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蛇と竜はいつものように戯れる

 ファンタジーな世界観でお馴染みの良く目にする地形の種類。

 思いつく限りに挙げてみるとすれば、大なり小なり似通るのはお約束だろう。

 ダンジョンである、例える表現に困る、独自の環境広がる地形である、地形その物が浮遊している等、

 そういう類の特殊な部分を排して答えるならば、先ず説明する地形としてはコレですね。


 上空から見下ろしても端の見えない広大な森はこの世界をどの程度埋め尽くしているのか。

 主な冒険の舞台となるのは至極当然と言えるぐらいな広さである。

 海やら川やらの面積と比べれば水系の地形に軍配があがるものの、陸地だけでの比率ともなれば6割を超えているのではないか?

 と言ってもその6割の中にも街道が引かれていたり中に村や町等もあるのでそこそこに開拓はされているようだった。

 このような情報を知っているのもヨルンが旅に出る前に教えてもらったからなのですよ。


 折角なので残り4割を埋めてみるならば、1割は木々も何もない平地、1割は砂漠地帯になり。

 次の1割分は火山地帯のような地表にまでマグマが溢れ出る地形が広がっている。

 そして最後の1割部分は、今現在にヨルンが居座り、

 目的である始祖竜との平和的な対話をしている区域。


 辺り一面銀世界という表現がぴったりの雪原地帯である。

 良くある所で、巨大な生物が出没しやすい特色がありますね。

 例えば今まさに、ヨルンの前で鎮座する巨大なドラゴンはまさに山である。

 例えようとしましたが、流石にドラゴンは例外ですね。

 魔物でも、ここまで巨大なのはそうそういません。

 そんなドラゴンは、その辺の魔物と違い話が通じる子ですから、

 こうして戯れつつにお話の最中なのです。


「そーかー、ユミルが言ったならー、仕方ないねー。ボクのー、負けだー」

「そーだぞー。こっちの方法のが難しいってユミルが言ってたから挑戦したのだ!」

 対話の末に完全勝利を果たしたヨルンは、大地を悠然と這いまわる蛇となる。

 しかし雪原であったが故に、程なく体中が真っ白となり小さな雪山が出来上がった。

 これ以上の進軍は不可能である。視界も熱源も何も見えぬのだ。


「そーだよねー、本気で妨害してたんだけどなー。そーだよねー、ハッハー!」

「そもそも何で妨害出来てたのか不思議なんだぞー!」

 そんなヨルンを前に負けを認めた始祖竜が、笑い声と共に一息吹けば周囲の雪は全て吹き飛んだ。

 しかしそのブレスの影響で、ヨルンの体はその場で高速回転を続けてしまう。

 目が回る所かカマイタチが巻き起こりそうな程の回転に合わせて震える声は、

 相手に届いているのだろうかと不安になったが、特に問題は無かったようだ。

 程なくして蛇の体の胴体を超える太さな竜の前足がヨルンを押しつけて回転を止めた。


「そりゃあー、キミだって分かるでしょー?」

「確かにそうだー。転移しようとしたら分かるもんねー」

 戯れは程々にお互いがお互い、ある程度の強さが分かる者同士。

 雑談気分で出来る事を出し合っております。

 本格的な争い事に発展する事なくフレンドリーな関係に持ち込めましたな。

 気が合うだろうから一番初めに会いに行けとユミルに言われた理由が良く分かりました。


「だからー、穴をねー、単純にさー、塞いじゃえば良いんだよー」

「でも、ヨルンだったらスキル自体を妨害しちゃうぞー?」

 間延びした声の巨大で毛皮に覆われた体のもふもふ竜は意外というか何というか、

 言葉に合わせてアクティブに動く系のドラゴンです。

 今も今でシャドーボクシングしてますし、一発一発のドラゴンパンチの効果で異常事態が発生中。

 デカイ体で本気にソレをされると空気が振動する所か衝撃波が巻き起こる系災害ですよ。


「えー、そんなのめんどいー。ぶん殴った方が早いってー」

「うむー、分かるぞー。ぶつかりに行った方が楽だよねー」

 という訳で目の前で荒ぶる始祖竜は、言葉と行動通りに物理的解決方法を好むお方なようです。

 そんな始祖竜のお名前はフィンブルです。お互いに自己紹介は済ませてありますし、

 元から向こうさんもユミルから聞いてヨルンの事は知っていたようです。

 お陰様で対話の難易度は程よく下がって良い感じな印象なのですが、少しばかりフィンブルには不満がある様子。


「というかさー、何で今なのさ?」

「んんっ、何か問題あった?」

 ムスっとした顔をする巨大なドラゴン顔は唐突に訪れる。

 その顔の向きははヨルンとは別の方向に向けられ、釣られてヨルンも視線を向けてみるも特に雪景色以外の何がある訳でもない。

 もっと感覚を巡らせれば何かしら分かったのかもしれないが、ヨルンの意識が向けられるのは竜の横顔である。

 見つめられている当の始祖竜、フィンブルはヨルンの事を気にもせず集中しているようだった。

 そんなドラゴンの表情可愛く見えてしまう自分の感性が異常なのか、実際可愛いのかは判断に難しい。

 兎にも角にも、ヨルンにとっては余裕がある故にそう思えてしまうのだ。

 そんなヨルンは内心を顔に出さずに、そもそもに蛇の表情が相手に分かるのかも分からない。

 しかしながらに長生きしているなりの読心術はあるかもしれないと、真面目な気持ちに切り替えフィンブルの言葉を待てば、

 明後日の方向を向いていた竜の顔がヨルンへ向き直り、少し前と変わらぬ口調で話し始める。


「んとねー、人間かなー、何人かのー、攻略組がねー、来てるのよ」

「へぇー、人間さん?」

 フィンブルが言うには、ヨルン以外のお客様がお見えになっている模様。

 なんともまあ間が悪い事であるが、面白い事になりそうではありますな。

 頷くドラゴンな頭は巨体に見合わぬコミカルさで動いております。


「そうそうー、しかも久しぶりにボクんトコ、来れそうな人達がねー」

「ふーん、それって珍しいの?」

 首を振りつつ答えるフィンたんの動きは可愛いと言って良いのだろうか?

 山のような巨体が体いっぱいに感情を表現しようとする様はなんとも壮観であるのだが、

 比較対象が同じドラゴンなユミルしかいないので、比べれば可愛いよりではある。

 首を傾げるフィンブルは、ヨルン的な感性により可愛い方向へと位置付けた。


「冒険者っていうのー? ここ10年で来れたの一人だけなんだよねー」

「一人なん? 道中も魔物多くて、厳しい雪山だと思ったけど」

 そんな可愛げのある振る舞いで対話は続けられているものの、やはり機敏に動く巨体には恐怖感も沸き上がる。

 重苦しく重厚感の満ちた鈍重そうな大きさであるにも関わらず、重さなんて無いような動きですもの。

 とはいえ、そんなドラゴンより遥かに大きなヨルムンガンドの姿を持つのがヨルンなので疑問に思う事等ありません。

 能力値を見れればなあ、と思いましたが始祖竜クラスともなるとヨルンでは能力値を覗き見る事は出来ないようです。

 尤も見れたとしても戦闘中に変動する事もあると、開幕解析系なスキルは目安にしかならないとヨルンは知っているのだ。

 それでも鑑定解析に成功すれば、ある程度の目安として判断出来る訳でして、ちょっぴり残念。

 折角ですし攻略組である冒険者がヨルンの前にやってきたとしたら、試してみるとしましょうか。

 忘れぬように心のメモに残しておいて、来れなかったにしてもまあ、その程度だったという事です。

 とはいっても、話を聞くににはヨルンが言ったように今自分達がいる一体はまさに魔物の巣窟。

 環境的にも人間は防寒具無しでは生きられそうにない程の極寒の土地という話だった。


「そんな道中をねー、すっ飛ばしてねー、キミが来た訳だけだけどもー?」

「それより厳しい目に会ってるから許してねー?」

 睨みつけられたヨルンはドラゴンに睨まれた蛇状態。

 溢れ出る怒りの波動は巨体をさらに大きく見せるぐらいに凄まじい。

 とはいえ襲い掛かられる訳でも無いので許しを請います。

 例えるのであれば、今のヨルンは親を前にした子供状態な状況と似ている。


「まー、ユミルが良いって言ったんなら許すよー。でもねー」

「許された! でも…何かな?」

 少々怖いと思った唸るドラゴンの怒りは、別段激しいものでは無かった。

 何といいますかアレですよ。膨れっ面した子供の類の怒り方かな?

 親と表現しましたが少し後には子供と感じてしまうとは何とも不思議である。

 この感じる雰囲気は始祖竜だけあって長生きが故に出来上がった性格なのだろうか。

 堅苦しい事を無くしてじゃれあえるなんても思ってませんでしたし。

 ヨルン的にはポイントをプラスして高評価ですよ。


「ベトベトにされたー、恨みは残ってるんだよー?」

「ちゃんと綺麗に洗ってあげたから許して下さい。もふもふな毛皮で美しい竜だったとは思わず!」

 デカイ顔で迫りくるフィンブル相手にヨルンは家電製品モードで洗浄済みです。

 つまる所のフィンブルの怒りの原因の一つは、ヨルンがズルをする為に行ったゲームの副産物。

 スライム触手が弾ける事により、飛散したゲル状物質がドラゴンの体毛をベトベトにしていたんです。

 単純に気持ち悪い目にあったから不快な気分にしてしまったんですね。


「分かったよー、許してあげるけど、そもそも何だったのさー、アレはー?」

「ヨルンの使い魔と、呪術による文字で、ちょっとしたゲームをしてみたの」

 そんなこんなで心情ぶちまけたフィンブルの怒りは程よく収まったみたいです。

 ヨルンが自己紹介の後に、ベトベトな体を洗ってあげたのが大事にならず済んだ理由ですな。

 なのでこれ以上ベトベトな話題を続けるのもなんですし、ゲームの説明をするとしましょう。

 簡単に説明するならば、ヨルンはフィンブル相手にモグラ叩きゲームを強制したのだ。

 モグラを叩く、ではなく触手を倒すゲームでしたけどね。

 出した触手の種類に点数のあれこれを改めて説明し、ドラゴンが腕を組んで頷いた。


「ゲームねー、ゲームってああいうのを言うんだねー。ちょっとだけ楽しかったけど」

「そうそう、ゲームは楽しいものなのだ」

 良い具合に気がそれたフィンブルは機嫌も戻り、ヨルンに迫ってきましたよ。

 デカい体が軽やかに動くだけで圧巻です。

 それでいて巨体が動く事に伴う重量音もするんですから恐ろしいものです。

 そんな恐怖感を楽しみつつ、ヨルンの前に顔を寄せるフィンブルは鼻先でヨルンを突っついて口を開く。


「楽しいゲームでもねー、ベトベトになるのは嫌だよー?」

「ううむぅ、見てる分には楽しいのだけど、そこまで嫌がるなら止めとくのだ。ゴメンヨ。

 そういえばベトベトに対する耐性もスキルがあった筈だけどー?」

 ベトベトにされた恨みはネチネチ続くようだ。

 素直に謝り続けた所でふと疑問に思ったヨルンも持っている耐性スキルを口に出す。


「あのスキルはねー。ボクみたいな体だとー、そもそも取得出来ないのー」

「そーなのかー。スキルの形や大きさ以外にも制限あるのねー」

 どうやらスキルを知っていたようで答えてくれましたね。 

 しかも取得できない事を自身で知っているようで何とも興味深い。

 何となく続きそうな会話を繋げようと話すヨルンに対するフィンブルの顔は首を傾げていた。


「ん~、形~?」

「んーとねー。スキルは弁当箱に詰め込む具材の様なものだって守護者が言ってた」

 どうやらヨルン的な説明では意味が通じていなかったようだ。

 なので代わりの違う例えを即興で作り上げる事にしたが、

 そもそもにドラゴンが弁当箱やら具材やらで通じるのだろうか?


「面白い例えだねー。お弁当箱ってアレでしょー?

 食べ物詰めて持ってく奴でー、でも、んー、守護者ってー?」

「スキルの事なら何でもござれなヨルンの守護者なのだ」

 弁当箱で普通に通じてしまった。そして続いた守護者のワード。

 両腕を組んで考えるような姿勢となるドラゴンは何とも人間臭い動きであるな。

 四つ足っぽいドラゴンがどうしてそうも柔軟な体と腕を持つのか不思議でしょうがない。


「そーかー、となると多分ー、キミはアレなのかなー」

「その多分ー。アレなのだー。でも一応アレって部分を言って欲しいぞー?」

 言葉に困ったときのアレ表現はどうやらドラゴンでも同じようだ。

 それでいて意味が通じるのだからなんとも便利なものよ。

 しかしながらにアレだけで終わらせるのは如何なものか。

 互いに勘違いしたまま話が進んでも何なのでこういう場面では聞く必要がありますよね。


「アレはー、そうだねー。キミの分身であり、同一の存在でもない、この世界の贈り物」

「んむ、大体合ってる。つまりはー」

 転生者特典を知っている。それが意味する所は複数あります。

 ヨルンがそれを言葉に出そうと続けようとしましたがフィンブルが先に言葉を繋げてしまいましたな。


「分かってるよー。キミもこの世界を正すようつかわされたんだねー」

「ふむむ、キミも?」

 キミもという事は、転生者特典持ち。

 もしくはフィンブルが言うような御大層な役割を持たされた同士?

 転生者特典を与える側という線は消えたかな?

 首を傾げて考えるヨルンにドラゴンな前足が蛇頭を撫で回し始めました。

 力加減は程よく、小さいモノを撫でるのに慣れているようですね。

 何気にヨルンは良く撫でられるので悪い気はしてませんが、何を聞くべきかとの思考が吹っ飛んだヨルンです。


「その反応は何も知らないみたいだねー。良いよー、話そうかー」

「はい、お願いします。けどー、長くなるなら忘れちゃう」

 思考を破棄して本能赴くままにゴロゴロするヨルンは正直に答える。

 話を聞いても難しい事等、忘れてしまうのが自分であると。

 折角の親切心にて話をしてくれるというのにこの態度。

 聞く者が聞けば逆鱗に触れそうなものだが不思議とフィンブル相手であるならば大丈夫であるとヨルンは感じている。


「だよねー、ぶっちゃけると面倒だよねー」

「何というかー、こう。パッと説明できないーかなー?」

 短い付き合いながら、このフィンブルというドラゴンは上手くやっていけそうです。

 撫でられて弛緩する体をプニプニ押し続ける竜の前足捌きはかなりのテクニシャン。

 下手をすれば眠りについてしまうぐらいの気持ち良さなのですよ。

 一体どれだけの数の魔物を撫で回せばこの域に到達するのか。

 そもそもに始祖竜なんていうぐらいだから、聞くまでもなく相当な数をこなしているのだろうなあと自己完結しました。

 懐柔されるヨルンを揉みしだきながらフィンブルは思うが儘にヨルンを転がした。


「そんじゃー、パーッとねー、説明しようかなー。ちょっと考えるから待ってねー」

「うむ、ヨルンは黙るのだ。って…待つのだ!」

 仰向けに寝転がるヨルンを前にあろう事か始祖竜の巨体が伸し掛かる。

 ズシンッと音を立ててヨルンの体を押し潰されたのですがこれは一体どういう事なのか。

 フィンブルの息は荒い。ヨルンの上に完全に乗っかってしまいましたよ。

 動けぬヨルンは最早声を出すのも困難な状況になってしまう。

 しかし話を聞くために黙ると言ったので話が続く限りに黙っていも問題は無い。

 対するフィンブルは満足気な顔をしてヨルンを下敷きにしております。

 どうやらヨルンに触れて、その感覚をお腹で堪能しておるようです。


 なんと馴れ馴れしい事でしょうか!

 仕方ないのでヨルンもフィンブルの重量とお腹の感触を体全体で味わうのです。

 そうして自身より巨大なドラゴンに潰されつつに考える。

 潰される個所が足の下とかお尻の下とかでもフェチが分かれるんでしたっけ?

 まあヨルンにはそういう類のフェチは特に無いので今は状況を楽しむばかり。

 楽しんでいる所で、フィンブルがヨルンの頭を突っついた。


 話を纏め終わったのでしょうか?

 お腹の下からヨルンは解放されてフィンブルの前に鎮座させられる。

 そろそろ真面目なお話が始まる頃ですかねー?

 ヨルンも気持ちを切り替えられれば良いのですが、望みは薄いですね。

 依然としてヨルン弄りを試みようとするフィンブルを前に調子は変わらずでしょう。

 物理的に弄られやすい体質のヨルンは一体どこまで弄ばれるのか。

 遊びに飢えたフィンブルの気の向くままにヨルンは体中を揉み解されるのだった。



   *   *   *

もふ竜。色々描写してて何ですが、姿が固まってないからキャラ像が揺れ動いてしまう。

とりあえず4足歩行のが後ろ足でがんばって立ち上がる姿は好き。

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