- 豚と遊ぶ蛇 -
蛇の魔物生活を続ける事の、日数不明。
わざわざ覚える必要も無く、その日その日を気ままに生き続ける。
食べる物は特に困らず、命の危険も特には感じる事無く、
今ではもう、余裕の無双生活になりつつあった。
重い体の扱い方も日数の感覚が無くなり、時間の感覚が分からなくなるまで野生的な生活を続ければ、
どれだけ重くても、自分の体の動かし方ぐらいは慣れて、触手の使い方も覚えるというもの。
特に触手は良い物だ。4本もあるし手の代わりにもなる。
さらにはこうして突き出して、気合を込めれば触手の先から魔法の弾だって飛んでいく。
原理は分からないが、スキルとして魔法弾と持っているのでソレを飛ばしているのだろう。
そんな魔法の弾は、溜める事が可能、連射も可能、制御も簡単。
つまりは威力の調整が可能な便利な飛び道具。
そんな魔法の弾を、蛇は大盤振る舞いで連射中。
対象としているのは豚に良く似た、ファンタジーでお馴染みオークと呼ばれる魔物である。
そして魔法弾の対象となってしまったオークなのだが、直撃を受けて程良く即死。
程良くと付け加えた理由としては、原型を留めたままに程良く倒せたから。
食べる物として、優しく扱ったつもりだったが、そうだった。
今は食べる為に倒しているんじゃ無かった。
そうそう、時は遡って、今から数時間前。
ちょっと火を貸して貰いにゴブリン宅へお邪魔しようとした時だった。
遠巻きに見ても分かり易く、燃え盛る建造物が目に入る。
他には崩落した洞穴が多くて、何をされたのか気になる所。
そして視界に入る、生きている者は、ほんの数匹。
ふぅむ、ゴブリン退治の専門家でもやってきたのかな?
観察してみるも、洞穴に川の水を流したり、洞穴を煙なんかで燻したり、等と言う様子は一切無いな。
ゴブリン達はもれなく全滅しているという訳でもないようだ。
それにゴブリン共が襲える人里なんて近くには無い訳だし、
自分自身も人間と呼べる者の姿なんて数回しか見てないのに、
態々遠出までして、何の影響力も無さそうなゴブリン集落を処理しにやって来るとも思えない。
そもそもにこの世界の人間レベルがどの程度かも知らんから何とも言えぬ。
この世界は実は、ゴブリンやらオークやらが犇めき支配していた世界なんて事もありえますし。
でもまあソレ等についても、蛇一匹に余裕で殲滅されるぐらいの集落しか見つけてませんし、
数にしても見つけた集落は1つか2つって所だし、判断材料は無きに等しい。
情報がほぼ無いので、このまま何にも無ければ、時代は人間が栄えられぬ世紀末って所かな?
冗談交じりの思考をしながら、観察を続けた所でとりあえず、ゴブリン騒動の原因は判明。
アレを見つけてしまえば、状況が分かり易過ぎた。
オークの群れに襲われてしまったらしい。
数匹のオークと数十匹のゴブリンの死体からの推測である。
それ以上は情報も無く、知る気も無かったので、
蛇はがっくりと頭を下げて帰ろうかと思った時だった。
不意打ち気味にオークが飛んで来た。
それはもう、捻りを加えて回転しながら、涎やその他の分泌物を撒き散らす、物凄く汚い物体としてだ。
自分の意思で飛び掛かって来た訳ではないようだが、そもそもに何で飛んで来た?
まあ考えるよりは動けという事で、撃ち落とした所。
突如として現れていた、オークの群れに襲われる事となり、遡っていた時も今となる。
そうして出来の悪いシューティングゲームが始まった訳でして。
迫りくるオークに魔法弾を打ち込み続ける事の、スコアボードは別に必要ありません。
守護者がメッセージウインドウに乗せて表示していますが、スコアを競い合う相手もいなければ、
表示限界がすぐにやってくるので、別にいりませんよ。
とりあえず、オークの数がそのぐらい多いのでモチベーションもそこそこに高い。
スコアについては、脳内で守護者に訴えれば表示が簡単になり、
ヒット時に一瞬だけ表示がポコっと現れるようになり、魔法弾のヒットに合わせて、
数字が増えていきますが、つまりはこんな事をしているだけあって、余裕な相手なんです。
逃げる必要も無ければ、全部を積極的に食べに行く程、お腹も空いていない。
倒したオークも、10匹を超えるのだが、控えのオークはまだまだ半分以上残っている。
ふと、視界の端に背を向けて走って逃げるオークが一匹いましたが、他に比べて軽装です。
そして迫りくるオークの装備なのですが、そこそこ堅牢な鎧を着てるっぽいのですよね。
大半が骨とか皮とかなんですが、金属混じりですし、何となく蛮族ちっくな容貌であった。
ちょっと大きめな部隊長っぽいのがいるのだが、アレが配下のオークを投げ飛ばしてきた訳だ。
どことなく悪そうな顔してますもん。そもそもにどうして、よりによって部下を投げてきた?
しかしそんな悪そうな顔と行動をしているのに、1匹のオークがこの場を離れる事を良しとしたのは、
つまりはあのオークが斥候か何かで、上の者に報告に向かったとかそんな理由か?
超速で理解をした蛇は、超速で戦闘を終わらせるべく、星食いを発動する。
残るオークの全ては瞬き一つの間に蛇に食われる事となった。
蛇の目当ては、あの斥候オークである。
振り向きもせずに移動をしているので、此方で何が起こったかも気が付いておるまい。
蛇自身も、生き残ったゴブリン達が、神を讃えて祈るような仕草をしていた事なんかも気付いていません。
展開も忙しく、斥候オークを潜伏しながら追跡する事の、日が沈みかけた時。
蛇は大きめな洞穴を発見する。オークの拠点を発見であります。
それはつまり、蛇にとっての餌場の発見でもあり、
オークがどんな生活を送っているかの好奇心も満たせる、安らぎの場所でもある。
という訳で、数日の時を潜伏する覚悟で観察する事にした。
蛇のオーク観察1日目。
豚人共が洞穴を出たり入ったりしていた。
それぞれのオークには役割があるらしく、オーク1号~10号ぐらいが交代で見張りをしている。
狩りから戻って来たオークA~Dが、所定の場所に獲物を積み重ねていた。
続いて木造の足場の下からやってきたオーク一郎が、その獲物を解体し始め、オーク二郎も手伝っている。
耳をすませば、金属音の響きも聞こえてくる。
そういえばこの穴の広さはどの程度なのだろう?
とりあえず、オークの数は100…は行かないが、20~30は居るだろうし。
洞窟内部の中は、そこそこ広いのだろう。
そうして彼等の生活模様を妄想しながら、蛇の観察は2日目に突入する。
種族名『オーク』 ランクE
HP140 MP20 攻撃:55 防御:35 魔法:8 速度:30
HP144 MP28 攻撃:62 防御:28 魔法:7 速度:28
HP126 MP19 攻撃:66 防御:42 魔法:6 速度:35
HP138 MP22 攻撃:50 防御:30 魔法:9 速度:27
暇潰しにその辺のオークを鑑定してみているけど、ステータス的に弱いという謎。
彼等より上のステータスを持つ魔物なんてそこそこ生息しているのに、どうやって生き抜いているんだうか?
そしてランクがEなのにFランクと同等程度のステータスなのが気になるんだよね。
ゴブリンよりは確実に上だとは思うのだが、ステータスの値と比べて妙に強いのがオークと覚えておこう。
こうしてステータスを見てしまうと、違うランクに分けられている意味が分からない。
はてさて、どんな理由があるのか課題の一つとしておきましょう。
そう思った所で、つるはしを持ったオークが洞窟の中から分かり易く、大声を出しながら外に現れた。
その目立つオークは他の同種よりデカく、体付きも相当に筋肉質だ。
肉が引き締まって美味しそうですね。
じゅるりと生唾を呑み込む事を我慢しつつ気が付いたが、
その傍らには、覚えのある斥候オークの姿が付いて回っていた。
まあ覚えがあると言っても、鎧恰好だけで顔の判別は付きませんけど。
とりあえず、つるはしオークの一括により見張りを含む、全員のオークがソレの元に集まった。
数にして50匹程のオークが密集する様は、なんともまあ、遠巻きに見ても暑苦しい。
急に狭くなった広場で不規則に動くオーク達の様子は、何とも忙しい。
何を見て良いものかと蛇の頭が混乱し始めた頃。
オーク達は、その全てが戦闘準備を終えていた。
食料を持つオーク。武器を持つオーク。攻城兵器のような大きさの何かを複数で運ぶオーク。
つるはしを投げ捨て、戦斧を代わりに背負うオークは多分、オークのリーダーだ。
そして配下のオーク達も含めて、全てが例外無く、お手製な荒い作りの鎧を身に纏っていた。
先頭を歩くは身の丈以上に長い、戦斧を持った巨漢なオーク。
やっぱりアレがリーダーっぽいが、集落の様子を観察する蛇に気付いた様子もなく、
オーク達は全てがリーダーに引き連れられて、移動を開始してしまった。
そうして暫く後に、何の音もしなくなったオークの拠点。
彼等は行ってしまった。観察を開始して2日目だというのに。もぬけの殻と化したオークの住処。
この場で蛇が出来る事と言えば何だろう?
後を追う事か? それとも、誰も居なくなったオークの住まう洞窟の中を探索する事か?
3秒程考えたので、オークの住処の探索を蛇はする事にした。
こうして堂々と内部に侵入する事の、蛇の体がデカくても、
オーク達が余裕で複数が同時に出入り出来る程の大きさの洞窟なのだ。
蛇が入っても大きさの問題は特に無く、方向転換も容易だが、隠れる場所が一切無いのだけが問題か。
でもまあ、オークに見つかった所で強行突破も可能。なんの問題も無いという事で堂々と探索しましたよ。
そして探索の結果。
寝床は臭い。用途不明の小物はその辺に転がっていて、生活感が少し残っている。
家具は無い。物置にしているであろう場所はあった。
トイレは外で済ませるそれっぽいのがあった。汲み取り式っぽい。
洞窟の奥深くに進めば炭鉱があった。木箱に詰め込まれた鉱石は何だか綺麗。
探索を進めれば整った部屋も幾つか見つかった。
そのうちの一つの部屋には、かまどがあるやん。鍋あるやん。食材が無いやん…。
まあ食材があっても蛇に料理なんて、触手があるから何とかなるか。
魔法の適正も湧いて出てきたし、火を扱えるようになれば可能かもしれんな。
妄想に耽る蛇は移動を進めるうちに、地面が妙に舗装されている事に気が付いた。
セメントで固めたような床もあったりして、洞窟の中なのに意外と整っておる?
そうして疑問に思いながら最奥まで進んだのですが、何ですかねコレ?
燭台の灯りを淡く反射している、ツルツルの宝珠がありました。
台座の上に、仰々しく展示されている宝珠です。
ファンタジー宜しく、何やら意味ありげなこの宝珠。
重要な物だとしたら、不用心にも程がある。
空き巣に入られて、盗られるなりぶっ壊されたりしたらどうするんですかね~?
そう思いながら、早速触れてみる蛇は驚いた。
バチッ!
増幅された静電気のような衝撃を受けて、巨体が浮かされる事になるとは誰が思ったか。
意を決して、もう一度触れてみましたが、結果は変わらず。
その辺の棒を使って触れてもみましたが、粉々に砕け散る始末。
セキュリティは万全のようですね。これなら盗まれる心配もなし。
HPも100程減りましたし、この衝撃は普通に死ねる類の物だな。
しかし触手に取って調べられないとなると、どうしたものか?
―――確認 星食いでOK
OK分かった。食べてしまおう。
守護者からの提案を即時実行する蛇は、宝珠を食べた。
―――確認 問題なし スキル習得の足しにします
つまりその程度の物だった訳だ。
何となく美味しい物を食べた気がした蛇は満足し、洞窟の外に出る。
洞窟内でも外に出た所でも、特にイベントが発生する訳でも無く拍子抜けをした所で蛇は思い出す。
あのオーク達は何処行ったんだ?
情報1.ゴブリン達の村を襲っていたオーク。
情報2.斥候は何を伝えていた?
情報3.帰らぬオーク達。そして気合の入った戦闘準備。
答えは出ていましたね。
アイツ等、ゴブリンの集落に向かったのか。
といってもそのゴブリンの集落も生き残りは十数匹って所だったけれども。
こりゃあ、生き残りも少ないし全滅かな?
様子だけは見に行ってやろう。
運が良ければ、あれだけの頭数での移動だ。
蛇が急げば、まだ間に合うかもしれないし、そうでなくてもソレを理由に蛇が大暴れ出来る。
という訳で急いだ蛇は、ちょっとばかり遅かった。
オークさん達、ゴブリン集落を探索中。
そして一方的な蹂躙ですな。
まあ、可愛くない奴等が殺り合ってる所なんて興味は無し。
魔物同士でこんな事もあるんだな~、と見聞を広めながら蛇は介入を開始した。
先ずは片手で持ち上げられて、もがいているゴブリンを、オークの腕ごとパクリ。
どの道、腹に穴が開いていて致命傷でしたし、オーク共を驚かせるのに役に立って貰いました。
こうする事により、蛇とゴブリンは友好関係を結んでいないという証となり、
人質ならぬ、ゴブ質にされるという面倒な選択は排除された事でしょう。
とりあえず、痛みに叫び声を上げるオークが目障りになったので、その豚頭をもしゃり。
頭部を失ったオークは、糸が切れた人形のように崩れ落ち、暫しの静寂が訪れた。
どこからか現れた蛇を前に驚き、オーク達は現状を理解するのに数秒の時間を用した訳だ。
喚き始めるオークが現れたが、言葉なんて分からん。
恐怖を煽る為に、魔法弾でもぶっぱなしましょう。
ドドドドドン、ドドドドドン、ドン、ドォン、ドゥン!
リズミカルに打ち放たれた魔法弾は、容易くオークの命を刈り取っていく。
かのように思えたが、倒せたのは数匹のみで、その他のオークは盾を構えたオークの後ろに固まり、命を繋いだようだ。
狙い通りには行かなかったかと思うも、防御されなければ楽に倒せるのだから息切れに注意して程々に頑張りましょう。
方針としては、相手さんの数は多い。星食いで一気に食べてしまっても良いのだが、自身の能力を試すには良い機会。
そういう訳で、何となく正面切って戦いたい気分になっている蛇は小休止。
魔法弾の乱打が落ち着いた所でオークの怒号はさらに強まった。
しかし言葉が分からないので蛇さんには関係の無い事だった。
オーク語に合わせて、ポージングをする蛇は相手側から見たらどう映るのか。
一通りの怒鳴り声が終わった所で、蛇は進軍を開始する。
ゆっくりと地面を、蛇の半分の体を使って這い寄る事の、縮まった距離は数メートル。
オーク側より飛んでくる、矢とか石とか投擲槍はとりあえず魔法弾にて撃ち落とす。
難易度は低いですね。別段見えない速度で飛んでくる訳でも無いですし。
矢の数もそれ程に多い訳じゃないですし、と思っていた所で飛んでくる豪速な槍。
効果音にして、投げるというよりは爆音に近く…、バァン!
そう聞こえる程の音量と、それに見合う程の威力の槍が、蛇の顔面を目掛けて飛んで来た。
…が、それが何だ?
見てから噛みつき余裕でした。
受けた衝撃も余裕で耐え抜けて、後はもぐもぐごっくん。
槍は美味しくないです。お口直しに別の物を頂きたいですね。
そう思って見渡してみれば、見れば攻城兵器とも似た、使う事も出来そうにない、
大きなお荷物の後ろに隠れるオーク達の姿が視界に入る。
アレは多分、破城槌。せめてカタパルトとかの飛び道具とか、その系の兵器だったら警戒もするのですが。
アレを抱えた複数のオークが、蛇に向かって来るとかあるんです?
何か必死に集団で握ってますし、やって来そうな雰囲気もあるんで、咆哮しときますかね。
ギャオーンっとな。
怪獣気分で本気に叫べば、オークは怯んで攻撃の手が緩んだようです。
その一瞬を逃す事無く、オークの群れの一角に蛇のこの身を体当たり。
重量に任せたこの一撃は、オークでは耐えきれない。
むしろ破錠槌が逆に砕け散った。どうやら単なる破壊可能のオブジェだった模様。
結局の所、無双出来るのだから、叫んで突っ込むだけのゴリ押し戦法が一番楽しいのだった。
そんな楽しむだけの蛇の突進攻撃を受けたオークの大半はあっさりと帰らぬオークに。
その他の無事だったオークは散り散りになり、特に追撃もやってこない。
喚くオークは多分ボスだろう。
そして多分を続けて、アレはオークの上位種だろう。
ハイオークだか、オークキングだか、そんな感じですかね。
投擲能力は相当なモノだったが、その他の能力はいかに?
配下であろうオークの一匹に巻き付きつつ、蛇の吐息を吹きかける。
ほ~ら~、これからオマエが入る所の臭いだぞぉ~♪
調子に乗ってしまった蛇は、ゲッフーと、大気に色が付く程の物を吐き出してしまう。
臭そうな匂いに包まれてしまったオークは、それだけで他界した。
普段はもっと上手く、生かしたまま体内に招き入れるんですが、気合が入り過ぎましたかな。
毒気が多く混じってしまったようで、自分でも少し臭いなと思ってしまう程の吐息が出てしまったようです。
ああコレは毒だなぁと思い出した所で、襲い掛かって来た一匹のオークに対して、ヒップアタックを敢行する。
手加減はしたつもりなのだが、顔が変形してしまったオークが発生し、死亡を確認した。
そして勢いそのままに、巻き込まれたオークは3匹程が周りで体勢を崩しながら怯んでいた。
蛇の眼下という、そんな状態で怯んだのならば、その間はやりたい放題という訳で、毒霧の威力の程を試してみましょうか。
といった所で未遂に終わった行為を試す為、オークの一匹に尻を密着させ、その他オークも傍に寄せる事の。
気合を込めて~、蛇は体中から毒を噴き出した。
哀れオークは毒霧を受けてから苦しみだして、もう動くことは無くなった。
別にガスが尻から出ていた訳でもないのだが、この威力はすさまじい。
食用の適正は随分と下がった気分ですし、基本は封印安定であるな。
この実験で、普通のオーク相手なら近寄る=死という事は分かった。
ボスオークはどうだか知らんが、この惨状を見ても、まだまだやる気は満々なようだ。
結構な無双をしているのだが、あの親玉の戦意は下がる所か増している。
実は相当に強いのかもしれないが、蛇は全く驚異を感じていない。
しかし油断する気は無いので、全力で挑ませてもらおう。
そんな気分で対峙する蛇は、過去に戦ったクマやワイバーンの強さを知っている。
目の前のオークがアレ等に匹敵するモノであるならば。
身の丈を超す戦斧を振り回し、蛇の元に迫り寄るオークは威圧感が半端ないが、
やっぱりどうにも、アレ等に比べると見劣りするのは何でだろう?
大地を揺るがし、武器を振るうその速度は驚異の一言。
その筈なのに、蛇は体を捻るだけで、その一撃を受け流す。
受け流された戦斧はオークの体勢を崩すには十分な力が加わったらしく、
蛇流の致命の一撃、テールスピアが深々と、ボスオークの胴体を貫通する事になった。
どうやら、ボスオークも蛇にかかれば一撃必殺で終わる程度の相手らしい。
見るからにな即死攻撃を受けても、HPが残っていれば生きているとか、お約束展開かなと思ったりもしたが、
そんな事は別に無く、もう動かなくなったオークは予想の範疇内の強さだったようだ。
やはり、自分の感覚は間違っていなかった。ステータスを見るまでも無かったな。
忘れていた訳ではない。己自身の感覚を鍛える為に、あえて調べない選択もあるのだ。
戦闘中に調べるには時間が掛かってしまうのが鑑定スキルですし、頼ってばかりなのも何ですしね。
相手さんは多分、ランクにしてD程度のオークだったのだろう。
死体を鑑定してみれば、ハイオークとしてやっぱりDランクに分類されている魔物だった。
さらに上位種のオークもいるんだろうなあ、とは思うが目の前のコレなら、いずれは進化したのかな?
一息ついて確認を済ませても尚、残党はざわめき続けてまごまごしている。
興も削げましたし、残党のオークを相手にするのも面倒だ。
逃げるなら良し、向かって来るなら容赦はしない。
見せつけるようにハイオークを一呑みにしつつ周囲を見渡せば、残党オークは逃げの一手を選んだようだ。
一部のオークは逃げ遅れて、ゴブリン達に袋叩きにあってますが、まあ不干渉で良いでしょう。
いずれ、彼等の言葉が理解出来るようになれば、別の視点で楽しむ事が出来るかもしれないが、多分忘れるだろう。
いっその事、オーク語に合わせてアテレコでもすれば良かったかな?
よくも俺の仲間をー、とか。
役立たず共めー、オレがやるー、とか。
笑い声なんかも上げてましたし、もしかすると名乗りを上げていたのかもしれませんね。
別に名乗った所で覚える気なんか無いですし。
もしかすると、我こそは魔王に関係する何かの配下とか言ってたのかもしれませんし。
言葉さえ分かれば、ソレ系の組織に勧誘されていたのかもしれません。
という妄想を一通り終えて、倒したオークの全てを食べ終えた蛇は一先ず満足です。
適度なイベントの発生で程良いスリルを味わう事が出来て、そこそこ楽しめましたからね。
こうしてゴブリンの事等すっかり忘れた蛇は行く。
生き残ったゴブリン達はこの後に、名も無き蛇を崇め始める事になった事も知らずに、
知った所で気にもしない蛇は次なるイベントを探して散策をする。
このエビルパイソンという巨大な蛇の姿になってから、心の余裕は増すばかり。
人間らしき生き物とも、何度か出会った事があり、湧き踊る感情をぶつけた事もありました。
その全てから、例外なく逃げられてしまう蛇の姿は、どうやら相当に怖いらしい。
セーブ&ロードを駆使して、接近も試みたがコミュニケーションは不可能でしたし、
いざ前にしてしまうと、食欲が湧きあがってくるので積極的に前に出る事は控える事にした。
するべき事は他にありますし、面倒事になるのも何だろう?
人間らしき存在を実際に目にした所で、蛇の行動は変わらない。
軽く討伐されない程には強くなり、余裕を見せて、全てを受け止められる能力作り。
何度でもやり直せるのだ。楽しむ為に、強くなる為に、思うが儘に行動をするのは当然である。
蛇なだけに、気長に考え、焦らずゆったり、マイペースに行動すれば、見つけてしまうは巨大な檻。
中身を見れば、お供えされたお肉の塊は相当な大きさである。
しかもソレは絵に描いたような漫画肉であり、食欲をそそる匂いが漂ってくる。
ソレは明らかに罠であり、そんなモノに引っかかるか馬鹿と、蛇は思っている。
だがしかし、つまりコレは人間が仕掛けた物なのだろう?
何か上手い使い方は出来ないものか。
蛇は一旦休憩し、セーブを挟んでまったりと考えるのだった。
* * *
追加したお話。蛇は特に覚えてもいないお話。




