進化の浪漫
どうやって魔法を使うかと試行錯誤していた時だった。
複数戦であったが多少の余裕があり、目の前の敵を相手に『蛇眼』『威圧』にてほぼ無力化した所で。
魔法を放つなら口の中からというイメージしか沸かず。
魔法の力を口内で凝縮する構想を整え、エネルギーを収束させていった所。
なんだか上手く行きそう!な感覚を本能で覚え、
調子に乗り全ての魔法力を全力で込めた時にそれは起こった。
目の前、全ての敵が口内に出来上がっていた球体に吸い込まれてしまったのだ。
このまま球体をどうやって飛ばそうかと悩んでいた所だったのだが。
ついつい、それを丸ごと呑み込んでしまった事で、
ユニークスキル『星食い』を覚えたのだった。
その後、似たようなイメージで魔法のエネルギーを込めるも
それは全て『星食い』スキルの前準備となり
浪漫である、口から魔法の波動を放つという
初期の構想からは全くもって外れた結果となってしまった。
まあ、これはこれで格好良いので文句はない。むしろ最大限の感謝を。
―――確認 心からの喜びを感じました
へい、ありがとうございます守護者よ。
毎度お馴染みとなったナレーションの声変わらぬものの、
悠長にフレンドリーに話をかけてくれる相棒のような存在となっていた。
少なくても何も無いよりは、精神的に大分助かっている。
さて、思考を戻そう。
『星食い』は確かに便利で有用でとんでもなくチート臭いスキルではあるが。
『蛇王の呪い』のように、少なくても視覚的な派手さはない。
使いようによっては、集団戦から隠密までこなせると思うがその辺はやはり検証が必要だ。
今回の生は、この『星食い』をいかに上手く使うか。
『蛇王の呪い』を一切発動させないという事を最重要事項として生きる事にするのなら、
他のスキルを使い立ちふさがる敵をどうにかしなくてはならない。
その為にも『星食い』の特性を正しく理解せねばならないのだ。
他のスキルでは正直、格上相手には一切の抵抗が出来ない程度の弱者が今の自分。
認めるしかあるまい…だがいずれ『星食い』無しでも進化まで持っていってみせる!
とりあえず。現状理解出来ているものを上げるとするなら。
1.MPを使用時間に比例して消費する
2.対象物の体躯など関係無しに胃袋に収まるようだ
3.勿論腹も膨れるし、レベルも上がるし、HPとMPも吸収してしまう
4.未だに抵抗された相手は居ないが、多少時間のかかる個体も存在した
5.無差別ではなく特定の対象だけを決めて発動する事が出来た
軽くどの程度のものなのかと考えてみたものの。
まさに必殺技である。無駄に乱用はしない事にしよう。
とりあえず、このスキルだけに頼るのも最初の進化までの間だ。
それ以外に無闇やたらと使うつもりはない。
通用しない相手が現れたらその時点で敗北が決まったような事態に陥るのだけは避けたいと理由があるが、
何より便利なスキルだけに頼っていてはこの世界で生き抜く力をつけるには難しいと思ったからだ。
そもそも一点特化というスタイル自体が自分に合わない。
スキルレベルも存在しないようだし、スキルを育てる楽しみも無い。
序盤に楽して後半きっついなんてのは嫌なのでね。
どうせスキルのレベルが戻るんだから…
そう考えていると後に手痛いしっぺ返しが…!
なんて深読みして何事も起こらないまでが所謂テンプレ行動。
どれ、サクっと進化前まではレベルを上げさせて貰おう。
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ランクF+ 種族名『黒斑蜥蜴』
Lv:89 HP95/95 MP41/41
攻撃:43
防御:25
魔法:32
速度:66
注釈:不味い
毒性が強いようだ。体中が麻痺して死ぬかと思った。
動きも素早く毒を弾丸のように放つので厄介。
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ランクF+ 種族名『ロックスパイダー』
Lv:53 HP53/53 MP40/40
攻撃:47
防御:52
魔法:50
速度:45
注釈:美味
外甲殻代わりの岩はただの岩。中身が美味しい。
背景に擬態し不意打ちを得意とする。
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ランクF+ 種族名『アートウルフ』
Lv:80 HP89/89 MP64/64
攻撃:87
防御:41
魔法:88
速度:63
注釈:美味
体に浮き上がる模様も美しい
止めを刺し損ねると悲痛な鳴き声を上げるので心が痛む
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ランクF 種族名『ハンマーラビット』
Lv:89 HP30/30 MP12/12
攻撃:61
防御:25
魔法:23
速度:51
注釈:美味
臆病な性格の様だが追い詰めると猛烈な反撃が文字通り跳んでくる
可愛いと思って近づいたら叩き潰されていた
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ランクF 種族名『スネークイーター』
Lv:69 HP40/40 MP22/22
攻撃:21
防御:35
魔法:30
速度:77
注釈:美味
無防備な姿を晒せば向こうからやってくる本来であれば天敵なのだろう
空を飛ぶので相手をするのであれば対策が必要
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ランクF- 種族名『フォレストワーム』
Lv:15 HP60/60 MP33/33
攻撃:35
防御:8
魔法:20
速度:11
注釈:不味い
ねっとりとした体液 口から吐き出す事もある
うねうね群れて重なって気持ち悪い
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ランクF- 種族名『ゴブリン』
Lv:13 HP25/25 MP10/10
攻撃:31
防御:15
魔法:8
速度:22
注釈:不味い 煩い 群れる、奇襲する等
単体でもステータス以上の能力を持っていると心がける必要がある相手
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ランクF 種族名『コボルト』
Lv:41 HP45/45 MP18/18
攻撃:57
防御:51
魔法:30
速度:45
注釈:意外と美味
武具を操る知性を感じる 複数で行動する事が多いようだ
犬顔の長身で人型 言語のやりとりをしている節が見受けられた
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ランクF- 種族名『レッサーメイト』
Lv:41 HP15/15 MP30/30
攻撃:16
防御:8
魔法:6
速度:18
注釈:逃げた
良く分からない相手ではあったが弱いようだ
向こうから近づいてきたのに謎が多い
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という訳で、レベリングついでではあるが。
主に周辺に生息する魔者達を解析し続けてみたのだ所。
同じ個体でもレベルの違い、さらには取得スキルにまで差が出来る事がわかった所だが。
その内でもレベルのみで考え最高レベルだった者のみを心のメモに残しておいた。
100レベルへ到達する為に犠牲になって頂いた魔物達の数は約30。
思ったほどに数は少なく済んだ。さらに日数も大幅に短縮。
レベルアップ速度が明らかに上がっている。2周目だからだろうか?
僅か1週間にて達成。短いかどうかは分からないが。
なるべくランクがFとやらを選び事を運んできたのだからこんなものだろう。
ランクとやらがEにあがると格段に能力が上がるのだ。
無論、スキルとやらも強力な物が揃っている筈なので無茶は禁物という理由でだ。
―――確認
『進化』が可能です
『進化』先は選択が可能
『進化』の為の決意が確認され次第
『進化』を開始します
予定通り、それでは守護者よ、スキル『セーブ&ロード』にてデータ2にセーブを。
―――確認 データ2にセーブを完了しました
これにて進化先で迷う事は無くなった。
思う存分試し、自分に合ったスタイルを貫く事が出来るであろう。
よし…覚悟は完了。守護者よ、進化先の詳細は?
―――確認 以下の3つの中より選択可能です
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・ランクC+『アサシンヴァイパー』
しなやかで尚且つ強靭な肉体を得た種族。
その牙や触手による一撃はフルプレートを身にまとった騎士ですらも一撃の下に葬り去る個体であると伝わっている。
そして何よりも恐ろしいのは、その隠密性であり。
冒険者の間ではメンバーの誰かが致命傷を負ってから存在を始めて気付く事例が数多く報告されている。
・ランクC+『スネークリング』
魔法と濃密な関係を持ち強大な魔法を操るとされる種族。
精霊と交流を重ね、友好的な個体も多数確認されている。
非常に温和な性格である個体も確認されているが、小国を滅ぼしたという事例も報告されている。
蛇のような姿の魔物の中では愛嬌があり可愛らしいと貴族の中では欲しがる者も少数確認される。
・ランクC『エビルパイソン』
毒性が強く、悪食である事で有名な種族。
この種自体もそれ等に耐性があり尚且つ新たに耐性を得る可能性も高い。
さらに生命力も高く、生半可な冒険者が相手をすれば全滅は必死であろう。
とても執念深く、手を出さない事が得策と冒険者の間での常識とある。
――――――――――――――――――――――――
…進化先はまさに、どれも化け物揃いだな。
説明だけを見ればであるが。
この説明は一体どこの情報なのでしょう?
―――確認 迷宮国家ラプラスにて確認 冒険者マニュアル魔物編2項を引用
………さらりと爆弾発言なされましたが。
察するに、国という存在は大なり小なり存在し。
尚且つ冒険者と呼ばれる者達が絶賛、新天地を開拓中といった所だろうか。
詳しい情勢は分からないのだが、前世の謎の人影の例もある。
警戒するに越したことは無いだろう。
と、それはさておき、先ずは進化だ。進化。
待ちに待った進化のお時間。セーブも済ませた事だし。
大体予想は出来るが決める前にもう一確認。
守護者よ、ランクに付いての説明を求む。FだのCだの、その辺詳しく願う。
―――確認
ランクとは種族の大まかな強さに対する指標の一つです
最高がAランクとなり続いてB、C、D、Eと続きFが最低のランクとなります
同じランクの中においても+と-にて若干の差異があります
ふむ、概ね予想通り。Sランクというのは存在しない?
他にどのぐらいの強さでランク訳されてるのとかないの?
―――確認
Sランクという枠は存在しません。
しかしAランクの枠に収まらない魔物においては
今後新たな枠が設けられる可能性があります
各ランクの強さについては純粋な魔力保有量にて決定されているようです
そうなると、そのランクと言う枠の外に自分の種族の名が刻まれる事になる日がやってくるかもしれない訳か。
フッフッフッーフシャーッシャーッシャー!
なんて心の中で高笑いを上げておく。目標は高い方が頑張れるのだ。
事実Fから飛び級にてCにまであっさり到達出来たのだ。
このまま行けば別に夢でもなんでもないと思う。
魔力保有量とやらには、イマイチ分からない所が多いので保留。
―――確認
本来であればEランクDランクと2段階の進化を挟むのがリトルスネーク種です
レベルを100にまで上げ進化を果たすリトルスネークは確認されていません
………つかぬ事をお聞きしますが。
進化が出来るようになるタイミングであるレベルとは?
ついでにそのEランクDランクでの種族とはどんなもので?
―――確認
本来のリトルスネークであれば30レベル付近にて進化可能
アナタの場合は取得したスキル もしくは称号の影響であると推測
Dランク以下の進化の可能性は排除され効率の良い進化形態が構想されたようです
………早くも全種族網羅の夢が断たれたー!
しかも…スキルや称号の影響となると、
『セーブ&ロード』を使用しても立直しが不可能ではないか。
なんてこった。早くもこの計画に穴が開いてしまった。
むしろ心にっぽっかりと穿つこの喪失感。
嗚呼…無情。守護者よ…慰めて?
―――確認
下位のランクの種族の特性は上位種族にて全て取得可能です
元より進化の可能性が廃された種族ですので計画に穴は存在しません
………ホントに慰めて貰った。超が付くほど嬉しい。
ありがとう守護者。お前が居なかったら私はこの場で泣き崩れていました。
―――確認 心からの喜びを感じました
毎度ありがとうございます。つきましては進化したいと思います。
お楽しみは焦らして時間をかけて楽しむ物だと考えている。
それが自分へのご褒美であればの話だが。
ともあれ。まずはコイツだな。
一番魅力に感じる物を持っていて、尚且つ単純そうで扱いやすそうというイメージから、
最初に選んで慣れるのが良いだろうと真っ先に思ったからだ。
それでは。いざ進化!
―――確認 『アサシンヴァイパー』への進化を選択
・特性『触手』を獲得
・特性『隠蔽』を獲得
・特性『硬質化』を獲得
・通常スキル『隠密』が『暗殺者』へと変化
・通常スキル『急所狙い』を獲得
・攻撃スキル『回転乱舞』を獲得
・攻撃スキル『スケイルシュート』を獲得
・攻撃スキル『吸血』を獲得
・攻撃スキル『吸血』が『星食い』に吸収され性能が変化しました
・耐性スキル『物理耐性』を獲得
・耐性スキル『精神抵抗』を獲得
・耐性スキル『火耐性』を獲得
・耐性スキル『冷気耐性』と『火耐性』が統合『熱耐性』へと変化
うほっ…よりどりみどり。この数全部を取得なんだな。
ホクホク顔でついつい満面の笑みを浮かべてしまう自分はふと思いつく。
このまま『セーブ&ロード』にて他のスキルも覚えてしまおうか。
よしよし、思い立ったが吉日。一度楽しんでしまったお楽しみは纏めて受け取ってしまえ!
命に関わる物事で出し惜しみなどはしていられない!
フーッシャッシャッシャー!
自分の姿を確認する間もなく自分は『セーブ&ロード』を駆使し3つの種族を全て網羅したのだった。
―――確認 『スネークリング』への進化を選択
・特性『魔法適正』を獲得
・特性『精霊干渉』を獲得
・特性『魔分採集』を獲得
・特性『液化』を獲得
・特性『精霊の翼』を獲得
・通常スキル『魔力操作』を獲得
・通常スキル『魔力増幅』を獲得
・通常スキル『植物操作』を獲得
・通常スキル『水分操作』を獲得
・攻撃スキル『魔法弾』を獲得
・耐性スキル『魔法耐性』を獲得
・耐性スキル『精神耐性』が『精神保護』へと変化
・耐性スキル『呪術耐性』を獲得
・耐性スキル『肉体変化』を獲得
・耐性スキル『風耐性』を獲得
・耐性スキル『雷耐性』を獲得
・耐性スキル『風耐性』と『雷耐性』と『熱耐性』が統合『属性耐性』へと変化
―――確認 『エビルパイソン』への進化を選択
・特性『触手』が進化 操れる数が増えました
・特性『悪魔の翼』を獲得
・特性『悪魔の翼』と『精霊の翼』が統合 『蛇王の象徴』へと変化
・通常スキル『毒の牙』を獲得
・通常スキル『麻痺の牙』を獲得
・通常スキル『毒の牙』と『麻痺の牙』が統合『悪魔の牙』へと変化
・通常スキル『毒生成』を獲得
・攻撃スキル『毒液』を獲得
・攻撃スキル『毒液』がユニークスキル『星食い』に統合 性能が変化しました
・攻撃スキル『体液注入』を獲得
・攻撃スキル『毒霧散布』を獲得
・耐性スキル『物理耐性』が強化 レベルが上昇しました
・耐性スキル『毒抵抗』が変化『毒無効』となりました
・耐性スキル『麻痺抵抗』が変化『麻痺無効』となりました
次々の脳内でアナウンスされるスキルの数々。
まさに感無量であるだが、暫くこの感覚を味わえないとなると寂しい気もする。
とにかく言葉では言い表せない程の嬉しさを感じている。
この喜び、守護者にも分かるかい?
―――確認 心からの喜びを感じました
うむうむ、毎度毎度ご苦労様です。労いの言葉以外にも何か送りたいものだが。
とにかく、守護者に対しても感謝感激の意思をとにかく送りつける。
なにはともあれ、『セーブ&ロード』にて再度『アサシンヴァイパー』に戻ろうかと考えたが
折角だ、このまま『エビルパイソン』にて暫く生活するとしよう。
今夜は各能力の検証だ。
そこい等の魔物相手なら、もはや負ける気はしないし。
じっくりと自分に何が出来るかを調べねば。
フッフッフッフッフー…シャーッシャッシャッシャーッシャー!!!
あれ、体が重い。
リトルスネークの軽快さと違い、
この体はとんでもない巨体であると感じられ。
動くにも苦労しそうな鈍重さだった。
視野の高さも世界が変わる程に違っていた。
これは少し慣れる必要がありそうだ。
こうにも姿が変わるとなるなんて魔物ってやっぱり良く分からんね。
* * *
そろそろ他キャラ視点とかを入れた方が良いのではないか?と思う今日この頃でした。