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気遣う蛇

誤字報告してくださった方々へ、ありがとうございます

「大丈夫? 箱は~、アドラは 生きてる?」

 ヨルンは帰還用のポータルを完成させた後に、恐る恐る口に出して聞いてみる。

 何故恐れるのかと聞かれたら、既にお亡くなりになっていましたとか勘弁ですもの。

 危ない時には、この場で即時治療する事も視野に入れ、箱を叩いてみるが反応はない。

 なのでネーサンの返事を待ちつつ、触手をポータルに通して安全確認。


「どうせ運ぶんだから静かな方が早く済むわ」

 一応は生かしておくつもりらしいネーサンの言葉を聞いて、

 安心したヨルンは、ぶっとい数本の針が刺さったままの箱をその背に乗せた。

 箱なだけあって、その重量は相当な物だったが持てない事はない。

 ズッシリと圧し掛かる箱の重さは見た目以上で地面に沈みそうになっている。

 おかげ様で、蛇の体が潰れかかったので気合を入れて運びましょう。

 気合を入れるついでに、なんだか重さの具合が妙だなと観察もしてみれば、

 ネーサンが送り出したっていう、爆弾虫まで箱に引っ付いてましたよ。

 さらに重量増してるじゃないですか。こいつ等、見た目の割に重いんですよね。


「ああ、その爆弾虫は麻痺に睡眠、石化に耐性弱化だから相当に視界が悪くなるわよ」


 爆弾虫を見つめていた所、ネーサンからありがたい説明がやってきました。

 これ等は各所世界で良くある状態異常の詰め合わせですな。

 そして、どれもこれもがイヤらしい、行動不能にしてしまう系のが殆どです。

 しかしそんな情報は元より知っているし今はどうでも良い事である。


「聞きたかったのはそうじゃなくてだ。結構重いのだコイツ」 


 素直に重いと訴えるヨルンは体を震わせる。

 重量感溢れる音を立て、箱と虫達も合わせて揺れれば有害なガスも出る。

 単純に臭いとも言えない変な匂いは爆発虫の影響である。

 衝撃を受けると爆発する虫の出すガスは、簡単にどうにかなる訳でもなく、まあこの程度なら全然大丈夫。

 もし爆発したとしても、背負った箱が甚大な被害を受ける可能性があるぐらいですかね。


「蹴り飛ばせば良いのよそんな奴」


 少なくともネーサンが蹴り飛ばしたら、箱はともかく爆発虫は盛大に爆発しそうだ。

 そもそもに、その蹴り自体が箱への止めになる可能性もある訳ですが。


「蛇に足は無いのだという突っ込みをしたら、ネーサンが代わりに蹴りそう。

 瀕死の箱に、そんな事したら、バラバラになっちゃいそうだからやっちゃダメだよ」


 蛇ノルマを達成しつつ、ネーサンに蹴らせる訳にはいかないと宥めておいた。

 対するネーサンはその辺の岩っころを蹴り飛ばして破砕する。

 蹴り飛ばすのではなく、蹴り砕いているのです。身の丈を超すぐらいの大岩を。

 その大岩が箱のアドラ代わりですよと言わんばかりに、ご機嫌斜めですね。


「そんなヤワじゃないと思うけど?

 ソイツも私達と同じ類のでしょ。ノリも良いし、きっと大丈夫よ」


 まあネーサンも本気で箱をスクラップにしよう等とは考えてはいまい。

 かといってやっちゃえネーサンと、ヨルンが肯定すれば遠慮なくやるだろうけれども。


「でも蹴り飛ばすって、ダンジョンの外に追い出す時のアレなイメージ」


 そんなこんなで不穏な会話を続けたら、何かの拍子にヤッちゃいそうなので話題を変更。


「アドラ、ダンジョンの墜落に巻き込まれ、倒れるで記録お願いするのサ」


 どうやらこのアドラという箱は、どうにも普通の箱とは違うらしい。

 返事があったという事は、体に問題ない様子だし、なによりその返し方が特殊である。


「お、生きてた。挑戦者用のダンジョン用番付けでも考えとこうかな。

 とりあえずお早い復帰で何より。ネーサンには気を付けてね。ブラック企業主だから」

「それはヨルンちゃんが働きたい言うから、周りの皆も休み無しに働くのよ。

 そんな事より、今度も可愛いだなんて言ったら、鍵穴に濃縮デスソースぶち込むわよ?」


 そんな返しをしながら、どこからともなく取り出した、ネーサンのお手製濃縮デスソース。

 何というか、魔族には好評の調味料。人間達も一部の者達が好む。

 それはとてつもなく辛い、それ以外は特に何の変哲もないソースである。

 なんで持ち歩いてるのかと不思議になったが、ネーサンの持ち物は、ヨルンと同じに底無しだ。

 今のように脅しにも使えるぐらいの辛さなので、特に何の不思議でもないなと納得したヨルンは、

 デスソースを一本貰い、試しにチューブよりひりだしたソースを舌に垂らして頂いた。

 うーん、辛い! とてつもなく~辛い!!!

 火を噴く程に辛いという事で、ヨルンは口から火炎を放射状に巻き散らす。


「ああソレ大好きなんで、可愛い子からの差し入れだったら大歓迎サァ~」


 との事なので、ネーサンは容赦なく、アドラの鍵穴にデスソースをぶち込んだ。

 勿論、ぴゅぴゅぴゅのぴゅ~っと、容器の中身を盛大に。

 その後に余ったソースをヨルンはしゃぶり尽くした訳だけども、まだまだ在庫はあるようです。

 ソース色に真っ赤に染まる蛇と、身もだえして暴れているようにも感じる箱が発生し。

 やがて大人しく、叫び声とも似た声も無くなり、

 ただの箱となったアドラだったが、ヨルンも辛さで喋れない。

 まあソースなんで単品で頂くものでもないですし。


「馬鹿な事やってないでさっさとポータル潜る」


 そんなこんなで馬鹿騒ぎを終わりにしてポータルを潜ればあら不思議。

 不思議がありすぎて思考が停止してしまいました。

 流石のネーサンもポータルを潜った後の状況には言葉を失ったようで、ヨルンを睨みつけてきましたね。


 ですがそれは間違っております。

 ヨルンも全く分からず、何をどうしてこんな状況なのか、説明を求みます。


「やっほー、ヨルン。ボク達も宇宙行くからね」

「唐突でスマンが、我等も用事が出来てな。丁度良いので同行させて貰う事になった

 守護者には先程話を通したが、ヨルンは問題無いか?」


 という訳で、目の前に居座る巨大な竜達が説明してくれました。

 その竜達は、フィンブルとレヴァンテイン。2体の始祖竜だった。

 何故彼等がやってきたのか、皆目見当がつかなかったので、話を詳しく聞きたい所。


 しかし今は瀕死であろう箱のアドラの救護が先である。

 好き勝手に弄ってしまった気がするのでソレだけはしっかりやっておきたい。

 なので同行する分には問題はないとヨルンは答え、

 始祖竜達への挨拶も程々に、ヨルンは医療施設へ運ぼうとしたのだが。


「アドラはこっちで預かるよ~」

「その程度なら問題無さそうだが、何をどうしてそのような状態となったのだ?」


 どうやらこの箱、アドラと始祖竜組は、お知り合いだったようだ。

 その知り合いの状態を良く観察してみると。


 箱の様子は見るからにボロボロだ。

 すり傷、ヒビ割れ、穴だらけ。さらには赤黒い、辛みのあるソースが滴っている。

 外見だけで判断するならば、相当にヤバそうだ。

 特に血を連想させる赤黒いソースが違う意味で一つのスパイスとなっていた。


「赤いのはネーサン特性調味料のデスソースである。気付けに一発?」

 何となく気になっているようなので丸ごと一本、お裾分けをしてみました。

 ネーサンとしてもデスソースは在庫が余る一方なので、何も気にする必要なく大盤振る舞いだ。


「どれどれ、ペローン。

 ………、ぐえっ! なにコレ。辛すぎ?

 チーズたっぷりのピザにでも付けて食べようかな~」

「口の中で銀河が広がるぞ。途方もない辛さ…。

 我はもう少し辛さを抑えた物の方が好みだな」


 そしてほんの少しだけの量を、早速味見した両名は味の感想を述べた。

 そこそこに気に入ってはくれたらしい。

 ついでにアドラには、そのチューブの半分以上を鍵穴からぶち込んだ事も説明しました。

 すると、竜達の視線はアドラに向けられ、箱を開けるとデスソースを取り除く作業が行われる。


 そんな様子を見て、ヨルン達はノリと勢いで酷い事をしてしまったような気がしないでもない。

 元々がボロボロだった箱に、針を刺してはデスソースを注ぎ込む。

 考えてみたが、半分以上がネーサンの所業だった。


「まあアドラが助かるんなら預けるよ」

「身元は保証って事で良いの?」


 なのでこれ以上の阻喪が無いよう、アドラは預けておこうと話を進めます。 

 ネーサンとしても、知っている者との繋がりがあるならばと、アドラに対する警戒心を、少しは緩めたようだ。


「うん。アドラの事は知ってるし、間違いないから保証するよ。

 ヨルンみたいな奴だから仲良くは出来るんじゃない?」

「あの辛さを根に持ってなければ良いがな。

 それは兎も角、目を覚まして貰わんと事情も聞けん」


 という訳で、箱のアドラは現在は気絶中。

 その気絶状態とは言っても、デスソースの辛さでそうなった程度の事。

 ならばちょっとしたきっかけで起きるのではないかと思ったが。


「起きてるゾ。まだ口んナカ、ピリピリするけどナ」


 どうやら既に起きていた模様。

 箱が開くと、中から粘性の人型上半身が現れましたね。


「箱の中身が現れた。今度は甘い饅頭でも食べるかい?」


 でもまあ、シルエットだけなら人型というだけで、人間とは呼べない姿である。

 ある程度の姿形は自由に変えられるので人型を取っているんですかね~?

 疑問に思って色々と聞きたくなってきましたが、先ずは治療が優先である。

 目を覚ましたのだからスキンシップだと、スイッチの入ったヨルン達の行動は早い。

 ヨルンとネーサンは中身を見せたアドラの状態を観察し、饅頭を差し入れながら触診もする。


「生暖かい。ミミック系の触手は肉厚~」

「というかユグドラ饅頭は、一つ白金貨一枚よ。

 あと動かないでね。下手に動くと体がバラバラになるから。今は施術中だし」

「蛇が箱の中にイ! しかも饅頭でお金とる! さらにぼったくり!

 そして何されてんの自分! 体が動かないのサ!?」


 どさくさに紛れて触手を堪能したヨルンは、得られた状態をネーサンに報告する。

 ネーサン側でも箱に纏わりつきながら診断をしていたので、アドラの状態はほぼほぼ把握。

 始祖竜組もアドラに関しては面白そうに眺めている。

 満足行くまで楽しんだ、ヨルン達の出した診断結果は。


「ぼったくりでもないんだけどね。調べてみたけど、特に重症って訳でもないし、

 このユグドラ饅頭を食べれば全快する程度。まあ今回はタダで良いわよ。

 色々と見させて貰ったしサービスしとくわ。また饅頭が欲しくなったらお店で買いなさい」

「不思議そうな顔してるから説明するけど。

 その饅頭、所謂エリクサーとかそのレベルの回復効果があるよ。

 甘くて美味しい、ふっくらプニプニお饅頭。

 ただし、食べ過ぎると死んじゃうかもしれないぐらいの効果なので注意ね」


 饅頭食べとけば直ぐに全快するだろう。

 そうでなくても良い物食べて、休んでれば治る。むしろ直る?

 上位な魔族ですし、死ななけりゃ大体そうなるんですけどね。

 ヨルンが調べていたのは、単純に部位が欠損していないか。

 変な魔法的な効果を受けて治癒能力を阻害されていないかといった所。

 ネーサン側は解剖する勢いで、アドラの体を引き裂いては治してを繰り返してましたね。

 それ等の行為は、饅頭に意識を向けさせてしまいましょう作戦で誤魔化す事にした。


「そういえば、フィンブルとレヴァンテインも宇宙に来るらしいけど、アドラも来るんだよね?」


 そしてさらに誤魔化す事の、宇宙行きを改めて口に出す。


「饅頭ウメェ…じゃなくて、一体ナニサレタ…って、えっと。

 宇宙に戻れる…? こんな直ぐに? いや、こんな事出来る奴等だし、始祖竜達が目の前に居るシ…ブツブツ」


 ヨルンの言葉と頷く竜の双頭を前に、思考が追い付かないのか独り言を呟くアドラ。

 不安がるアドラを観察するのも良いですが、優しいヨルンは気遣いを忘れません。


「出発は明日だよ。別に遅らせても良いけど、そこはアドラ次第だね。

 宇宙から降ってきたんだもん、色々と話も聞きたいし、何よりアドラは休んだ方が良いんじゃない?」


 アドラを心配しつつ、天使の様に優しいヨルンは文字通りの天使の羽を生やしてみるが、

 生やしてしまうとネーサンの暇潰しに毟られるのが日常だったりもする。

 蛇だもの、余分な物はいらんのですよ。羽が無くとも魔法の力で空は飛べますし。

 天使よりも悪魔でしょうと突っ込まれるのも何時もの事。

 早速というべきか、ヨルンの羽は毟られて、皮膜を生やして遊んでみれば、箱のアドラは再起動。


「いいや、また宇宙に行けるんなら、直ぐにでも連れてって欲しいのサ」


 決意の籠った意思を感じたヨルンは、何かしらの事情があるのだろうと察し、

 なるべく早く出発しようと、守護者各員に指示を出す。


「んむ、分かった。それなら予定通りに明日、皆が揃い次第出発だ。

 ネーサンも出発前の最終確認を。ヨルンも物資の再調整を行っておくよ」


 こうしてヨルン達は、新しい仲間を加えて宇宙に旅立つ事にした。

 信用出来るかと聞かれれば、始祖竜達がアドラの事を知っているようなので良しとしました。

 詳しい話を聞きながら理解を深めて行けば良いので気にしない。

 考える限りにはメリットの方が大きいのだから友好的に行くのは間違いではないだろう。

 先駆者の知識を引き出せるチャンスを手に入れたヨルンは考える。

 箱に穴を開けたり、デスソースをぶち込んだり、解剖行為を行ったネーサンの様子は何となく変だった。

 しかし、アレ等の行動はある意味で平常運転でもあり、ネーサンと親しい者に行われるじゃれ合いの範疇である。

 もしかすると、アドラとネーサンは既に互いを知っていた?

 考えてみても、特にそれ以上に何かが思いつく訳でも無し。

 突っ込んで聞くべきか否かと、ネーサンに視線を向ければ合図が一つやってくる。

 その合図の意味は、後で私の部屋に来い。どうやら内密なお話あるようだった。



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