迎えたようだ。

 痛みが麻痺してしまい、麻痺したのだから体も動かない。

 動かないままに、尻尾から持ち上げられる蛇の体は何の抵抗も出来ずになすがまま。


 相対していたのは、2足歩行するデブった豚顔の魔物。

 多分だが、ファンタジー的な知識でオークなんて呼ばれているお馴染みな奴だろう。

 体格的に、それはもう今の自分では敵わないだろうと思ってはいたのだが、

 好奇心から観察を続け、見つかってしまい、今に至る。


 オークだし、デブだし、脂肪がプルンプルンしていたので鈍重だと思い、

 高を括って余裕を見せていたのが不味かった。 


 一度走り始めたら止まらないのなんの。

 初速は遅かったが、速度に乗り始めれば、直線距離で逃げる事敵わず。

 木々の合間を縫って逃げようにも、方向転換にその木を使って直角カーブまでする始末。


 コレは脂肪の塊なんかじゃあ無い。筋肉の宮だ。

 意を決して反撃に転じた所で、巻き付く噛みつくしか出来ない蛇に何が出来よう?

 例える所で毒も持たない、ちょっと大き目なアオダイショウが、マッチョな人間に挑んだ所で勝ち目なんてない。

 対抗策は何かないかと思うが、蛇となった自分に毒はあるのだろうか?


 一応噛みつく事には成功したのだが、別にこのオークに苦しむ様子は見られない。

 毒液を噴射する事も出来ないし、痛がらせる事が出来た程度だ。

 そう、痛がらせるのが関の山で、相手の体力が尽きる前に、こうして尻尾と頭を鷲掴みにされて、

 大口を開けたオークを見るに、今から毒を食べるぞなんていう雰囲気は微塵も感じられない。

 むしろ、既に被食体験を2度も済ませている蛇の自分は、実は美味しい部類に入っているのかもしれない。


 そういう訳でガブリとヤられてしまった訳で、自身の意識はソコで一旦途切れる事となった。


 目を覚ませば、体は元通り。

 蛇を美味しく頂いていた筈のオークの姿は一切見当たらない。

 あるのは、蛇の体を中心に広がる血溜まりだけだ。


 実演する事で、段々と理解してきたが、自分は自身を殺した相手を逆に食べてしまうようだ。

 何と言うか、お陰様でお腹が膨れている。意識してしまうと気分は満腹だ。

 さらにはレベルも上昇しているようで、一回り体が長くなっている事が確認出来る。

 つまりは身体能力的には強くなったとという事か?


 何度か死んでしまったこの身だが、体の調子は良好そのもの。

 良く動き、良く曲がる、元気な蛇の体の自分は今の所、マトモな物は何一つとして口にしていない。

 目的など今の今まで、特には何もなかったが、考えた末に自分は決めた。

 とりあえず何かを普通にお口から食べてみようと。


 ならばと即座に行動する蛇が自分である。


 つまりはそれ以外に何も考えず、行動した結果。

 岩だと思っていたら蜘蛛っぽい何かに不意を打たれ、

 そのでかい岩蜘蛛に体中を糸でぐるぐる巻きにされて連行されました。

 全く動けねえ。暗いし体中をチクチクされるし、酷い目に会った。

 さらに酷い目に会ったのは一家諸共、獲物である筈の蛇に呪い殺された事なんだろうけども。


 気を取り直して、慎重に行動する蛇は再び探索中なのだが、そもそも何が食べられる?

 蛇が食べるモノと言えば何だったか?


 タマゴ? 小動物? 鼠とか蛙辺り? 小鳥も食べるよな。

 基本的に肉食で、食べない時には半年ぐらい食べない事もあるとかなんとか。

 たかだか数日食べない程度で騒ぐ必要があるのだろうか?


 早くも決意が揺らぎだしたが、他にする事も無い。

 折角の野生生活なのだから、楽しめる内は楽しむべきだ。

 食料探して散策続け、ヘビイチゴ的な果物が目に入る。


 そういえば、ヘビイチゴって蛇が食べる物?

 ヘビイチゴを食べにくるその他の動物をヘビが食べる的な?


 結構な量の群生地を見つけた蛇は考える。


 暫く待ってみようと、身を隠す蛇。

 潜伏だ、スニークだ、動かなければ見つかり辛くなるのは野生の鉄則。

 だが自分の体は真っ白だ。さらには赤い線が体を走っていく現象が発生する時がある。

 もしかして、蛇なのに自分って隠れるのに向いていないんじゃないか?


 どうにかならないものかと意識を集中すれば、赤い線は点となり、尻尾の先に留まる事となる。

 要した時間は数十分。意外と簡単に問題は解決するものだ。


 後は蛇としては真っ白い、この体の色についてだが?

 白蛇は縁起が良いとは聞くが、野生の身としてはどうなのか?

 特に良い情報は聞いた事もなく、不利になる話しか聞いた事はないが、

 そもそもに種族的に元から白いのならば関係無いか。

 同種でもいれば、比べる事も出来るのだが?


 考えた所で今はどうにもならないので、とりあえずの所で今はヘビイチゴだ。

 お腹は空いていないので自分は食べる事無く、食べに来る何者かを待ち構えるのだ。

 潜伏を続ける蛇は、大地と一つになった気分で一夜を過ごす。


 夜中でも視界は良好で、意識を切り替えれば、熱を感知する器官が視界の代わりに働いてくれる。

 地を這う蛇の体は、大地の震動の一つ一つを感じ取り、生き物が近くを通れば、他の情報と合わせて正確な位置を導き出せる。

 これが、蛇の力なのかと満足し、楽しんでいた所で数日の時を過ごしてしまった。


 どうやら巨大な狼だとか、豚の魔物だとか、蛇の体を一呑みにするような怪鳥との遭遇率は低いらしい。

 ただただ平和にぼーっと過ごす数日を楽しんだ所で、そういえば結局何も食べてないなと考える蛇は、ふと気が付いた。


 ふむむ、近づいてくる音がするが、小動物ではないな。


 オーク程ではないし、人間程度かそれ以下の大きさ?

 動くべきか否か。下手に動いて見つかっても困る。

 しかし好奇心に負けて見てしまうのは、やり直しの効く自分だし、それは仕方のない事である。

 ゆっくりと、鎌首を上げて注意深く周囲を見渡す事の、ソレは間もなく視界に捉えられる事になった。


 耳が長く、鼻も長く、頭身低めであり、人間とも似た手足を持つが、肌の色は違っている。

 何となく筋肉質な肉体を持っているが、アレは妖精的な?

 というにはお世辞にも良い外見とは言えない、一目見ただけでゾッとするようなこの感覚は…。


 魔物であるな、それも今までに出会った魔物と比べるとすれば、アレ等よりは下位の魔物。

 少ない情報と、蛇の持つファンタジーな知識を当て嵌めて、思い当たる節があるとすればアレは…。


 ゴブリンか?


 殆どのファンタジー的なゲームにおいて、最弱。

 もしくは序盤の敵。イタズラ好きな妖精さん。繁殖力旺盛で人間も襲う系の何とやら。

 作品によっては世界を支配する程までに増長する可能性まで秘めたる、アレですかね?


 色々考えてみましたが、目の前のコレは一匹であり、その他の姿は見当たらない。

 そして周囲の常用を観察する蛇は、ゴブリンであろう魔物自体にも視界がある事を忘れていた。



 グギャッグギャッ、ケキャー!



 蛇は見つかってしまった。蛇は喋れない。

 ゴブリン側は、剣を振りかざしてヤル気満々だ。

 そう、奴は剣を持っている。

 錆びてはいるが、錆びているからにはつまり、アレは金属製の剣だ!


 そんなものを振り回してくる奴を相手に平和的な解決は見込めない。

 さらには何をしゃべているのかも分からず、自我があるのかすら分からない、

 それでいて、剣を振りながら走り寄って来るゴブリンを相手に取るべき対応は決まっている。


 戦闘だ! 戦闘開始だ!


 脳内で戦闘BGMを流す暇も無く、既に剣の間合いとなってしまう。

 逃げる選択肢は廃され、即座に対応が求められる距離。

 意識するなり、予想通りに振り下ろされる剣。

 予想通りだったので、横に移動する事の、タイミングはバッチリである。


 地面に突き刺さり、ゴブリンの頭部はそれに合わせて下がっている。

 攻撃するには絶好のチャンスであるこの機会。

 なんとなく、ぶん殴ってやりたい気分だったので、尻尾を使って攻撃してやろう。


 全身の筋肉を使い、力を込めて蛇は尻尾を突き出した。


 狙いは甘く、大雑把だったが、手応え有りのこの感覚。

 生暖かい感覚に尻尾が包まれ、次の瞬間に勢い良く持ち上げられる蛇の体。


 不味ったか!?


 戦闘ド素人の蛇の感覚では何が起こっているのかが分からず焦るばかり。

 体勢を整えようと体を巻き取れば、その後に響く金属音。

 思わず身を強張らせれば、ズプリと一層の事、尻尾が深くめり込むこの感覚。

 殴ったにしては、妙に生暖かい?


 その後にやってくる、落下の衝撃。

 特に痛くも無く、心地良い威力をその身に受けながら、蛇は跳ねる。

 跳ねて、跳んで、転がりはせずに3度目の衝撃で大地に根を張る蛇の体。


 体に問題が無いのを確認し、即座に落ち着きを取り戻した蛇の視界に入るは、

 顔面から前のめりに突っ伏すゴブリンの姿。


 崩れた体勢のまま、ピクリとも動かないゴブリンの様子を眺め続けて理解した。


 どうやら、自分はアレを殺ってしまったようだ。

 蛇の尻尾を見れば、体液塗れとなってヌルヌルしている訳でして、

 尻尾で殴ったつもりでいたら、その尻尾で突き刺してしまったらしい。

 それもゴブリンの喉元を一突きに奥まで貫通し、文字通りに一撃必殺してしまった訳だ。


 状況を理解してしまえば、緊張の糸が解けて、蛇の体も弛緩し、あらぬ方向に揺れ動く。

 それは歓喜の舞とでも言うべきか?

 傍から見れば何やってんだアイツと言われそうなぐらいに、何のとりとめもない動き。

 何らかの感情を表現しているのであろう事は、一目で分かる動きだった。


 満足の行くまで揺れ動いた蛇は、本当にゴブリンの動きが止まっている事を改めて確認する。

 尻尾で突っつき、鼻先で突っつき、その背に蛇の体を乗せて、高らかに頭を上げる。

 ゴブリン討伐完了。正当防衛である。罪悪感の欠片も何も、一切無し。

 あるのは喜びだけだが、その喜びも次の瞬間に消し飛ぶ事となる。


 コイツを食べるのか?


 人型だ。しかも臭い。不味そう、汚い。そもそもに自分より大きい。

 もしゃもしゃと地道に咀嚼するにも、時間が掛かりすぎる。

 かといって、自分が倒してしまったのだから、それだけで放置も可愛そうだ。


 意を決して、尻尾を突き刺した場所の傷口からガブリ。


 案外悪くない、モシャッ。

 食えない事は無い、ムシャッ。

 そもそもに味が無い、モッキュン。

 食感は最悪だが、プチプチ。

 全部食えそうにはないが、ゴッキュン。

 だがしかし、ペロペロ。

 胃とか腸っぽい所とか、モグモグ。

 その内容物は食いたかねーな、モグンッ。

 病気しても困るし、モキュモキュ。


 しかし量が多い。

 全部食いきれるか怪しい所で、優先して食べる部分を本能的に感じながら、この身に収める事の数分が経過した。

 心臓かなと思っていた部分が、石っぽくて硬かったが、噛みしめてみた所で甘い感じがしたので思わずごっくん。

 満たされた思いと共に、他の部分を食べる気がしなくなったので、どうしたものかと考える。


 その判断が、この場合は幸いしたのだろうか?


 違和感を感じた蛇は飛び退いた。

 大地が震動し、何かが迫りくる感覚を覚え、思わず身構える。

 

 次の瞬間に爆ぜる大地。宙に舞い上がる食べ残し。

 ぐちゃりと、飛び散る肉片に、地中から現れた長きモノ。


 一瞬、蛇の仲間かと錯覚しそうになったが、アレは別の生き物だ。

 一見しただけでも分かり易く、何んともまあ禍々しい姿だこと。

 頑張って可愛く表現してみるとすれば、あの部分とかはペンギンさんのお口の中と似てますね。


 一瞬ですり潰されたよ、あの食べ残し。 

 野生の世界では、早食いは必須技能。

 というか、人の獲物取ってんじゃねえよ…。

 むしろ蛇の獲物か。別にお腹空いてなかったから助かったと言えば助かったけど。


 お礼の一つでもしてあげるべきか?


 とはいえ、意思の疎通なんて出来る訳が無い。

 そして相手さんの長く伸びたその鎌首は、自分に向けられている。

 予想通りに捕捉されている訳でして、多分ですが次の獲物は自分なんですよね?


 つまり、蛇はまた襲われる訳だが、即座には始まらなかった。


 揺れる頭はお互いに。

 左に右に、タイミングを計り合う。

 仲間だよ、同じ体の長い仲間だよ?


 等と言う希望は次の瞬間捨て去った。


 滴る唾液。広がる口から覗く、大量の牙。

 その奥に広がる闇に到達する前に、獲物の命は絶たれるであろう量の牙は相手を恐怖させるに十分な威圧力。


 相手さんの種族は多分、なんとかワームとか付くのだろう。

 同じく体が長い物同士だが、似ても似つかぬその容貌。

 だけど何となく仲良くしたい気持ちは沸き上がるのだが…。


 牙がびっしり大口開けて、そのワームが向かってくる恐怖には敵わない!


 万が一に、ワーム側がスキンシップを図ろうと迫り寄って来ただけなのならばゴメンナサイ。

 心の中で叫びながら、ゴブリンを突き倒した尻尾攻撃を、反射的に繰り出した。


 しかし攻撃は外れてしまった。


 ワームの頭部を狙った蛇の尻尾攻撃は、見透かされたかのように、鎌首をするりと上げられ避けられる。

 バランスを崩した蛇の体は、尻尾に引っ張られつつに地を這った。

 でもまあ蛇なので、体が重なる程度では特に不都合はない。


 次なる行動は流れる様に、だけどワーム側も、上げた首を蛇に向けて勢いよく振り下ろす。

 つまりは噛みついて来る訳だが、蛇の自分の方が動きは素早かった。


 尻尾が外れても、こちらにだって牙はある。

 大地より掬いあげるように繰り出した蛇側の噛みつき攻撃は、

 見事にワームの喉元へ食らい付いたかの様に見えた。


 しかし攻撃はまた外れてしまった。


 ワームの口が、見事に割れた所為だ。

 具体的に言えば、4つに割れた。

 蛇の攻撃が原因でそうなった訳では無い。

 ワーム側の口は、元々がそういう構造だったのだ。


 それを理解した時、蛇の命は文字通りに砕かれる事となった。

 最期の言葉は、「もっと奥まで進ませろ」だったとか。



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