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オレ オマエラ ミナゴロシ

 森の中を掻き分け風が吹いてくる

 後に残るは何者かが通り過ぎて出来たであろう獣道

 魔物がひしめくこの森は未開拓の新天地

 冒険者は知っている

 魔物の住処に踏み入る事は彼等を敵に回す行為であると

 冒険者は理解している

 魔物の恐ろしさをその身に感じて

 それならば逆はどうだろう

 もしも彼等魔物が我等人間の住処に攻め入って来たとしたら

 我等は魔物達のその全てを受け止めきれるのだろうか

 魔物達は知っている

 人間達の脆弱さを

 そして人間達の恐ろしさも



 森を監視する役割を受け持つエルフの男たちが居た。

 冒険者と思われる3人組のパーティが机を囲い酒盛りをしていた。


 森の幸をふんだんに使った鍋をエルフの女性が運ぶ様子が伺えた。

 彼等エルフは森を監視し異常があれば首都へと伝える役割を持つ者達の集まりである。


 冒険者達は森への挑戦者であろう者達だ。

 あるものは自らの腕前を試す為。

 あるものは富を得る為に。

 あるものはただの好奇心でやってくる。


 この広大な森はそういった未開の地が大半であり。

 今もまだ、彼等人間達には価値がある場所なのだ。



 冒険者ギルドには様々な種族が出入りする。

 中には魔物のような姿をする者も居るが彼等はれっきとした人間だ。


 狼や豹のような顔をした人型の毛むくじゃら。

 他の種に比べれば数は少ないものの少なからず冒険者として活動している彼等は獣人族として登録されている。


 他に目立つ所で酒盛りをしている小柄で筋肉質なドワーフといった種族もちらほら見受けられる。

 そんな他種族が入り混じる建物内だが、やはり一番多いのは人間であった。

 探究心が豊富で尚且つ冒険者の心得が深い彼等が冒険者ギルドを立ち上げ世界へと浸透させたのだから。


 魔物の危険度をランク付けしたのも冒険者ギルドによる調査の結果であり功績を目に見えて分かりやすくしたものである。

 世俗からの評価は高いのではあるが、あくまで全体的な指標の為、冒険者達には鵜呑みせず自らの目で確かめて欲しいと念は押されている。


 冒険者を名乗る者達も、ランクを表す装飾品が支給される。

 実用性は無いが冒険者達の向上心を高める為に目に見える形での証があれば良いと考えられる為だ。


 事実、そういった制度を加えた頃合からの冒険者の生存率が高くなったと評価は高い。

 身の丈に合う相手を選び、危険な相手とは関わらずを徹底させているという点もある。


 しかし、それでも予想外の事態とは常々発生するものだ。

 冒険者ギルドはそういった予想外の報告を受けるたびに、どの程度までが真実か見極める使命がある。


 そしてこの森への中継地点である、『蛇の通り道』と呼ばれる一つの宿にて冒険者ギルドの頭を悩ませる出来事がまた一つ起きてしまうのであった。



   *   *   *



 感覚を高め、集中し、既に2週間が経過した。

 スキル『脳内地図作成』にて黒塗りとなっている部分を全て埋めるべく。

 戦闘時に休憩は挟んだものの、睡眠等はせず2週間も続けて走っても全然疲れを感じさせない体とは。

 人間の頃に欲しかったと常々思う。



 それはそうと、気になる物が見えた。

 あれは人間の作った建物のようにも見え、

 人のような気配も多数、『熱源感知』にて数も確認済み。

 前回の『エビルパイソン』時にも冒険者らしき者が森を散策している様子を確認出来ている。

 ああいった場所を拠点として彼等は活動しているのだろう。

 尤も『エビルパイソン』の時は相手側が逃げるわ逃げるわ。

 追うとしても巨体故に疲れるわでその時の交流は諦めていた。



 他にも建物で言えば、古びた建物がもう一つ。

 マッピングを優先していたので中に入る事はしなかったが。

 今後の方針に加えるには十分すぎる要素の一つである。



 そしてマッピングにて理解できた事がさらにもう一つ。

 森の切れ目が南側で確認出来た事だ。

 もしかするとその先に人間達の町等もあるかもしれない。


 例の建物も大体その近辺に集中していたし。

 これは調べる価値がありそうだ。


 だがアプローチの仕方は?

 とりあえず腕前の確認の為にミナゴロシという手も選択肢には入るが。

 なるべくなら、そんな物騒な手は使いたくはない。



 とはいうものの、そろそろ我慢出来なくなって来た頃合だ。

 あの真新しい建物。人間達の様子を間近で確認するのも良いだろう。


 そうと決まれば狩りと散策は一端終了。

 小休憩としようじゃないか。



 ふぅ…気を抜けば、そこそこ疲れては居るようだった。

 怠惰感が身を包み、程よく心地良い眠りにでもつけそうな感覚を覚える。

 しかし眠るにはまだ早い。気になる事を前にして休んではいられない。

 ともあれ、気分転換をする機会が出来て僥倖であった。

 では、行ってみようぞ、謎の建物。



・『暗殺者』発動



 スキルの発動を確認し、慎重にルートを模索。

 『暗殺者』は『スニーク』が進化したもので。

 進化前の能力にプラスして不意打ちによるダメージボーナスが付くとかなんとか。

 ようは上位互換に進化したので意識せずとも良い訳だ。

 語呂的に気に入ってたんだけどね『スニーク』まあスキル欄だと『隠密』だったけど。


 そうして到着。外には見張りが数名。

 ぱっと見ればエルフ女性に男性に。

 その他数名の装備に身を固めた冒険者が森の様子を伺っている。


 何やら会話もしているようだが理解は出来ず。

 続けて建物の中を覗いてみよう。


 なんの苦もなく覗く事に成功。ダイス運はよろしいようだ。

 別に転がしてなんかはいないが、雰囲気的にはそんな所よ。

 彼等の種族を見ていると良くあるファンタジーなTRPGの世界を覗いている気になり、

 ゲーム感覚の抜けきらぬ自分の感性が高ぶり、気分が高揚してきます。


 無論見つかれば、自分は討伐対象となってしまうだろう。

 見つかってしまったらであるが。


 ボクは悪い蛇じゃないよ。フシャーフシャー。


 と言った所で説得力はあるまい。

 言葉も喋れないのでどちらにしろ、考えるだけ無意味である。


 そもそもこんな場所でヘマをしているようでは『アサシンヴァイパー』の名が廃る。

 見つかるのであれば、彼等に驚かせる行為の一つや二つをしでかしてからだ。


 まあ、今はともかく観察だ。観察。

 彼等は何をしているのかなー。


 見た所、アレですな。

 冒険者の宿。という事は森を探索する為にの準備している所?

 もしくは中継地点とか、道具屋さんは居るのかなー。

 お酒なんかもあるのかなー、なんか飲んでる人がいるし。



 そして~そしての~、進入成功。

 ザル警備であったな。フッシャッシャー♪

 でも自分が警備側だったとしても。

 天井裏から液状化して潜入してくる、なんてことは想定しないだろう。

 もうなんだって出来そうだ。ミナゴロシにするのも視野に入るね。


 …ああ、いかんいかん、森に毒されてるね、仕方ない。

 蛇生活も長いのだもの、気も長ければ体も長いんだもの。

 じっくり観察すれば結構賑わってるもんだ。


 『液化』も疲れるので小休止。

 天井に張り付き、小屋梁の部分であろう箇所に体を預け、人間達を観察する。

 流石にここまでくれば、気を抜いても見つかりはすまい。


 人数にして外のエルフっ子と猫耳っ子。ついでに男が2人が外で合計4人。

 その他、室内には14人。酒によってのんだくれている方がその内2名。


 おいしそうな料理が立ち並び、思わず唾を飲み込んでしまう。

 なんだろう、あれは野菜のスープかな、肉は無い?

 普段はどんな物を食べているのか。


 観察していると、何か焼いた塊をそのまま出してきたりと。

 刃物を入れるとジューシーなお肉の臭いが鼻腔をくすぐる。


 うはぁ…見た目悪いけど、美味そうね。

 くぅ…せめて火が使えれば。

 狩った獲物を軽く炙って食えたりするんだけどねぇ。


 うーむむむぅ、生殺しだ。飯テロ許すまじ。

 これ以上見ていたら怒りに身を任せて、全てをミナゴロシにしてしまう。


 という訳で彼等を驚かす案を考える事にした。



1.とりあえずミナゴロシ

2.可愛らしいイタズラを

3.お酒!お酒!お酒!



 では選ぼう。

 1は除外である。

 どうしても選択肢に入れたいという本能がそうさせたが故にである。

 『エビルパイソン』の時にはなんでも食べたい欲が出ていたが、

 『アサシンヴァイパー』は殺したい欲が前面に押し出るようである。



 2.とは言ってもイタズラか。

 選択肢に挙げてみたものの何も思いつかないのが現状。

 という訳で出来レースではあるが3を選ぶとする。


 目当てのものは酒である。つまり盗みに入るのだ。

 その場で呑んでもよし、持ち帰っても良し。

 見つかってしまえば返り討ちにしてしまえば良い。もちろんミナゴロシ。


 ざっとみた感ではあるが、その辺のF+ランクの魔物と渡り合って良い勝負をする程度のレベルであると推測される。

 ただし、外に出ているエルフの連中は底が知れない。

 常に警戒を続け、尚且つ魔法のような力も感じられるからだ。

 彼等の能力は外にだけ向けられており、

 建物中には散漫という事もありその辺は、

 自分の存在を気付けない辺りまだまだである。


 どれ、プランを立てようか。だが、どうやって盗む?

 盗むのが困難であれば中身だけその場で頂いてしまうのも手だ。

 返り討ちにする場合、やっぱりミナゴロシ?



 やっぱり考えれば考えるほどミナゴロシにしたい欲望が湧き上がる傾向にある。



 この蛇危険だ、絶対世に出しちゃいかん。

 とはいえ、自分がその蛇なんだから、甘くしちゃう。デレデレに溺愛しちゃう。

 おっと、口元から涎がしたたってしまった。


 この涎はお酒の臭いの所為なのか

 それともミナゴロシ欲を抑えているからなのかは分からないが。

 それが少し不味い方向に向かってしまったとようであると気付くのに早く、

 考える時間が出来たのは運が良かった。



 手の平サイズに収まる目薬容器から押し出した程度の、ただの一滴。

 酒飲み男のグラスの中に『アサシンヴァイパー』の唾液が滴り落ちる。

 色も変わらず無味無色、なんの変哲も無く、自らが飲み込んでも問題の無い体液。



 だが、彼はどうだろう。

 今まさにその男性が口元に運ぼうとするそれは、自分の涎が滴り落ちたグラス。

 これから何が起きるか本能的に理解してしまった自分だが。


 それを止める術は、考える時間が出来てから、一連の様子を傍観していたが故に行動が遅かった。


 その酒を飲むな!なんて声を上げる事も出来ず。

 グラスを取り上げれば存在が明らかとなる。

 毒性の体液を狙い済ましたかのように、

 飲み物に混入させてしまった自分の取るべき行動をどうすれば…


 むしろ殺したくないのであれば、自らの存在を明らかにした後。

 毒物をどうにかしつつの、その後に逃げ帰れば良かったのだ。



 なあに、単純な事だった。

 彼がグラスに口を付けるまで待っていた自分は…

 自分は………『アサシンヴァイパー』としての本能に負けたのだ。



    *   *   *

冒険者の宿というよりは森の中の休憩地点。

【蛇の通り道】は今後も主人公の活動拠点となるかもしれませんし。ならないかもしれません。要は主人公の気分次第でどちらにでもなり得る場所となっております。

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