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蛇にとっては子守唄

「今日はお前達の種族について分かった事を話そう。

 守護者の協力もあってこそ分かってきた事だが、分からん部分も未だに多い。

 それでも話せる段階には纏まってきたからな。

 内容はお前等というよりもユグドラシル種と呼ばれるモノについてだが、

 長くなるから質問は終わった後で纏めて受ける」


 そう言って本を片手にゆらりと立ち上がると妖艶な動作を挟みつつ読み聞かせてくれる女神様。

 普段の女神様とは思えない程の優しい声で一語一句もはっきりと頭に叩き込んでくれた。


 やがて一時を過ぎた辺りであろう。


 寝袋の中でスヤスヤと寝息を立てるヨルンの姿がそこにあった。

 サプとリフもヨルンに寄り添い、三角錐が出来上がっている。


 それを見てパタンと本を閉じた女神様。

 優しい手付きでヨルンの頭の上に手を置くと、優しく撫でてくれました。


 といった所までが夢か妄想かまでの話。


 現実はアイアンクローから持ち上げられ、そのままお腹にパンチを連打です。

 腹パン反対。そういうのは別の需要がありそうな方にお願いします。

 悶えるヨルンは声にならない声をだしつつ、目が覚めましたを主張するヨルンはそのまま放り投げられる。

 一方その頃のモブ達はネーサンの後ろで涼しい顔をしながら一連の流れを見ていましたね。

 お前等も寝ていただろうに。抗議の声を上げた所で事態は悪い方向にしか向かないので我慢です。


「まっ、確かに今日の声は安心感を誘って眠気がやってくるわね。

 女神らしさは出ているけれど、子守唄になっても仕方ないし改善する余地はありといった所か。

 いつもはサプやリフまで寝るなんて事も無かったもの」


 きゅぅーと呻くヨルンを眺めるネーサンのフォローが入る。

 女神様も話を聞いて、そういえばそうだなと納得し怒りを治めてくれました。

 ふんぞり返るように椅子に座ると、疲れた様子を見せる女神様はキャラ作りをしていたのです。


「それじゃあ、いつものように分かり易く纏めちゃうけど良い?」


 そんな女神様を横目にネーサンは言う。

 女神様は後は任せたと丸投げし、サプとリフはヨルンを囲って盾にする準備をする。

 その行為が無駄な事だと知りつつ行ってしまうのは、まあ仕方のない事だろう。  

 一応の所でヨルンはこの2匹には頼られているのだから。


「じゃあ先ずは…」


 女神様の了承を得たネーサンはカツンと良い音の出る指を鳴らし、映像を白い板に投射する。

 それはヨルンが教えた呪術によるものだった。

 あっさりと習得する事に成功したネーサンのスキルの扱いは機械を操作しているかのよう。

 他者が得られる情報としては、文字や枠を使ってのフローチャートを作って伝える事が多い。

 この状況はなんとなく、プレゼンテーションを行っている感じでしょうか。


「一番上からその1。私達の出自は異世界からの来訪者が関与している」


 我等の元はこの世界にいなかったもの。

 異世界からの来訪者が作り出した魔物である。

 歴史としては浅めで、世界の根本に初めから関わっている訳でもないとの事だった。

 具体的にはネーサン達が生きていた辺り産物。思うが儘に異世界の創作を持ち込まれたらしい。

 その中でもユグドラシル種というのは世界に触れる事を可能とし、

 その力を自由自在に操れる魔物として作られたのだとか。


 何故作られたかなんてのは至って単純。人間達の助けとなれ。喜ぶ事をせよ。

 だけど製作者が死んだので野に放たれた。何が原因だったんですかね。予想しかできません。

 作られた側はその後、争い事に巻き込まれたようです。

 なんやかんやで討伐されたけれども、それ等が死んでも力だけが残るらしく、

 能力を受け継いでの転生みたいな事を繰り返していたらしいですね。

 そんな流れで、その力は全てがこの場に4匹全てが集結。

 現在は仲良くやっていけている訳です。


「本来なら、私達の力は平和の為にという願いが込められていたとかなんとか。

 結局上手くいかず、文字通りに争いの道具にされて道を外れた訳ね」

 まあ強いですもんね。それでいて簡単に言う事聞くなら当然っちゃ当然でしょうか。


「質問っ。人間が喜ぶ事をする。

 つまり、人間が歪んだフェチを持っていたらそれの助けになる!って事?」

 少し考えたら思いついたので質問をしてみます。

 ネーサンはヨルンの的を少し外れた疑問に対しても対応してくれるので助かります。

 ネーサンも面白がるので良くある流れになってますね。

 今の質問も、ちょっと考える素振りを見せて肯定したりもしてますし。


「その例えはある意味で合ってるけど、

 もっと単純な所で私利私欲の為だけに動く悪党が助けて欲しいと丸め込んで、

 疑いも無く手助けを続けていた歴史もあるらしいわね。

 世間で流行していた、快楽殺人狂なサイコパスにだって喜んで当時は手助けしたかもしれないわ」


 サイコパスは流行するもの。異世界物ではお馴染みですね。

 異世界に渡った途端に人間殺しても何も感じなくなったとか良く聞きますし、

 ネーサン説明だと昔々の転移者は大分毒されていたらしいですから、

 もれなく大半の話でサイコパス扱いでした。

 とりあえずの所で聞きたい情報は自分達の事です。なので首を傾げつつにヨルンは問う。


「でも今のボク達は?」


「願いの根本は私達の中に根付いているけれども、時も過ぎて歪みきっているから無いも同然。

 今はもう私達の中での自我にそって、ほぼ自由に動けるわ。

 問題があるとしたら、周囲の感情を感じて沸き上がってくるアレよ。

 本能的な欲求とでも言うのかしら。今までの経験から感じる限りにね。

 人間だってその辺は同じよ。発散させりゃ問題なし。」


 つまり、沸き上がる感情は我慢出来るけどガス抜きは必要。

 制御不能な程に大きく感情に影響を与える事もないので問題はありませんね。


「分かった。ほぼ大丈夫って事ね。サプもリフも特に質問はないね」


 最近ではそこそこに自己主張も程良くするようになってきたモブ達も特に気になる事は無いようです。

 ヨルンとしても特にネーサンの説明に対して思う所はないので次に進めて貰いましょう。


「それじゃ2番目。私達の力について」


 単純な所でチートに分類されるであろう能力を持っているのが自分達。

 他者を自らの眷属と化して思うが儘に操れる。

 世界に根付く事で大地そのものを武器として戦える。

 その世界に他者の生命を還元し、恩恵を受けられる。

 世界に生きる魔物を条件付きで生成する力を持っている。

 4種類いるが、個別に専用の能力も持っていたりもする。


 ネーサンは全てを屠る武器をその身に。

 サプはあらゆる環境で生き延びられる活力を。

 リフは生き物の在り方を変えてしまう能力を。


 そんでティアである現在のヨルンはといえば。

 分け与える。徴収する。といった能力があった模様。

 これだけだと微妙な感じがしますが実際の所はどうなんですかね。


 一つ例を挙げれば生命力を与えて他者の傷を癒す事が出来ましたね。

 ですが癒しすぎて逆に壊れる可能性ありという欠陥があります。

 その辺はサプやリフが関わると効果は良い具合に調整が可能でした。

 そして徴収の一例として、他者のスキルを頂いてしまう能力。

 これについてはスキルだけでなく丸ごと全部食べちゃいましょうでヨルンはしていたようです。

 別の方法として何かあるようですが、守護者任せで良く分かりません。

 逆にスキルを分け与える事も可能なようですが、こっちについては試した事がありましたね。

 分け与えたら普通は死ぬみたいな与え方してましたけど。

 頭にズドンと種を直接植え付けちゃったんでしたっけ。

 脳を侵食した結果で痛みに悶え苦しみ凡夫は死ぬみたいです。

 与えるならばもっと良い方法考えなくちゃいけませんね。 


 ともあれ、こんな感じの事をヨルンは出来るようです。

 特に意識もしなく、何となくで使っていたので意識すればそのうち最適化される事でしょう。

 そんで思ったんですが、自分等の製作者は何を願ったんでしょう。

 製作者が所謂ラスボスサイドの考え方をしているように思えます。

 特に生き物の在り方を変えるって、リフがやってる事を見れば生体改造ですもの。

 まあどんな能力にしても使いようですから何も突っ込みませんけど。

 色々考えましたがネーサンの意見も聞いてみましょう。

 今までのヨルンがしてきた行動の中には疑問に思う所がありますし。


「質問。ヨルンの力にサプとリフのも混じってます。

 むしろティアちゃん単体じゃ、今一つ能力が分かりません」


 そうなんです。ヨルン自身で感じる事ですが、サプやリフの能力と似通っている部分が多いのです。

 お陰でヨルン自身の能力か他者の能力なのか、その境界が曖昧なんですよね。


「そりゃあアンタの先代が他2匹を食ったからよ。

 本家の力には及ばないけど、ある程度は使えるようになったみたいね。

 ティアちゃん自身の能力は、他のユグドラシル種の力を他者に分け与える為の物との認識で良いわ。

 それでも手順を踏まないと、癒したら体が壊れるまで過剰に癒す事になるし。

 改造したら上手く部位がくっつかない、精神が壊れて廃人になるのが普通だったっけ。

 まあ単品じゃ私達の能力は他に分け与え辛いからアレね。

 ティアちゃんの能力は私達のスキルの緩衝剤みたいなものよ」


 緩衝剤に例えられました。つまりはヨルンを間に挟んで危ないスキルを他者に与えても問題ないようにする?

 ヨルンだけでなくサプやリフの単品では酷い結果になる事が多々ありましたから、なんとなく納得しました。

 協力しての組み合わせでは良い結果を出してますから多分そうなのでしょう。

 恐らくですがネーサンとも組み合わさればそれっぽく良いモノが作れるんですかね。

 頷きつつ考えていると再び疑問が沸き上がる。


「あともう一つ。ネーサンがサプを滅するとしたら成功する?」


 ネーサンの説明を思い返し何となく、ふと気になったことを口に出す。

 それを聞いたサプは震え上がり、ヨルンを見つめてくるが気になってしまったのだから致し方なし。


「実を言えば難しい。長年サプが私から生き延びられたのもその能力のお陰。

 かと言って絶対に出来ないかと聞かれれば、答えは可能。やってほしいの?」


 キラリと光る針を眼前に近づけ、脅かしてくるネーサン。

 何となくやってしまった行動は、傍から見れば行為を完結していた。

 つまりサプの額に針が貫通して突き抜けていたのです。


「いえいえ、仲良くいきましょう。

 矛盾的な例えに感じたから、聞いてみただけです」


 ですがただ針を刺されただけなら特にサプには何の問題も起こらない。

 そのまま針を頭に生やしたまま擦り寄ってくるサプはヨルンに何かを訴えている。

 ゴメンヨサプ、気になってしまったんだ。謝罪の意味を込めて優しく撫でながら宥めます。

 こういう時のネーサンは意外と本気になるのでしっかりと拒否しておかないと危ないです。

 なので制止はしっかりと。悪魔的な笑みを浮かべているネーサンは満足しているのでもう大丈夫でしょう。

 しかし怯えるだけで何かしら攻撃を加えられる事を喜んでいる節が見られるのがサプでもある。

 その辺の事情についてはまあ、ウィンウィンな関係なんですかね。

 そんな関係に巻き込まれる前に、ネーサンへ次に進むように催促です。


「さて、次は3つ目ね。歴史の授業」


 今より約300年前、異世界人より作られたユグドラシルの魔物は世界に登録された。

 作成者は間もなく死亡。理由は単純。異端は殺せ。

 魔物を作ったり操ったりする者は異端として消去されるのが昔のお話と覚えておいて差し支えは無い。

 でもまあこの件については、実際の所で他に何か悶着があったらしい。というのがネーサン見解。

 今の世の中、魔物を使って見世物をしたり、奴隷の代わりとならないかという試みも増えてきている事ですし。


 それに歴史なんて伝える側が勝手に改変出来るから、それっぽくしておけ的な流れでしょう。

 とりあえず現地人か異世界仲間か知らないが、何者かに殺されたのは確実とだけ覚えておく。

 それで早速生みの親がいなくなり、放逐された4匹はどうなったか。


 悪党の手に渡る、というのが大半だったようだ。

 少なくても歴史に記された物としては悪行の限りを尽くしていたと残っている。

 国を滅ぼしたともあるが、これはネーサンだろう。

 悪魔のような形相をした蜂姿が、崩壊した城の前で軍勢を率いている絵がりますな。


 中には討伐した数も記されていた。

 凶悪な面をした蛇がハイエルフだろう者に倒されている場面が記されている。

 その項には、倒しても一定の周期で魔物を媒介にどこかで復活する。

 死体は優秀な素材として有効活用出来る。

 毎回探して倒すのが面倒だから生かしたまま捕らえて剥ぎ取ってしまえ等とも。


 結構不遇ですな。ユグドラシル種っていう奴は。

 というか普通に狩られてるんですかい。

 何よこの、リムの討伐数100って。

 サプやリフ30回ぐらい討伐されてるようです。

 んでティアちゃんだけど…、7回?

 討伐個体数に差が開いてますな。


 とりあえずネーサンは200年前にその種族に進化出来たらしいですから。

 リムは1年に1回ぐらいはその同種が狩られてる事になってた訳かな?

 疑問の思った部分は何でも聞いてしまえ。ネーサンも話す気は満々だ。


「質問~、そこそこ討伐されてるみたいだけど、ヨルンがその昔にいたらどうなってたかな?」


「今のスペックで、舐めてかからずに全力という事なら、

 相手サイドから見ればクソゲー。全然余裕で撃退可能。

 とはいえ負ける可能性は少なからずに有りって所かしら。

 まあ私のしごきに耐えられるなら何とかなるレべルよ。

 訓練の基準はその時のレベルに合わせてるし。

 問題がある相手がいるとすれば、スキルを封じる特定の魔法道具の存在。

 人間や魔物が固有で持つ訳ではなく、詳しくは省くけど、眷属化なんかは無効化されるわね。

 使う為には膨大なMPが必要。気軽にポンポン使えない。大抵が設置型。

 所謂結界タイプよ。部屋自体を効果範囲にするとか、人々の集落を囲う魔法陣とかね。

 問題なく戦う為には、対抗するスキルも存在するから、まあ私達相手だと基本的には無意味。

 とはいえ心構え的には例外はどこかしらから湧いて出てくる。

 故に過信は禁物として、そーいうのは頭の隅には入れておく事、ぐらいね」


 要は気を付ければ大丈夫なレベルであるとの事。

 昔ならいざ知らず、今のヨルンは戦闘訓練を定期的に受けていますし。

 ダメなものはダメとハッキリ言うネーサンが言うのだから問題ないレベルには達しているのでしょう。

 とりあえずの所で油断しなけりゃ何とでもなる訳ですね。


「なるほど、分かり易い!

 サプもリフも合わせてそこそこ強くなってるからヨルンはまだまだ伸びるのだ」


 という訳で物理的にも伸びるヨルンは背景の2匹に寄り掛かる。

 ついでに触手で引き延ばす事の、サプはスライムなだけあって良く伸びる。

 リフも負けじと背伸びし伸びるものの、背は一番低いですな。

 そんな自分達を見てこれ以上の質問は無いと判断したネーサンは話を先に進めました。


「じゃあ次。私達からとれる素材について」


 この辺は話に出すのも嫌ですが、やらない訳にもいかずという事で話すだけ話してしまう流れですね。

 という訳で嫌なものは最初から済ませてしまえなネーサンから始まります。


 虫翅は軽い硬いな便利素材。主に回避重視なスタイルを好む者達への外装となる。

 その他、装飾品として貴族に好まれる実用的ものとなる。

 甲殻も同様の軽鎧になるとか。最高級品な分類とされているようです。

 そしてお馴染みの針。蜂の武器という訳で針が手に入るようですが、条件がある模様。

 特殊な事をしないと手に入らないらしいです。

 条件としては形態の変化中に根元から切断する、だそうです。

 その他にも色々と、食料になる部分がどうだの、触覚が錬金術の材料になるだの。

 他に比べて詳細に記されているのでした。


 次は植物系なリフ。一番目立ってない子ですよね。

 簡単には切れないロープとして植物の触手がそのまま使えるらしいです。

 切り落とした幹は魔法の媒介となる杖になり、頭の葉っぱは万病を治す薬となるとか。

 説明はあっさりしつつ、スライムのサプが続きます。

 体を千切ればそれに応じた強力な魔石となる。

 燃料扱いで、その効率は最高クラス。国一つ数十年のエネルギーを賄えると例えられてます。

 そしてスライムの核は迂闊には触ってはいけない。極大魔法級の爆発が起きる可能性がある。

 どうやらサプは旨味の少ない自爆系スライムだったようだ。

 しかし一国を賄えるエネルギー原となるならば実は凄いのでは?

 基準が分からんのでサプを狙う輩が湧いてくる可能性は考えておこう。


 で、ヨルンですが…ふむ?

 鱗がお守りになる。流した涙が癒しの秘薬となる。

 死体の傍では花が咲き乱れ、農作物が豊かに実った。

 際ですか。特に質問をする気にもなりませんね。


「質問がないなら。そろそろ…っと?」


 ネーサンが切り上げようとしたその時、サプとリフが揃って触手を上げているではありませんか。

 何やら質問があるようです。ヨルンが知る限りに珍しい事態となりましたが、

 珍しいだけで稀にあるので2匹を前に出してヨルンは後ろに下がります。


「サプにリフも、話してみるが良い?」


 ヨルンの声掛けを受けた2匹は順番に体を振るわせ話始める。

 怯えている訳でもなく、単にプヨプヨしてるだけなんですよね。この子達。


「討伐数について疑問なのですが。

 何と言いますか、数の開きが気になります」

「取れる素材とやらもリム様だけ詳細なのが少し」


 どうやら2匹はヨルンが触れなかった疑問について聞いてみたようです。

 ピュアな瞳で見つめられたネーサンは困ったような顔をするも、直に表情を取り直し応対する。


「ああ、それね。気になるなら話してあげても良いけど、良い話じゃないわよ」


 もしかすると運が良かったのかもしれない。

 自分じゃなくモブ組2匹が聞いた事により、ネーサンに話す気が生まれたみたいですし。

 話す気が無いなら、今頃モブ達の頭部には針が突き立ってますもの。


「討伐数100回目記念で捕まった自分はね、

 生きたまま皮を剥がれ、切断されてを繰り返されましたとさ。

 その時に詳しく解剖されて細部まで調べられた。

 アンタ等も人間に捕まるんじゃないわよ。

 じゃないと普段の私以上の攻めぐを受ける事になる」


 こうしてモブ達の行動によりネーサンから話された個人情報。

 あっさりしていますがネーサンにしては頑張った方だと思います。

 それにしてもこの様な理由があったとは、何となく察してましたけどね。

 ネーサンの口からヨルン達に直接話されたのはコレが初めてですけど。


「心得ました!」「ありがとうございます!」


 そんなネーサンの話を受けて2匹はビシッと敬礼をしつつにヨルンの後ろに退避した。

 まだネーサンの話は続くというのに、でもまあ2匹にしては頑張った方でしょう。

 よしよしと頭を撫でながら、自身の後ろに庇うようにヨルンは前に出るとします。


「で、討伐数についてだけど、人間側が数えてただけだから鯖読みしてる可能性もあるっちゃある。

 面子の問題で、代替え品まで用意してバレた挙句に処刑されるなんて聞いたこともあるし。

 でもまあリムだけ多いのは事実で、理由は他に比べて人間達にはリムを狩るメリットが高かったから。

 ティアだけ7回と少ないのは7代目が友好的な人間に囲われていた説が濃厚ね。

 昔のあの頃は、問題も多くて食料の確保すらままならない国まであったらしいわよ。

 流石に古い情報まで全部は知らないから何とも言えないけどね。

 とりあえずの所で仮説を立てれば、飢餓に瀕した国が一つありました。

 そんな中で、農作物を簡単に育てられるティアちゃんがいたらどうなると思う?」


 ありそうな話ではある。悪人ではなく純粋に困ってる人達に力が渡ったっていうならば…

 恩を感じて隠し通すってのも有り得ますものね。

 その情景を妄想していた所、その輪に入るネーサンの姿が思い浮かぶ。

 平和とは言えない世界で慎ましく生き抜く魔物達。

 違和感を一切感じる事無く、まるで自分自身がそこにいるかのような感覚に囚われたヨルンは、

 自身の頭を小突いて夢から覚めつつ、感じたままの事を口に出す。


「人々の喜ぶ事をしたいと意気込んだティアちゃんは、せっせと農作業に勤しみました」

 とりあえずその場にネーサンが居たであろう事は伏せつつの棒読みナレーション声。


「当たり。そしてそれを手放すまいと、国ぐるみで存在を隠し通しました」

 ネーサン側もヨルンに合わせるかのように無機質に続けた。


「魔物の助けを得ているのは何かと不味い。正体を知る外部の物は悪として闇に葬られ」

 外部の一切の物との接触を禁止し、知ってしまう者がいれば殺害も止む無し。

 国ぐるみで行えば犯罪ではないという奴ですね。


「大体そんなとこ。そして一つの国は食糧問題を解決していた」

 だけどそのお陰で国が一つ、危機を脱した訳だ。


「世界が安定し、異世界人の問題も落ち着いた頃。

 人々を脅かす魔王の存在も一先ず無くなり、魔物の発生も落ち着いた。

 一時の平和が訪れ、私が覚えている限りに、約100年程経った頃のお話」


 色々と長いお話が来ると思いましたが、ネーサンが修正に入ったパターンですね。

 何とも惜しいが、この系の話が来ると、長くは続かず大体が切り上げられるんです。


「まあその辺の細かい年号にズレはあるけれども、

 その頃に私はリムとなって、先代のティアに出会ったのよね」


 しかし今回はティアの名前まで出ましたね。

 もしかするとですが、期待が持てるやもしれん。


「………」

「………」

「………」


 ヨルンに続いてサプにリフ。女神さんも揃ってネーサンを見つめ始めましたよ。


「何よ。皆して期待した目で私を見て」


 たじろぐネーサンを見たヨルン達は次々と言葉を投げかける。

 この機を逃したら次のチャンスはやってこない。

 それこそ永遠にと例えても良いぐらいに話される事は無くなるだろう。


「ネーサンの昔話が聞けるのかなって、女神さんも思ってるよ」

「私を出汁に使うな。…まあ正直に気になってはいる」

「私も気になりますぞ」

「他に同じく、です」


 各々が攻めに転じる中、ネーサンは覚悟を決めたかのように息をのみ込み、正面を向く。


「最後に私達のコアの存在」


 やっぱりというかこれ以上は話す事も無く、話を次の項に持っていくのだった。

 ネーサンらしい、清々しいまでのゴリ押しっぷり。

 余程に触れて欲しくない部分なのだろうけれども、ヨルン達としても深入りするまでには至らない。

 であるのなら、答えるべきはただの一言。


「いつものネーサンだった」


 そうヨルンが言えばモブ達は引き下がる。

 女神さんも残念がるが、特に突っ込まない様子。

 ネーサンは再び後ろを向いて、ホワイトボードのフローチャートに修正を入れる。


 そうして女神様の話していた最後の項目。

 魔物としてのコア。つまるところの自分達に関しての命の源的な物のお話になるのだった。



   *   *   *

昔話に深く突っ込むと大変な事になりそうなので強制切断された。

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