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蛇なのですが捕まっちゃいました

 『エビルパイソン』となり数年が経過したと思う。

 随分と自分は強くなったと自負するが、どうしてこうなったのか。


 現状を理解してみよう。


 先ずは自分の居る場所であるが、ここは檻の中である。

 触るとビリビリして気持ちが良いです。

 お陰で力が抜けてしまい、今の自分では打ち壊す事は出来ないようだ。

 そんなビリビリは気持ち良いが檻を壊そうとすると体が悲鳴を上げるので止めた。

 スキルを使えば脱走は容易であろうが、目立つ事この上ないだろう。

 今はエビルパイソンにて使えるスキルのみでこの状況をなんとかしよう。

 そう心の中で縛りを加えたのだ。どうにもならない抜き差しならない状態となればまあ…。

 縛りの解除も視野に入れるつもりではある。


 ああ…でもビリビリ気持ちいいナリ…

 もう背中を檻に押し付けてマッサージ気分である。


 こりゃあ、癖になる…



―――称号 『フェチズム:マゾヒスト - Lv1』を得ました



 ………際ですか。一応説明求みます。



―――確認

『フェチズム:マゾヒスト』別称ドM

 肉体的苦痛を快楽と感じ精神的ダメージが抑えられます

 高いレベルの者になれば精神的苦痛ですら逆の効果となる


 ………まあ、これについてはレベルは低くても良いです。

 正直この電撃びりびりは気持ちが良い程度のレベルだし。

 マッサージ椅子のようなもんだろう。

 この程度でドMだなんてその道の人に失礼だと思わないかい?

 のう守護者よ?



―――確認 理解しかねます



 ふーん…まあ別にいいけど、釈然としないものがある。


 まあこれでも不自由な中でも結構努力はしている訳で。

 しかしまた、これはどうして、力が及ばないのだ。


 触手で切り裂くも叩きつけるも効果なし。

 長い時間をかければなんとかなる手ごたえもあるのだが。


 見張りもいるのでそう続けても居られない。

 怒声が響くも別に気にしちゃいない。

 棒で叩かれるも別にそっちは痛くない、むしろ気持ちいい。


 むむむん、逃げ出す努力をするべきか。

 それとも、おとなしく拉致されるべきか。

 フレンドリーな関係になれるとは思っていない。

 が、少なくてもスグに殺される心配はなさそうだ。


 問題は、この自分を拉致した者達。

 もしくは首謀者が何を考えているのかである。



 そう、今、自分は、良く分からない連中に檻に居られられて、

 どこかへと護送されている真っ最中なのだ。

 我ながら阿呆な真似をしたものだ。


 うまそうな、お肉の臭いに釣られ。

 頭上から檻が降ってくるトラップに引っかかるなんて。

 いや、トラップ自体は知っていたんだ。

 怪しい土台の上に無造作に置いてあったし。


 上を見ればそれっぽい檻があるなーって分かってたよ?

 ただ、捕まってもなんとかなるかなー、って軽い気持ちでだね。

 新鮮なお肉と檻を見比べた結果が今なんですよ。



―――確認

 守護者権限で称号を作成出来ます

『ドジっ子』『アホの子』『馬鹿蛇』『ウスノロ』

 お好きな物を選んでください。



 いえ、謹んでご遠慮願います。

 延々と心のキャンセルボタンを押す用意があります。



―――確認 では守護者権限にて全部の称号を獲得



 ごめんなさい、これ以上スキル欄に変な物をぶちこまないで下さい。

 後でいっぱい褒めてあげますから…それだけはご容赦を!



―――確認 心からの喜びを感じさせました



 いつもとちょっと違う。

 けど変な称号を付けられるのだけは避けられたようです。

 守護者ちゃんの機嫌を損ねると色々大変です、気をつけなければ…

 さて、それはそれとしてと、結構暇なんだよね。

 丸々1週間ぐらいは、こんな様子だし、自分動くとギシギシ音が鳴るんだよね。

 かといって動かないと体が鈍っちゃうし。



 焦る必要は無い、どうにもならないのだから。

 いざとなれば『セーブ&ロード』もある。

 重要なのは、何をどうしてこのような状況になり。

 どういう目的があって彼等は自分を拉致しているか。


 情報が欲しいのだ、知る事が出来れば対処が可能かもしれない。

 予想できる範疇であるのなら。


 やはり『蛇王の呪い』関連ぐらいしか思いつかず。

 そうでなければ、珍しい魔物を生け捕りにする系の冒険者とか。

 そんな所だろうか。


 念のため隠せるものは隠しておこうと思い。

 『蛇王の象徴』の派手な翼

 『触手』を数本

 『蛇王の呪い』『不死の肉体』『セーブ&ロード』を隠蔽

 その他『エビルパイソン』が本来使えそうもないスキルを多数隠し。


 そして今に至る。



 街だ、街が見えた。

 城は見えないが、怪しげなでかくて黒い建物が幾つか見受けられる。

 塔っぽいのもあった、見た感じ他の建物よりも10倍はあるぐらいに長い。



 街が近づくと、黒い布にて視界を遮られ、どこかに運ばれてしまう。

 ………街中を見てみたかったのに。

 なんて思いから布に穴を開け多少なりとも周りの様子を伺うが。


 自分が思い描くファンタジーの世界のイメージと重ねるには情報が少なすぎてなんともな所であった。

 人影はそれなりに見受けられるようで、多少なりと話し声も聞こえたが。


 意味を理解するには言語の壁があるようで良くは分からなかった。

 なんとなくだが、ギリギリどういった感情を込めているかといった点が分かるぐらいである。


 あの時、理解出来そうな言葉を聞いたような気がするのはなんだったのだろうか。

 まあ、いつか言語の壁は突破して理解してみせよう。

 これは必須事項だ。

 その為にも、この世界の人間との交流を成功させねばならんのだ。


 …とはいえ、今回はダメだろう。

 少なくても『エビルパイソン』の姿では望みが薄い。

 『スネークリング』であれば物好きな人間に取り入られる可能性は無くもない。

 『アサシンヴァイパー』にて潜入作戦を開始し、図書館的な何かを漁ったり

 生活の様子を観察し勉強するのも可能性としては無くは無い。


 そんな可能性を考えていると、どうやら目的の場所へ付いたようだ。

 薄暗い、石畳の床、その上に自分を閉じ込める檻が置かれて周囲の人間は誰もいなくなった。

 周囲から聞こえる音は特に煩い訳でもないが、別段静かという訳でもない。

 周りには何がいるのだろうか? 少なくても人間ではない何かの声が響く。

 不意に檻の鍵が開けられ四方に音を立てて檻が倒れこんだ。



 今の自分は牢屋の中の蛇である。

 狭苦しいイメージが湧いてしまったのは自分が大きくなってしまったからか?

 人間視点で見るならば、広々とした殺風景な牢屋であるんだろうなとは思った。

 観察を続ければ窓一つなく、あらかじめ『追跡能力』のターゲットにしておいた人物達の手がかりも見当たらず。

 そんな牢屋の中心に太めの石柱がある理由は良く分からないが。

 大黒柱とか、構造上やむを得ない事情でとか、何か理由があるのだろう。

 とりあえず巻き付くのに丁度良くて、遊び道具な感覚で自分はその柱を使ってみた。


 暫くして視界に入るは屈強な筋肉を誇る偉丈夫が一人。

 魔物の毛皮であろう物を見に纏い、牢屋の見張りは他には居ない。



 品定めをするような目で疑問の言葉を独り言のように呟きながら時間だけが過ぎていく。

 時折試すように鞭が飛んできた。多少怒りの感情を覚えるが効いちゃいないので様々な反応をして、相手側の反応がどんなものかと試してみたりもしたが。

 特に目新しい情報もなく、その男も次第に興味をなくしたのか淡々と、なんの肉とも言えない奇妙で新鮮な塊を提供するだけの存在となっていた。

 他に食べるもののない自分はそれを食べて飢えを凌いでいた。

 その肉はなんとも言えない奇妙な味がしたが。体調に影響を及ぼす事は無く。

 ただただ、時間だけが過ぎ去っていった。


 それから数日が経つ。


 暇だったので。

 天井に上ったり、ぶら下がったり、壁に張り付いたり。

 回転したり、反復横とびをしたり、自らの体を絡めてみたり。

 触手立て伏せをしてみたり、スクワットもどきをしたり等。


 牢屋の中心部の柱も、巻きつくには丁度良いのでぐるぐるに撒いて力を込めてみたり等で遊んでいた。

 巻きつき具合が丁度良いんだよね~、こーいう太くて硬い奴。


 とにかく体を鍛えるようなイメージで動き回っていた所。


 やはり、筋骨隆々な偉丈夫。

 多分看守であろう者が奇妙な面持ちで此方の様子を伺っている様子が見られた。

 独り言を喋っているが。その内容を理解する事が出来ず。

 ただただ、予想するしか出来ない自分がなんとも歯痒い。


 さらに数日。


 別な人物がやってきた。

 如何にも、地位の高そうな、それでいて性格の悪そうな人間である。

 人は見かけによらないので何ともいえないが、第一印象はそんな所だ。


 そいつは看守と何度か言葉のやりとりを終えた後。

 此方の様子を伺い。帰って行った。


 そして月日は流れる。



 そんな日々を毎度の事のように、どれだけ体を丸められるかとか。

 尻尾の設置面をどれだけ少なくしての、バランスをどこまで取れるかとか。

 肉体的な検証と、強化を淡々と繰り返していた所。


 自分の奇妙な行動に、ついに看守は檻を開けて魔物である自分に干渉してきた。

 絶対の自信があるだろう風貌に多少気圧されるが。

 一体何を考えているのか。


 逃げ出すにはチャンスではあるが。

 目の前の看守が気になる所。


 ふと、食べてしまおうか、なんて思考が頭を過ぎるのが。

 魔物の生活が板に付いてきてしまった所為だろう。


 いいや別に食べてしまえ。

 変な肉ばかりで飽きていた所だ。

 こんな不自由で、せまっ苦しい場所に押し込めたお前が悪いんだー♪


 頭をガブっと。

 そのまま舌で顔中嘗め回しちゃれ。



 なんて遊んでいると多少冷静になれる。

 なんの抵抗もしないなんて不思議だなーと思えば。



 どうやらそれだけで意識を失われてしまったようだ

 慌てて口の中から開放してあげたのだが。


 顔中を文字通り真っ青にして崩れ落ちてしまった。

 ………嗚呼、やっちまった。

 ほんのお遊びでも人間にとっては命に関わるような行為だったようだ。


 物理的にはやんわりとの筈だったのだが。

 思ったより力が入ってしまったのか。

 相手がムキムキマッチョの看守さんだという事もあり、

 まさかあっさりと落ちるとは思わなかった。

 なんていう言い訳は無駄であり。


 今後の立場が悪くなってしまうであろう状況に頭を悩ませつつも。

 本当に、こんなにもあっさりと…

 何かしら対策をして入室してきたのではなかったのか。


 動物園のライオンの檻の中で体に肉を巻きつけてやってきたとか。

 落ちたら死にます!なんていう張り紙がしてある台の上から自ら飛び降りてワニに食われただの。

 そんなレベルのお話を耳にしたことはあったが、やる奴はやりますからね。

 この事例で言うと、自分の不注意であったと心からの謝罪をします


 なので責任を取ってするべき事はと考える。

 考えて間もなく、食べてしまう事を選択肢に加えてしまう自分が末恐ろしい。

 そんな選択は却下。


 様子を見るに多分、自分より発せられる毒素による症状であると推測。

 解毒系の知識が無いのでこのままでは死亡。

 もしくはそれに近い状態となる可能性にあるとさらに推測。


 …見たところ一人なんだよなぁ。


 仕方ない、放置していても死ぬだけだし、自分の責任でもあるのだから。

 毒素だけはどうにかして抜いてやろう。



・スキル『体液注入』

・スキル『液体操作』

・特性『液化』

・特性『触手』



 使用するスキルはこの辺で決定。

 後はこれ等をどうするかと言えばだ。


 密着すれば液体を操作しやすくなる訳で。

 自らも『液化』すれば密着率はさらに増え。

 『触手』を扱う要領で、目や鼻や口といった辺りから進入したであろう毒素を根こそぎ奪い。

 あとはオマケに『体液注入』で精力増強とさせてあげよう。



 手遅れでなければ良いのだが。

 命を取り留めても脳が毒素におかされていて、今後の生活に支障をきたします。

 なんて事になったらせめて、痛みを知らず麻痺毒毒させて胃袋に送ってやるとしよう。



 そんな考えをしていると、早くも反応が見受けられた。

 どうやら大した事は無かったようだ。

 何事かと驚き、あわてふためいて居たが。

 折角なので「やあ、おはよう」と声をかけるも出てくる声は。


 「ろーろーるぅーおーん」


 的な発音だったのでかえって相手を驚かせる事になった。

 仕方ないので部屋の隅っこでふてくされた。

 隙を伺っていたのか看守は素早い動きで牢に鍵をかけ、

 遠巻きながらもその溜息が何度も聞こえていた。



 この事件が切っ掛けだったのか、支給される肉はより多くなったが。

 一体なんなのだろう、この肉は。

 状態から見て新鮮ではあるのだが、どうせなら焼いたり煮込んだり。

 ちょいと辛目のスパイスを効かせてくれたりしても良いではないか。



 まあ肉は多いに越したことは無い。

 腹が減るのだ。とにかくこの体では幾ら食べても満たされない感覚がある。

 動けなくなる程でもないので腹八分目である。

 足りない分は水でも流し込んでおけば良い。



 そういえば、牢屋は他にも存在するようだが。

 その中にはどうやら他にも魔物が居るようでどうにも

 自分個人を狙った拉致ではないような気がしてきた。


 考えるうちに、暇だ、これでは単なる牢屋警備員である。

 最近ではスキルを駆使して、脳内マッピングをしているうちに



 ―――スキル『脳内地図作成』を獲得



 より正確に建物の構造を把握できるようになってしまった。

 どうやって牢屋の中からマッピングをしているかといえば。


 既に縛りは破棄している。

 『エビルパイソン』系列以外のスキルを解禁したのだ。

 やはり、何も出来ない事よりも、何かが出来る方が楽しいのだ。


・『隠蔽』

・『液化』

・『触手』

・『熱源感知』

・『追跡能力』

・『暗殺者』


 これだけあれば、隠れる事は容易だった。

 例の筋肉ムキムキマッチョマンの看守に張り付いて巡回ルートを回った事もあり。

 この能無し看守とは一方的にだが心の友と呼べる存在となっていた。


 勿論、不安がらせない為にも、自分は考えて行動している。

 彼がこの牢を巡回するタイミングではちゃんと姿を見せるようにしている。



 そうして、ここ数日のマッピングと状況確認によると。

 どうやらこの場所は何とも表現し辛く説明し難い施設である事が分かった。

 正確な情報も無く自分の推測であるのだが、考えるにココは罪人であろう者達の処理施設。


 初めは、なんの冗談かと思われたが、



 処刑人と思われるものが斧を振り降ろし、

 助けを請うであろう人間の頭部を切り落とす。

 そんな行為を他の囚人の目の前で何度も何度も繰り返しているのだ。



 うわぁ、こいつ等人間じゃねぇ。

 魔物となった自分より人間止めてらぁ。



 衝撃的な事実を目の当たりにし、多少の嫌悪感を覚えるものの。

 必要なのは正確な情報である。

 自分は善人ではなく魔物なのであり。

 どちらかというと、首を落とされたあんなのよりも。

 そこで泣き喚いている系の囚人達をまるごと頂きたいんだけどなぁ。


 なんて舌舐めずりをしている自分に気付き。

 ああ怖い怖いと魔物の体は死体を求めて腹を鳴らしつつ、

 頭は情報を欲して施設の奥へ奥へとマッピングを続けるのだった。


 そうしてあれこれ見て回るうちに、内部には拷問施設。

 闘技場。宿泊場所、その他に小さな工房のような施設もあった。

 調理場のような所もあり、多数の人間が集まっていた事も確認している。



 顔ぶれで言えば、個人的には絶対お近づきになりたくない者達である。



 こうして収集した情報は守護者に任せつつ、

 それ等の情報を一緒に纏めるべく、牢屋の中にて思考している最中なのだ。

 少なくても自分は安全なようだからね。



 そうして考えを纏めている内に気付いたが。

 この肉ってもしかしてアレか、アレ等なのか!

 …考えるのを止めた方がよさそうだ。



 うむうむ、魔物なのだから気にしない。

 別に体調が悪くなる訳でもなし、食べねば生きられぬ。

 ふと、ヌケサク看守が此方の様子を伺っている事に気づく。

 普段の時間とは違うが、まあ偶にはこんな日もあるだろう。


 今日は少し重めの挨拶をしてあげる。


 彼は出入り口のドア以外にもある、開閉式で周囲の石壁にカモフラージュしていた覗き窓から覗いているだけなのだが。

 高い位置からなので文字通りに安全だろうと高を括っているのが彼だ。

 であるならば折角なので、不意打ちをしてあげましょう。

 受け取るが良い、蛇の体を存分に伸ばしてからの『触手』を使って顔の自由を奪ってからの舌で舐める攻撃。

 覗き口に触手が入り込む程の隙間があるからこそ出来た事よ。



 しかし「看守は2度死ぬ」なんてお遊び感覚でヤってしまってはイカん。

 これは単なるお遊びなので、絶妙な反応を示してくれる面白看守には悪いが暇つぶしにこんな事を毎度毎度と似たようなお遊びを続けている。



 それにしても何を気違っておっさんの顔を舐めたんだろうか。

 自分でやっておいて非常に嫌悪感で吐きそうになるが、単なるスキンシップである。

 『液体操作』にて毒素を含まぬ舌で舐めただけであり。

 守ってあげたい系看守は精神的ダメージを受けただけで暫く後に立ち上がり唖然とした様子で帰って行った。



 心に余裕のある事は良い事だ、とはいえ暇なものは暇である。

 さて、今日は何をしでかそう。

 そろそろ、変化が欲しいのだよ変化が。

 得られる情報が打ち止めになってしまったし。

 闘技場のような施設は使われている形跡が無く。

 他に囚われているであろう魔物には理性の欠片も見られない。



 日課である看守が今日も懲りずに覗き窓よりじっくり此方の姿を確認している。

 今日はだらしなく肢体をさらけ出し仰向けに寝転がりうねうねしている。

 その姿が美女であったなら、一悶着あったかもしれないが。

 今の自分は魔物であり別に何事か起こる訳でもない。筈である。

 余程に特殊な性癖をお持ちの方が相手でなければの話だよね。



 そんな冗談を考えていた所、その日の様子は何かが違った。

 姿こそ見えないが看守の傍に複数の人影があった。

 暇潰しの為に行動に起こすまでもなかったかと思うも。

 一先ず『危険感知』に感覚を総動員する。


 不思議な反応があった。

 一名だけ場違いな強さを持つ一人の人間が居るようだ。

 気を引き締めねばならんかな。

 そう思い上体を起こし目を見開く。


 目に映るは、妖艶な魔女のような存在だった。

 少女のような、小さな体躯であるのに気付くには少し自分の体が大きくなり過ぎたからだ。


 まじまじと様子を伺っていると予想外にも人払い。

 さらには、その少女が牢の中で自分と二人きりの状況を作ってしまったではないか。



 なんだ、食べていいのか?

 なんてお約束の選択肢を廃し、一体何が目的なのかは皆目検討が付かない。

 この世界の人間のレベルとやらを知るには良い機会かもしれないが。


 まあ向こうから近づいて来たのだ、何か考えがあるのだろう。

 どれ、初手はどうでるのか、そう構えていた時だった。



 ひょいっと持ち上げられたのだ。

 まるで漫画の中で片手で自分より大きな物を持ち上げるような一連の動作のアレだ。


 魔法使いかと思っていたが実はガチガチの武術家なのかもしれない。

 まあちょっとした現実逃避である。


 ガチムチマッチョ人間弱い…

 なんて思ってたら今度は魔女っ子少女強い…になったのだから。

 元居た世界もこーんなシチュエーションは結構見たよなぁ。

 見てる分には良いが実際持ち込まれるとなんとも反応に困るのだ。

 多分こいつ、見かけは10台だが100歳1000歳を軽く超えたババァに違いない。


 なんたってやる事がエゲツナイんだもん。

 持ち上げられた直後に壁に無造作に投げつけられた自分は暫く悶え苦しんだ。


 受身を取ってなんとか凌いだものの、超が付くほど痛い。

 その上、笑みを浮かべて「ほぅらどーした。かかってきなさいな」的な挑発をしているのだ。


 仕方ない、少し遊んでやるとするかな。



 そうして妙な魔女っ子と魔物である自分の少々ガチなバトルが幕を切ったのだった。



    *  *  *

早々に手っ取り早く終わらせる系で作っているつもりだったと思っていた時期もありました。

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