挨拶して回る蛇
ダンジョンの奥深く、落ちる様に潜っていくヨルン様御一行。
ダンジョンの挨拶巡りに要する時間は、部屋が丸々一つエレベーターとなって移動しているので大幅な時短となっている。
なるべく急ぎたい思いもあり、移動中の時間に計画だけは立てておこうと考える。
先ずはヨルン達が会っていない、このエルドラドの住民は誰が残っていたか?
確か、ダンジョン戦力の表記ではこんな感じの記述が残っていた。
エルドラ・ゴラム
エルドラ・スネーク
エルドラ・スパイク
エルドラ・ドレイク
アジダハーカ
鴉天狗
ディープグリーン×100(冬眠中)
アスピク(外出中)
そしてヨルン達が会った者達についてだが、自身の記憶に加えて守護者も居るので突き合わせは容易である。
なので纏めてみる事の、遭遇した者はハンマ君にフレイル君。そしてパパさんの3体であり、
それ等はそれぞれエルドラなゴラムにスパイクにスネークとなっている。
残りはドレイクと鴉天狗の2体であり、アジダハーカについては、アレは物であるのでノーカウント。
そして100体の冬眠中な蛇については寝かせたままにするか、起こしてしまうのか。
この目で見てみる楽しみもあるのだが、数が多くて時間が取られるであろう事は分かっている。
しかしパパさんがどうしてもと、ヨルンに合わせたがっているのでスルーする訳にもいかぬ。
最後のアスピクについてはノーコメント。アレまでやってこられたら収拾が付かなくなるだろう。
これからの流れとしては、皆を呼ぼうとは思ったものの、此方から会いに行った方が早いとなった。
効率の良い順番としては、先ずはドレイクと鴉天狗とやらに会いに行こう。
100体の蛇はその後だ。先にパパさんを向かわせておけば無駄なく時間を使えるだろう。
そういう流れでヨルン達はやってきました、ダンジョン奥に聳える和風な建物群。
唐突に視界に入る、木々生い茂る背景に、豪邸と呼べる程に大きめな、本宅?
離れ家に御蔵まで完備したこの建物群は庭も広く、やっぱりというか、見るからにな豪邸である。
ただ一つ、その豪邸の大きさが、人間用ではなさそうだなと一見して分かるぐらいの巨大さではあったが。
そんな通常なら維持が大変そうな豪邸も、ダンジョン内なら手入れはある程度簡単になるらしいから便利なものだ。
ですがヨルン達のような奴等が暴れてしまえば簡単に破壊されたりもするので気を付けねばなりませんな。
何はともあれ目的の場所はその豪邸の…、えーっと先に単純すぎる作りのデカイ小屋に向かいましょう。
ヨルンが方向を指し示せば、ネーサンが蛇の体を抱き抱え、宙を舞うように平行移動しつつにあっさりと小屋に到達。
追従していた筈のヨルンのお供達は、各々が気の赴くままに散策を始めてしまった。
池に陣取るリサリス。豪邸の屋根の上に居場所を見つけるルミー。
フラッピーの上にはアリスが乗って、悠々とヨルン達とは逆の歩道を進み続けている。
そして守護者は、えーと。そういえばパパさんに付いて行ったんだっけ。
まあヨルンの傍にはネーサンもいますし、他の面子は観光気分で動き回らせても別に良いか。
そういう訳で、ネーサンと二人で小屋の扉を開けてみる。
目に入って来るは、そこそこに大きな一目で分かる2本足で立ち尽くしているドラゴン姿。
エルドラなドレイクさんで御座います。
その姿は金色の防具を大雑把に身に纏い、赤くて無骨な鱗が所々で見え隠れしていて、何と表現するべきか?
竜の騎士だとか王だとか、そう例えるにしても気品は無く。
どちらかというと、蛮族だとか傭兵だとか例えたい所だが、金ピカすぎてそれとも違う気がする。
ヨルンが表現に悩んでいればネーサン側が、ねえねえと指で突っつきの続けて一言。
「ちょっと可愛いんじゃない?」
そう…ネーサンが言う様に、アレは全体的に丸っこくて、可愛い寄りのドラゴンだったのだ。
ヨルン的イメージに残るドレイクという名前から湧き出るイメージではなんと言うべきか。
武骨でいかついゴツゴツな赤い竜のイメージがあったのだが、
目の前のコイツは、何と言うか顔が丸っこいし、抱き着きたくなるような豊満なお腹を持っていた。
しかし今直ぐに埋もれたい思いは、不釣り合いに恰好良く整った、豪華な鎧により遮られ、
防具を付けているという事は、戦闘モードには入っていたという事。
とはいえ、小屋で待機していたって事は、アレですよ。
戦闘準備と言われて準備していたけれども、出番無しのままに今日はもう良いよって言われて、
さらに自分一人では脱げない防具を身に纏ったまま、ヨルン達が来るまでずーっと待機していた訳です。
そう思うと少しは格好良いかなと思えた姿もやっぱり可愛く見えて、
実際にも脱げば、さらに可愛い寄りであると思っている2足歩行なドラゴン姿の…
守護者の記憶では、このエルドラドレイクこと、可愛いドラゴンをランス君と呼んでいるらしい。
そのランス君だが、向こう側でもヨルン達を確認し終えたのだろう。
若干間延びした声で挨拶をしてきました。
「ザハーク様。お帰りなさい。今回も出番無しですか?」
「うむ、出番は無かった。フレイル止まりだったよ」
「そうですか。なら鎧脱いでも良いですか?」
「うむ、留め具を外すから動くなよ」
「はい、お願いします。それにしても何だかザハーク様が蛇みたいです」
「うむ、蛇になったんだぞ」
「そうですか。蛇になったんですね」
「うむ、名前もヨルンになったんだぞ」
「ヨルンですか。今度からヨルン様ですか?」
「うむ、ヨルンと呼ぶが良い」
「はい。ヨルン様」
「ちなみに、ザハークもちゃんといるから、混乱するなよー」
「どういう事ですか?」
「ヨルンは二つに分けられたのだ。つまりは増えた」
「そうですか。増えたんですね」
「そんで、ちゃんと一つにも戻れるぞ」
「戻るんですね」
「だから分かれてる時は、ヨルンとザハークで区別しているのだ」
「そうですか。分かりました」
「一応ザハークって呼ばれる方が、お前の良く知るザハークに近いから、ヨルンとザハークは別で考えた方が良いかもしれん」
「そうなんですか。ヨルン様は別なのですね」
「難しい事は考えずに、ランスも聞きたい事があれば聞くと良い」
「はい。鎧が脱げました」
「それじゃ、紹介しよう。ヨルンの傍にいるのがリムだ。外にはまだまだ新しい仲間がいっぱいいるぞ」
「そうなんですか、私はどうします?」
「とりあえずお互いに顔を覚えて貰って、あとは自由時間」
「分かりました。外に出ます?」
「出た方が早そうだからそうしよう」
こうして一連の、何となくなやりとりが終わりました。
皆揃って外に出るという事で、ヨルン達がランス君を先導し、扉を大きく開いて外に出れば、何かが起きているようだ。
リサリスもルミーも、そしてフラッピーにアリスと誰もいませんね。
ヨルン達を差し置いて、他の皆は一体何処へ行ったのやら?
ネーサンに聞いてみれば、そこの道場みたいな所にでもいるんじゃない?
誘導された視線の先には和風でいて尚、ランス君が入れそうな程の大きさな建物があった。
言われてみれば、確かに道場みたいな外観だなとも思いつつ、ネーサンが指し示すのだから多分皆はソコにいるのでしょう。
意識を向ければ確かな気配と、怒りの感情が渦巻いて、多分ですが戦闘をしているのでしょう。
そして、現場へとゆっくりと進んでいくヨルン達に続いて、
ぺったん、ぺったんと、音を立てて寄って来るランス君はマイペースに後を付いてくる。
行われている戦闘については、何が起こっているかは想像に難しくなく、
もう一体の住民を後回しにしつつ、仲間達を自由に放置した結果としてこうなった訳ですが、
残り一体のアレはフレイルやランス君と違って特別に強い訳でもなく、アリス達ならば何の問題もあるまい。
考えるヨルンが気配を感じてふと見上げれば、ランス君は鼻歌交じりにホップステップジャンピング。
止まってしまったヨルンを目掛けて落ちる足は、容赦なく蛇の体を踏みつけて進んでいく。
ドラゴンの巨大な足の裏に引っ付いてしまった蛇だったが命に別状は無く、もっと踏んでくれとも思う始末。
踏んでしまった後にも数歩歩き、ランス君が気が付いた頃にはヨルンの体はぺっちゃんこ。
片足上げれば、その巨体をどうやって支えているのかと、不思議になるぐらいの体勢で、ヨルンは解放された。
絶妙なバランス感覚を見せるドラゴン姿も見れてヨルンは満足し、
どこからともなく吹いてくる風に吹かれて、ヨルンは舞い上がる。
程よく浮き上がった所で気合を入れて、体を元通りに戻せば申し訳なさそうに謝るランス君は、
実に素直でドンくさいイメージになりそうだが、別にそんな事はない。
実際に戦闘となれば、難攻不落の要塞となりて、ダンジョンを守り抜く系のドレイク種らしいですもの。
守護者の記憶によれば、このランス君。ドラゴン姿なだけに相当にお強いらしいです。
もう一体のアレはどうだったかなと思い出せば、おっとそうだった。急がなければならないのだった。
近付くにつれて大きくなっていく音は今も尚、戦闘行為を行っているんだろうなと思いつつ。
なんでこんなに続いてるんだろうという疑問も沸き上がる。
このままヨルン達が辺りをふらついていれば、ずーっと戦闘してるんじゃないかな。
ネーサンと顔を合わせれば、早く行くわよと引っ張られ、ランス君がウズウズ震えて進みたがっている。
となれば行くしかあるまいと、ヨルン達は建物の入口に辿り着き、中の様子を伺うのだった。
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ドレイク登場の巻
脱がしてお腹にダイヴしましょう




