魔物を呼ぶ声
その後も魔法使いのおっちゃんが帰ってくる事はなかった。
心配したものの、おっちゃんも年だしなぁ。
まだまだ元気だが、どう転ぶか分からんし。
命の危険がある森だけど、別にそれが原因での心配はしていなかった。
実際、戦闘の腕前については…相当なものだったから。
何度か元素魔法のみで相手をしてもらった事があったが
軽くあしらわれるばかりで、どうにも例えがたい強さを持ってるのよね。
自分が未熟といえば未熟なのだろうが。
弱い筈は…ないよなぁ。と思うんだけど。
もう我が身は、動く家電製品とでも比喩できそうなぐらいに。
熱して冷やして整地して。室内換気もなんのその。
小さな畑も作れて、お薬ご用意。お掃除も元素魔法で楽々よん。
さらに料理も簡単なものだけど、見た目はともかく味は随分と上達したものだ。
そこまで考えて思いつく。
もしや、あのおっちゃん。自分をかゆい所に手が届く系魔物に鍛えぬいていたというのか!
なんてこった………底が見えないとは思っていたが。
育て方の方向性を、そういう方面へ向けられていたか。
なるほどな。…まあそれはそれで。
便利な能力を身につけさせてくれたし感謝だな。
なんて考えるも、こうも長期間の不在は心配である。
何かがあったんだろうなぁ、と思いつつも確認する術は無く。
天を仰げば、黒い雲が広がっていた。
んー、一雨降るかな。
言葉に出来ぬ不安が胸騒ぎを覚えるが。
時は既に遅し、なんていう蛇の直感がそう告げるのだ。
何が手遅れかは分からないが。
何か異常な事態が始まっているのだけは確かだった。
どこかで勇者と魔王が戦っている時の演出に巻き込まれた
一般人の気持ちって奴?
明らかに異常な速度で広がり続ける闇に、人間の心として恐怖を覚えるも。
魔物としての本能が、歓喜の感情を込み上げさせてくれる。
(こりゃあ。一体どうして、まったくもって見当がつかないぞ?)
ふと、あの場所に行かなければならない。
魔物としての本能が、次なる楽しみがそこにあると告げている。
(それなら、行くしかないよなぁ)
一体何が起こっているのかの興味もあり。
毎度毎度、この本能が知らせる何かに流れに身を任せている気がするが。
今回はちょいと派手すぎるんじゃないですか?
勇者さんが魔王討伐に失敗。もしくは悪落ちとか。
どっかの邪神が復活して魔物の時代が到来とか。
もしくは世界の終わりが間近に迫ってるとか。
そんな妄想が膨らみます。
本能が知らせる楽しみとやらはどうせ、ろくでもない事とは思いつつも。
興味があるなら行くしかあるまい。
長らく住んでいたこのアトリエともお別れか。
荷物を纏めて行くとしよう。
風呂敷包みを背に。戸締りしっかり。火の元確認。
さらば我が家よ。我が物顔で居候してしまったが。
誰も文句は言うモノはなかった。一切の問題はあるまい。
今後、この世界にて自分がココへ戻る事は無いだろう。
餞別に、おっちゃんが気に入っていた自作の『蛇王酒』とそのまんまの名前のお酒を寝床にこっそり置いておく。
もしもだが、RPGでいう勇者に相当する何者かが略奪しに来ようものなら。
アイテム欄に仕舞われるぐらいの品であるとは自負している。
まあ、その時はその時である。値段はいかほどになるかは気になる所よ。
ともあれ、これで出発の決意は固まった。
いざゆかん。魔物達を呼ぶ声に従い、その元凶へ。
アトリエを出れば、魔物達が我先にと誰もかれもが互いを無視し移動している。
元々自我の薄い魔物達だが、その隙に入り込むような。
いわゆる『呪術』系統の精神を操作する魔法にでもかかっているかのような狂いっぷりである。
勿論、自分もその影響を受けて、誘われるがままに向かう訳ではあるが。
他に比べれば自分の意思でどうこう出来る分、余裕がある。
歌とも似た、旋律が脳裏巡る感覚は、
なんとなく世界が闇に覆われた後の良くあるBGMにも聞こえるので。
ついつい、口ずさんでしまう。
こうなると、なんとなくではなく
それっぽく、はっきりと聞こえるBGMが欲しくなり。
鼻歌。口笛。どちらともつかないむしろ管楽器のような音を鳴らせる、
『スネークリング』の身体的な特徴で表現してみるのだ。
勿論、音感等無く、習った事もない程度の腕前なので、下手ではあるのだが。
音だけは綺麗である事を武器に、高ぶる気持ちを込め。旋律を奏でる。
(んー。やっぱり下手だな。哀愁は漂ってるけど。)
ともあれ、誰も聞いてないであろうし、一人満足するまで奏でていた。
―――確認 称号『魔物の吟遊詩人』を得ました
………あのう。下手なんですけど。やめてくれませんか?
―――確認 意外と様になってますよ
………ふぅむ、まあ良いけど。恥ずかしいものだ。
それもこれも『スネークリング』から出る音域にハズレが無い所為だろう。
別に何かを伝えてる訳ではないのだが。
脳裏に聞こえる旋律をそのまま
外界に聞こえる音として出してたに過ぎぬ訳で。
しかしなんとも。その影響かわからないが。
さらに魔物達が活性化してたのは気の所為ではないだろう。
何気に自分の後を付いてくる蛇達が隊列を組んでいる様は。
ちょっとした王様気分である。
まあ『蛇王』と名の付くスキルが多いのも影響してるかもしれないが。
森を抜ける頃にはちょっとした一個中隊レベルになっていた。
ずーっと付いてくるけど言う事聞いてくれるんかしらこいつ等。
蛇語なんて分からないんだよね。
ともあれ、他の魔物も多すぎて
この程度の軍勢が何を成せるのかも分からんし。
今まで一人だったので、逆に動き辛くなってしまったような気もする。
とはいえ、流れに身を任せるのが初見のスタイル。
付いてくる者拒まず。去るもの追わず。目的地は森の南側。
人々の暮らす国の城下町といった所であった。
城壁には囲まれているものの、既に内部に侵入されているようだ。
(まあ、予想はしてたが。)
(火の手が上がって悲鳴も聞こえて。持つのかねぇアレ。)
さーて、状況も分からんし方針を考えねばね。
軍師も居なけりゃ、兵の質も分からない。
即席の部下達引き連れ何を成す?
1.暴れるぜーシャッハー!
2.援軍ですよ ヒーローは遅れてやってくる!
3.喧嘩両成敗
まあ、アレだ。選択肢なんて出してみたものの。
状況全然分からないっていう。
普通に考えたら1。
2なんて論外。交流無いし、相手側からしても助けられると知る術がない。
そして無策に突っ込めば3になる可能性もある。
それにこの付いてきている蛇達、言う事聞くか分からんし。
でも仲間として付いてくるなら無駄死にさせたくないという思いもあるし。
なんだかんだで同族の仲間のような愛着もある。
ふぅむ…改めて自軍を『蛇王の知識』にて『解析』すると。
――――――――――――――――――――――――
ランクF- 種族名『リトルスネーク』 約50匹
ランクE 種族名『エルダースネーク』約30匹
ランクE- 種族名『ダークパイソン』 約20匹
ランクD 種族名『ソードヴァイパー』約30匹
ランクD- 種族名『べノムパイソン』 6匹
ランクC 種族名『エビルパイソン』 3匹
ランクC+ 種族名『アサシンヴァイパー』 2匹
――――――――――――――――――――――――
…さらりと混じる同ランク固体がいます。
……明らかに反逆されたら自分がやられる側なんですが。
………ていうかエルダースネークって、リトルスネークの進化系?
リトルからエルダーになるとか過程飛ばしすぎでしょう。
その他も例の種族の下位種族っぽいですし。
まあ、こいつ等が全員言う事聞いてくれるなら作戦も立てやすいんだけど。
どうして付いてきてるんだか。謎である。自分が『蛇王』だから?
それとも先程、歌っていた旋律に関係する事とか。
ともあれ、ぼーっとしていても始まらない。
思考できる時間は過ぎてしまった。
もはや門は目の前。
やるべきことは、情報収集。それ以外の目的は無い。
ここから先は戦場だ。未知のエリアだ。城下町!
いざゆかん!我に続けー!
ザッ!
ザッ!
………ほわい!
「蛇だ!蛇の大群がいるー!」
「またか!今度はなんだ!」
「蛇だよ蛇!なんだよありゃ!ランクCぐらいの奴も混じってるんじゃないか!」
「やべえよやべえよ!入り口に居座られたんじゃ、俺達じゃどうしようもねぇ!」
………開幕一歩でこれですか。足は無いけど一歩なのです。
「どうする?やるか?」
「いやいや数が多すぎるよありゃ。」
「同感、別の道を探すよお前等!」
………んー、見た感じ騎士様でもなけりゃ、一般人でもないような。
………冒険者の類だろーね。さって、どうしたもんか。
………どこかで見たような顔ぶれのような気もするし。
1.殺れ『アサシンヴァイパー』
2.無視
3.対話
まあ、物は試しで。
『視覚的呪術』を発動。
(おい お前等 この町どーなってるんだ?)
「…………」
「なんだありゃ………文字か?」
「なんだって良いよ早く逃げるよ馬鹿ども!」
「いやいや、待ってくださいって。」
「読めますよアレ。」
「んん?どういうこったい?」
「………」
「………」
「………」
まあ、文字故の弊害かな。
じっくり3人組みは凝視するその状況は、実に滑稽かな。
こいつ等、視界に入って間もないけど。
ドコと無く、アレな雰囲気がする。
男二人にリーダー格の女っぽいのが一人。
懐柔出来ればしめたものであるが。
「………」
「………」
「………」
いや、なんか喋れよ。
こっちの顔と文字をじっくり何度も見返すな。
(そっちの言葉は理解出来るから なんか話せ)
「ほわあ!」
「この蛇から文字が浮き出てやがる!」
「なになに、何なの!」
(別に襲う意思 今の所 無いから この町どうなってんの?)
「あぁ、いや。その。なんでしょう。」
「私達この町から逃げ出したいんですよ。」
「そうそう、この町もう駄目なんだ。そこ等じゅう魔物でいっぱいさ…って。」
「げえ!魔物と話せてる!私達!」
「もう駄目だー!おかあちゃーん!」
「アンタも魔物じゃないかい!」
………なんかめんどい。さっきの選択肢でヤってしまえば良かったかな。
(どうでもいい さっさと逃げるなり 食われるなりしろ)
「うげぇ!逃げます逃げます!」
「逃がしてくれるなら逃げます!」
「わ、分かったよ。逃げるから食わないでおくれ!」
………うんうん。それでいい。それでいい。
(ほら、道開けるから 気をつけてな)
「え、本当に逃がしてくれんの?」
「いいから、行くんだよウスノロ」
「ええと、恩にきるよ。蛇さん。あと、この町本当にヤバイからアンタも気をつけてね。」
(了解 外の魔物はこの町ばっかり狙ってるから逆に森の中に入るのも手だぞ)
(あと 食べられたくなったら 後ろのデカイのが涎垂らしてるから 歓迎な)
「げえぇー 食べられたくはないっす!」
「うっさいわ。はよいけはよ!小さいの踏むなよオイ!」
「ああ、肝に銘じとくよ。あと私はおいしくないから食うならそこの太っちょをね!」
うむ。なんだかこの3人の関係がなんとなく垣間見える会話である。
ともあれ、意外と話は通じるもんだと
『視覚的呪術』の有効性を確認出来たのは良し。
………アイツ等が例外なだけかもしれないけど
そんなこんなで我が物顔で蛇隊を引き連れ町を散策していた所。
見知った顔を発見してしまう。
住民の避難を促していたであろう人物が目に入る。
魔法使いのおっちゃんであった。
ついつい駆け寄りたくなるが
戦闘中らしく迂闊に近づけば敵とみなされ攻撃されてしまうかもしれない。
それに、この蛇の軍勢である。なんとも此方から近寄りがたい。
故に待っててくれとの意味を込めた鳴き声を発すると。
不思議な事に意思が通じたのか。
全ての蛇が隊列を組んで待つではないか。
ふぅむ。従順な蛇達だな。
関心するも、どこまで細かい命令を聞いてくれるのかと興味が沸く。
事実ココまでに来る間に『パイソン』組は死体を貪るわ。
『ヴァイパー』組は他の魔物を狩って回るわ。
『リトルスネーク』でさえ、他のFランク程度の魔物を圧倒していた。
実はこいつ等、森の中では相当強いんじゃないかと思うぐらいに一方的であった。
少なくてもココに来るまでに生きている人間は狩ってない。
なにせ、逃げ惑うばかりで近づくものがいないのだから
無理に追う必要も無いと一喝したのが理由か。
お陰で追い込み漁のように、中央の城壁内へと逃げてくれた。
依然と悲鳴らしき声は聞こえてくるが、それを目印に進軍するが故に魔物との戦闘が発生してしまっていた。
という訳でそんな進軍を続けていたが故に。
この再会が起きたのではないか。
一人でやってきた自分の目の前に魔法使いのおっちゃんが居る。
身振り手振りというか尻尾振り。普段の様子で話をかける。
(やあ おっちゃん 久しぶりだね)
「おまえさん…こっちに来とったんか………」
(なーんか 呼ばれた気がしてね)
「べ…別にワシは呼んだりしとらんぞ?」
(そう おっちゃんに呼ばれた訳じゃないんだ 多分 他の魔物と似たような理由でね)
「ふむぅ…ワシはおまえさんにだけは来てもらいたくなかったぞ…」
(それはどういうこと? 私を他の魔物と同じに 思ってるから?)
「そ…それはじゃな。町の様子をみたじゃろ。魔物の襲撃にあったんじゃ。
それにおまえさんが加担しているとあったら。ワシは…」
(おっちゃんは ボクと戦うのかい?)
「…………そうじゃ。ワシはこの町を守らねばならん。
だから。おまえさんとも戦わねばならなくなってしまう。
分かるじゃろ。だから…だから帰っておくれ。」
(そう おっちゃんは 帰れというんだね)
「うむ。それが良い。だから何事も無かったかのように森へお帰り…
ワシの事など忘れて…な。うぐっ…ふ。。。………っ」
おっちゃんの口元から赤い液体が垂れた。
血であろう。量は大したことは無い。
(おっちゃん?どうしたの?)
「なあに。ちょっとな。年甲斐も無く無茶したせいさ。
だからわしからのお願いだよ。森に帰って。
そうさな。新しい本を持っていくとするよ。
今度はな。魔法の本だけでなく…図鑑じゃよ。
時間がかかったのも他の国から取り寄せておってな。。。
ふぉっふぉっ………ほ……ほふっ。。。」
おっちゃんは戻ってくるつもりはあったんだね。
一体どうしてこうなったのか。自分の冷静ではない、頭では何も考えられなかった。
(おっちゃん!?おっちゃん!!?)
「なあに…おまえさんの顔をみて。。。
気が緩んでしまったのさ。少し。休んだらワシも帰るから。
家で待っておいてくれ。ワシも。。。そうじゃのう。
また…アレが飲みたいのう。。。」
(わかったよ おっちゃん だけど 約束は守ってな)
「勿論じゃとも。ワシをだれじゃと思っておる。
一度は魔術師ギルドの長ともなった男じゃぞ。そう簡単に死にはせぬわ!
公言した約束を違えるほど…老いぼれて等おらぬ!
ぬわっはっはっはー! ふぅ…。はぁ…。」
只者ではないとは思っていたが。まさか元ギルド長だったとはね。
元気そうだし、すぐに死ぬような様子でもない。
(じゃあさ これだけ渡しておくね)
そんな様子なら、大丈夫だ。
自分はお手製の回復薬の詰まった風呂敷を差し出し振り返る。
蛇の軍勢もそろそろ痺れを切らして落ち着かなくなっている。
「んん、なんじゃこれは?
ほうほう。ほほう。ふむ。ありがたいのう。
これで、本当に約束が守れそうじゃ。おまえさん。。。ありがとな。」
(おっちゃん 死なないように)
「ふん。。。生意気じゃのう。」
(ああ そうだ 忘れてた 自分 帰る気ないから)
「…なんじゃと? …さっきも言ったじゃろう。」
(折角来たから 観光してくの)
「…あのな分かるじゃろ。今は魔物の。」
(魔物が闊歩してる今しか 観光できないじゃん?)
「…あ、その…。な? お主も魔物なんじゃよ?」
(ああ 忘れてた ボクも魔物だったね)
「ああ…気が抜けるのぅ。。。ワシが死んだらおまえさんのせいじゃ…」
(ゴメンよ おっちゃん 最後のは冗談のつもり)
「まあいいわい。本当に帰るのじゃよ。
騎士様に見つかったら問答無用で攻撃されるのじゃから…」
(はいはい かえりますよーだ)
「まったく、興味が尽きんわい。
おかげさんで少しはがんばれそうじゃ。
まだまだ死ぬには早かったわ…」
* * *
魔法やスキルを使えば。
食べ物に火を通したりも。掃除機にも空気清浄機にもなれて。
掘削機にも飲料水製造したり色々と出来てしまうようです。




