もしすべてが夢だとしたら
私はたまに、思うことがある。
全て、夢なんじゃないかって。
◇
私はこの世界に何を求めるのか。
きっと何かを求めていたから、ここに産み落とされた。
じゃあ、何を求めたのか?
◇
深夜二時。
屋根を叩く雨の音が響く自室に一人。
ただただこぼれ落ちる涙に、抗うことなく心を共にした。
心が掻き乱された夜、全てを亡くしたような夜。まるで世界に一人しかいない気がする、そんな夜。
私は誰のことを想うでもなく、ただそこに在った。
◇
細かい怒り。強い嫌悪。醜い愛情。
全て、私を形成する忌まわしいもの。
排除したいけれど、この気持ちは排除できない。
排除すると、私が私でなくなってしまう。
涙を流せなくなったら、もう死んだも同然だ。
眠れない夜は、こうして心をなくしたように泣く。
◇
突然の着信。相手は咲人。
私は涙を拭いて、落ち着いた声で応答する。
「もしもし?」
「...。」
「泣いてる?」
咲人は泣き虫だ。何もなくても、不安で泣く。
「...夢香が泣いてるんじゃないかって思って。そう思ったら涙が出てきた。」
私には理解できない。人を愛する気持ちが。
人の心を、愛す気持ちが。
◇
「ねえ、咲人。これは夢なのかな?」
「...え?」
「ここに地球があって、生物が生まれて、私がいて、咲人がいて。気持ち悪いくらい、変に、うまくできた世の中。私は信じられないの。どうしてこんな世界が、存在するのか。」
「...俺は君が、その夢じゃないなら、それでいいよ。」
「じゃあ、咲人、私が夢だったらどうするの?」
「俺も夢になるよ。」
「意味わからない。どうやってなるの?」
「死ぬよ。」
乾いた声だった。
セピア色の、かさついた、潤いのない無機質な音。
私達は、一体何の為にここに在るんだろう。
きっと、目的なんかはどこにも存在しないんだ。
何かの罰か、それともご褒美なのか。
私達はその価値をこの世界で見つけていく。
◇
もう一人の夢香は今夜も揺りかごの中で眠るのである。