ダンジョンに潜る蛇
ついにダンジョンだ。ヨルン達はダンジョンに潜入だ。
入る前にセーブもしておき、準備も万端である。
目的はダンジョン観光だ~、ではなく始祖竜さんに挨拶しに行かねばならぬ。
とはいえ、難易度にしての最高峰に位置するダンジョンが初のヨルン達。
知識を得たとはいえ、ダンジョンに対する経験は全然である。
魔物犇めく森の中で過ごした経験は、十分役に立つだろう。
海を泳いで探索し続けた経験は役に立つのか?。
戦闘の経験は問題ない筈である。
足りないのは、ダンジョンに対する経験だけ。
ならばその足りない経験を埋めていく事を楽しむのも一興である。
さあ、何が出て来る始祖竜ダンジョン!
いざ門を開いて、ヨルン達は早速行くぞ!
そうする事の、先陣を切るヨルンは蛇の体を一歩?
とりあえずダンジョンの中へ入り込んだのだった。
その後に動くはヨルンの愉快な仲間達。
ゆらゆら揺れながら迫り来るリサリス…、どっしり巨体で後に続くフラッピー…、そして鳥なだけに羽ばたいてやってくるルミー。
あとついでに助っ人に呼んだ魔人で幼女なアリスさん。
ペシッ、ドンッ、ムニッ、のじゃー…。
なんでお前等、パントマイムしてるんだ?
まるでそこに見えない壁があるとでも言わんばかりに、張り付いているなんて?
何かがおかしい、変だな、どうしてだろう、ふむふむ?
疑問に思ったヨルンは外へ出ようと試みる。
むぎゅむぎゅ、むにぃー。
どうやらヨルンにもパントマイムの才能があったようだ。
ここには壁があるんです。
先程通り抜けてきた部分に、透明な壁があるかのようにペッタリと張り付いて、
窓ガラスに張り付く蛇を演じ切りました。
すまんな、このダンジョンは一人用なんだ。
…
……
………
しかもどうやら声も通じないらしい。
念話も届かない。スキルが使えない?
ならば続けてと文字的な対話をしようと、視覚的呪術を使おうとしたが不発に終わった事で気が付いた。
呪術が使えない。元素魔法が使えない。
体から根っこや触手を生やす程度なら可能らしい。
全てのスキルが封じられた訳でもないっぽいな。
となれば外にいる者達に伝えられる事はないだろうか?
少し考えた所で、見えない壁にパンチをするアリスが目に入る。
衝撃波が巻き起こり、アリスの数倍大きい海竜のフラッピーが、その余波で海に飛ばされて消えていった事が確認出来た。
その様子を見るに、物理的に破壊する事は不可能との結論が出る。
流石は始祖竜ダンジョン、一筋縄ではいかないようだ。
しかしまあ、こんな情報は出てなかったぞ?
しかもアリス自身が戸惑っている様子から、嘘の情報を渡してヨルンを陥れる気は無い事が分かる。
むしろそんな事を出来るタイプでもないし、考えてしまえばネーサンからの解剖コースだ。
数十秒に渡る思考の末、ヨルンは結論を出す。
一人で先に進むとしよう。
その前に、互いに姿は見えるのだから、メッセージぐらいは残していこう。
呪術は使えずとも、文字が見えればそれで良い。
ならば思いついた所で、蛇の体を使っての文字蛇作戦。
”デラレン””マホウ””ツカエナイ””ネーサンニ””ヨロシク”
体だけでは足りずに、物も使ったが、普通に文字を描けば良かっただけだと気が付くのは終わった後だった。
そして一応は伝えたものの、実際にはセーブ&ロードを使えば入る前に戻って対処も可能だった事にも気が付いた。
しかし、それでは雰囲気が楽しめない。
なのでセーブ&ロードが可能である事だけを確認したヨルンは、
最初の状況を再現しつつに見事に罠にハマッたを演出し、蛇一匹ダンジョンに潜るのだった。
これ程までに準備しておいて、まさかのソロ用ダンジョンだったとは誰が予想したか…
悔やんでも仕方ない、仲間達を連れて行くのは、今度また他のダンジョンにすれば良いだけだ。
そして入り口を少し進んだ先には階段があり、降りた先に広がるこの光景。
黄金一色に広がる眩ゆい回廊が広がっているとは…、やっぱり情報と違うではないか?
アリスが言うには、纏まりのない、様々な地形が混ざりあったダンジョンが広がっているとは聞いているが、
ヨルンの目の前では、金色に輝く回廊が広がるばかり。
剥がれ落ちた壁片の一つを拾い上げてみれば、金である、金メッキの金属でもない。
純粋なる金である。見紛う事なき、純金である。
これ等見えている部分の物が全て金だというのならば、壁剥ぎ業者となって一財産が得られるかもしれない。
しかし、そうなっていないという事は、持ち出し禁止なのだろうか?
剥がれ落ちている金壁も、そこい等に残っている事だし、何となく気になるが…、はて?
そんな金壁をお口に咥え、砕け落ちたであろう壁に嵌め込む事をするのがヨルンである。
微妙に大きさが合ってそうで足りないのは、砕けていた物の破片なのだしまあ仕方あるまい。
魔法スキルは相変わらずに使用不可能だが、錬金術はどうなのだろう?
これもまた魔法的なスキルなのだが、試してみよう、そうしよう。
普段通りに魔力を込めるヨルンは、溶かして接着。
そんなイメージを思い描いて壁に破片を押し付ける。
まるで粘度を捏ねるかのような動作で、ずぷりと触手がめり込み、壁面は傷一つなく修復された。
しかしその壁面はへこんでいた。質量が足りない。
納得の出来ないヨルンは、そのへこみ部分を何とかするべく模様を描く事で誤魔化す事にする。
そして思いついたのは蛇である自分の体を使ってしまえ作戦である。
ヨルンの蛇な体を押し付ける事により、鱗の形の模様を作る事にしたのだ。
少し不安だったが、いざやってしまえばどうやら形にはなったようだ。
一定間隔に整った模様が描かれ続ける景色は、ただへこんでいるだけの壁が続くより大分マシである。
そうした行為を繰り返す事の、金塊が散らばり、穴だらけだった通路は生まれ変わった。
心なしか輝きを増しているかのようにも思える黄金の道を、ヨルンは入り口から進み直す事の、どれぐらいの時間が経ったのだろうか?
無駄に体力を消耗した気がするが、ヨルンは魔族であり、魔法の力さえあれば問題なし。
それどころか、動けば動くだけ力が湧いてくる体なのである。
一仕事を終えて、体力的にも精神的にも活力が満ち溢れた気分になったヨルンは意気揚々と、見つけてあった階段を下りる事にした。
降りた先には、またもや金一色の通路、ヨルンは作業を繰り返した。
そして数フロアを降りた所で見つかったやたらとデカイ扉。
中を覗けば部屋である。殺風景な大部屋である。
思えばこのダンジョンは一切の罠も魔物も存在しない、優しいダンジョンだった。
だがヨルンは分かってる。そんな訳あるか。
部屋に侵入したヨルンを見つけたのだろう。
壁が動く。壁が迫る。それは人型に見ようと思えば、そう見える壁だった。
その人型の壁の全体像は相当に大きく、大きな体を軋ませながらに、
ぐるりと頭部が回れば、その頭部には空洞が見えた。
その空洞の奥より光る球体は目の役割なのだろうか?
光音色は緑色。その緑色の光がヨルンを捉えると、一際重厚な音がその壁の内部より響き渡る。
これはついに、戦闘開始のイベントか!?
「オカエリナサイマセ、ゴシュジンサマ」
一応身構えたのだが、聞こえてくる言葉にヨルンは耳を疑った。
言葉の後に、音も立てずに片膝をつき、祈るような仕草をする金色ゴーレム。
どう考えても敵対している相手への台詞と態度ではない。
聞き間違いかと思ったが、聞き返すのも何だろう?
話を合わせるべきか、指摘するべきか。
考えるヨルンはとりあえず、咳払いを一つした後に答える事にした。
「うむ、お勤めご苦労。と言いたいが、私の名はヨルン。
この場に来るのは初めてであり、お前の事等知らん。
何故ゴシュジンサマというのか、説明を求める」
相対するは、まさに壁。それはやっぱり黄金の壁であり、
ヨルンの知る限りではゴーレムと言う魔法生物に分類されるであろう、…物だ。
主人の命令に忠実に、尚且つ裏切る事も無く、融通も効かず、
作り手の能力によっては魔王をも軽く凌駕する強さを持っている個体もあると、
ネーサンから厳重に注意を受けていたりもする類の魔法生物だ。
ちなみに、ネーサンの居城にもゴーレムは用意されていた。
巨大ロボ並の大きさで、蜂の姿とも似た形で4本腕にて戦槌を持っていたゴーレムである。
そのネーサン作のゴーレムと、目の前の黄金ゴーレムとでは、形も違うし材質も豪華だが、
それが強さに繋がると言えば否であると言わざるを得ない。
故に、ヨルンとしては見るからにヤバそうな金ゴーレムと相対しても、
特に何の危機感も頂かず、こうして馬鹿正直に話をしている訳だ。
返事を期待して待つ事の、ゴーレムの首が3回転。
その間、実に10秒を用したが、無事に返事は返ってきた。
「アナタハ、蛇王ザハーク、デハ、ナイノデスカ?
コノダンジョンハ、アナタガキテカラ、修復サレツヅケテイマス
ザ・ハークサマ、デハ、ナイノデアレバ、アナタハイッタイ?」
ふむ? 蛇王、ザハークと来たか。
確かにヨルンは蛇王なスキルを持っている。
しかしザハークという単語には全くの情報は無い。
それに違うと伝えたのに敵対されないという事は、何となくやっていた修復行為が評価されての事。
運が良いというべきか、必然と言うべきか。
報酬代わりに何か、少しぐらい欲張っても良いのかもしれないな。
そう思ったが、一体何から聞けば良いのかが分からない。
であれば深く考えても仕方なし、悪い様にならなければ良いだけだ。
「正確に答える為にも情報が欲しい。
他の種族も入り口までやってきたのだが、中に入れたのはこの私、ヨルンだけだ。
ザハークという名にも聞き覚えが無いし、不思議で仕方がない」
ヨルンの言葉を聞いた金色ゴーレムは、ぐるりと頭を一回転。
一瞬だけヨルンを敵視するかのように、その目が赤く光ったが、その後に点滅し緑色に戻る。
続けて両手を差し出すゴーレムは告げた。
「ワガ頭部ヘ、オノボリクダサイ」
何だろうか、返答は無かったが登頂しろと促された。
手に上った瞬間、握りつぶされるなんて事もなさそうだし素直に上るべきか。
ゴーレムは小賢しい策で弄する事不可能な、単純馬鹿との情報だ。
であるならば、何だか面白そうな事になりそうだし、流されるがままにヨルンは金ゴーレムに登りきる。
本来であれば差し出された手に乗れば、そのまま頭部へ運ばれる手筈だったのだろう。
しかしヨルンは差し出された腕を這って登り、肩口から跳ねる事の、ゴーレム頭に着地する事を選んだのだ。
ヨルンの着地した頭部は、ほんのり収まりの良い凹みがあり、椅子代わりにしても丁度良い作りであった。
手を差し出したポーズのまま、暫くの硬直を見せた金ゴーレムは、ヨルンが落ち着いた事を感じてか、ゆっくりと立ち上がる。
そのまま歩き始める金ゴーレムの上だが、歩く度に頭部に乗っているヨルンへ衝撃がやってくる等と言う事もなく、
さながら巨大ロボットと例えても良いぐらいの、巨大な重量物が歩いた際に起きる、重厚な音が響くのみ。
そのまま歩く金ゴーレムは自身の色と同じ、金一色の壁に向かい、突っ込んで行き、このままでは衝突する!
と言う事も無く、綺麗に通り抜ける事の、重量物が定位置に収まった音が響く。
その後に続く、金ゴーレムの声。
だがその金ゴーレムの姿は眼下を見下ろしても、その姿の一切は見当たらない。
金色の足場が広がるのみである。
「進めと言う事か」
とりあえず口に出して言ってみるものの、反応はもう返ってこない。
少し進めば真横にシークレットドア。
壁材な金ブロックの一つを回して開けるドアなんてこんなもん、
何も知らない奴が見れば単なる行き止まりにしか見えないだろう。
しかし何故、こんなドアを自然に見つけてしまったのだろう?
疑問は一瞬、行動は流れる様に。
中に入って体を落ち着ける事の、コレは狭い椅子だ。
蛇の体には狭く、人間用であるな。まあ当然か。
蛇は椅子の横にある、ふんわりカーペットにならば丁度良く収まるが…。
座った椅子は何となく覚えている。
初めてである筈なのに、何となく覚えている。
デジャブとも似た、なんとなく感覚が続き、椅子に座った後にパスワードを入力する。
入力方法は、音声入力で良かった筈。
しかしなんだって、自分は知っているのだろうか?
「アスピーック!」
脳裏に浮かび、思いついた単語を叫んでみた。
すると、周囲の壁の色味が薄くなり、金色から、淡く白い壁へと変貌していくではないか。
そして部屋の中央からせり上がってくる、球体の物体。
なんとも派手に、機械的な動きを見せる台座は何ともファンタジーに感じた。
その目の前に現れたファンタジーは、ダンジョンコアであるな。ネーサンから聞いた事がある。
とりあえずコレを使ってダンジョンをアレコレ操作できるらしい。
その操作方法なのだが、正直に分からない…が、守護者を扱うのに似ているので、どうにかなってしまったようだ。
「認証、システム起動、…致命的なエラー、セーフモードで起動します」
どうやら大分変な状況になっているらしい。
流れに任せて続けるにしても、情報が圧倒的に足りない状態だ。
しかしシステムとやらの起動には成功したらしく、ヨルンの良く知るメッセジウインドウがヨルンの周囲を取り巻いている。
「ダンジョン内の戦力状況をポチっとな」
守護者相手にもやっている事なので、慣れた触手つきで言葉に出しながら情報の欄を押してみる。
すると、ページが移動し文字として現れる情報は、何かの名前だろう。
エルドラ・ゴラム
エルドラ・スネーク
エルドラ・スパイク
エルドラ・ドレイク
アジダハーカ
鴉天狗
ディープグリーン×100(冬眠中)
アスピク(外出中)
表示された情報には、早速と言うべきか、突っ込み所が多数に早速現れた。
一体何から突っ込めば良いのか、ヨルンには分からない。
分からないので考えるのを止めそうになったが、順番に突っ込んでいこう。
アスピクの外出中ってのは、まあ…あのアスピクなんだろう。
そして鴉天狗ってなんぞや?
一匹だけ名前的に浮いているが、何なのだろうコイツは?
それにディープグリーンとかいうのって確か、魔物ランクにしてBなのに×100だって?
何かヤバそうな魔物が100匹も揃っているのだが、ヨルンの知る限りにそんな戦力はネーサンですらも持っていない。
知恵熱が出そうになったヨルンは寒くも無いのに冬眠しかかったが、機械的なビープ音によりその意識は引き戻される事になる。
「侵入者有り。警戒レベル5。崩壊の危険。早急に対処を」
ビープ音は流れ続け、続けて流れるアナウンスによれば、結構不味い状況のようだ。
そんなヤバイ状況を確認すべく、メッセージウインドウの一つを触手タップする事の、それはこのダンジョンのマップである。
何となく押した部分は拡大表示され、そこそこに高画質な画像が表示される。
どうやらリアルタイムでその場所が観察出来るようだった。
そうして表示された状況は、なんともまあ、分かり易く危険度MAXな面子だこと。
映し出された画像の中には、ネーサンがフラッピー達を従えて入り口を観察していた。
アリスが横にいるが、必死に状況を説明しているようだ。
のじゃのじゃと聞こえてくるので、相手さんの声は此方には通っているらしい。
であるならば、此方からも声を届ける事が出来るのではないか?
となれば、何か声を届ける機能が無いかと質問してみよう。
「アレ等は顔見知りである。会話したいのだが、方法はあるか?」
質問をしてみたら、間もなくそれっぽい管が現れた。
なんともまあ分かり易い方法だが、それ故に信頼が出来る器具だ。
これで話せるようだが、まずは何を話すべきか?
「良くぞ来た。私がこのダンジョンの主。ヨルン…じゃなくてザハークである。
そしてただ今、アスピクは外出中でございます。
御用の方は、ピーッという音の後に要件をどうぞ。
ただ今、ダンジョンコアの操作テスト中。ピーッ!」
いつもの調子で大体こんな所だろう。
必要な情報は伝えたので、ネーサンには確実に伝わった筈。
むしろネーサンの方が現状を知ってそうなイメージがあるが、はてさて?
カメラ目線のネーサンは、少し観察するような素振りを見せた後に口を開く。
会話の始まりである。
「相変わらず意味分かんない状況だけど、何となく楽しそうな感じじゃない。
折角だから、私も中にいれなさいよ。ダンジョンコア見つけたんなら出来るでしょ?」
「少しは演技してよ。ネーサンが本気出したら直に攻略されそうだから、察してね」
「それなら私もソコに案内してよ。ダンジョンマスター視点なら良いでしょ?」
「おっけい、そんじゃアリスとその他は少し待っててね。
ネーサン、入り口の制限は解除出来たっぽいから、
とりあえず先に進んで大部屋見つけて、そこからヨルンが案内する」
聞くが早いか、声が早いか、移動が早かったのか、ネーサンは了解と一言。
その姿はもう無かった。後に残されるは呆けたアリスが残るのみ。
数秒もすれば、ネーサンは例のゴーレムが居た大部屋に到着だろう。
ヨルンのいる場所への案内をする準備を済ませれば、アリスが声を大きく訴えかけてきた。
「ちょっと待つのじゃ! 一体どういう事なのじゃ!
ええっとな、つまりはのぅ、ヨルンはそのー。
もうダンジョンを攻略してしまったという事なのか?
それならワシ等は結局何の意味も…」
「意味はヨルンの暇つぶしである。
力試しも兼ねて、このヨルンのダンジョンを攻略してみるが良い。
ヨルンを楽しませてくれれば、褒美も出そう。
というのは建前で、ネーサンと一緒に状況を把握したいから、
アリス達は普通にダンジョンに潜って情報を手に入れて欲しい訳だ」
なんか建前と本音が逆になった気がするが、まあいっか。
アリスも納得して、仲間達に活を入れてますし。
会話の最中にはもう、ネーサンがゴーレムと対峙してますし。
ああ忙しい忙しい。ネーサン以外にも、ダンジョンの警告ランプらしきモノが点灯してますし。
「ゴーレムよ、蜂の魔族である客人リムを私の所へ案内せよ。
そしてネーサンは、準備が出来たらゴーレムの頭の上に」
ゴーレム側の返事も待たずに、瞬き程度の一瞬で頭の上に乗るネーサン。
移動時の待ち時間は大人しく、道が見えれば即座に移動。
ヨルンの案内無しに、隠し通路も隠し扉までも、全てが看破されてしまった。
流石はネーサンと感心すれば、間もなく蛇の体を抱きしめるネーサンがヨルンに密着して現れた。
やはり、ネーサンにダンジョン攻略をさせてはならんようだ。
念の為、隠し通路は閉鎖しておこう。裏口攻略お断り。
操作を完了すれば、見届けたネーサンが不満顔で口を出してきた。
「目が痛くなりそうよ、金ピカからの純白景色。なんとかなんない?」
その辺はヨルンも思っていた事だ。
遠近感を狂わせる、模様も家具も何にもない空間は長く滞在すれば、感覚がおかしくなりそうだもの。
とはいえ、何をするにも現状の把握だ。先ずはこのダンジョンコアとやらの使い方を知らねばならぬ。
「今のトコ無理だから、ダンジョンコアの操作方法を覚えてからじゃな。
セーフモードで起動中らしいし、出来る操作が少ないのだ。
それにしても、このダンジョンってどう見ても、始祖竜のダンジョンじゃないよね」
ネーサンがやって来た事で、目の前に話し相手の出来たヨルンは席を立って移動する。
話題は色々あるが、話すべきは意図せずに、寄り道をしてしまった現状についてからだ。
だが寄り道という、そんな次元ではないレベルな話の逸れ具合を感じるヨルンは運命的な力を感じてしまう。
決して目移りしたとか、そんな理由ではないのだ。
「勿論ヨルンちゃんの言う通りで、このダンジョンはアレよ」
そして分かっていた事だが、ネーサンが言うのだから確定である。
ここは始祖竜の住まうダンジョンではなかった。
そしてこの場所が何なのか、ネーサンがアレと言ったからには、ヨルンにも察しが付く。
「黄金ばかりなダンジョンって事はアレだよね」
しかしアレとは言っても名前は分からず。
頷くネーサンも時間を稼いで、その名前を思い出そうとしている事は、想像に難くない。
やがて歩き出したネーサンは、ダンジョンコアが放つメッセージウインドウにその視線を向ける。
「黄金迷宮エルドラド。私も過去に一度だけ、潜った事があるダンジョンよ」
そう、ダンジョン名の答えは書いてあったのだ。
だがしかし、どうしてこうなったかは全く分からないままに、
ヨルン達はダンジョンコアが表示するメッセージを弄りまわし、情報収集をするのだった。
* * *
何か道を間違えたようが気がするが、いつもの事のような気もする。
削られた睡眠時間。誘われるイカ的なフェスへの誘惑。
毎日投稿はこの辺で限界のようだ。




