触れ合う愛
愛野夢香にとって、生きることは罪であった。
◇
「誰にも愛されないのも辛い。誰かに愛されるのも辛い。結論、私の心地の良い居場所なんてどこにもないし、そもそもここに産み落とされたことが不幸だった。」
ぽつっとつぶやきながら、咲人から届いたメッセージを読む。
「今から家行っていい?ねえねえ!」
だいぶうるさい。嗚呼、と思いつつ。
「はいおいで。待ってるよ」
そんな返事。いつものことだ。
私は咲人のことが好き。でも、それはたてまえみたいなものなのかもしれない。
私は誰からも愛されないことをひどく嫌っている。それはとても怖いこと。生存を認められない、つまりそれは死。
必然的に、選ばれない者は、死。
だから、私を狂ったように愛してくれる咲人を失いたくない。失わないためには、愛すしかない。
玄関のチャイムが軽快に鳴って、彼を迎え入れる。
私は人間に触られるのを酷く嫌う。暴力なんて言語道断。
友達にも、あまり触れさせるのは嫌だ。
やっぱり、「あの人」にたくさん触られてきたから―。
はぁ、とため息をつくと、咲人は私の頭にぽん、と手を乗せる。「こら。」と一言。
「なあに?」
「彼氏がいるっていうのにため息つく彼女がいるかい。」
「ここにいる。」
「...。」
咲人はぎゅっと抱きしめてくるのだ。
嫌じゃないのかって?嫌ではない。
咲人からは「愛」を感じるからだ。愛のある抱擁は、私の心をとろけさせる。
ぱっと、離される。
「なんで離すの?やだ」
私が咲人に抱きつこうとするとちょっと逃げられる。
「いや、だからね?俺はお前を大事にしたいの。これ以上やばいと思ったんだよ」
「もう一回ヤってるのに?」
「お前なぁ...」
咲人は苦笑気味にもう一度私を抱きしめた。もう止まらないつもりだろう。
愛とは何か。私には全くわからないのだ。
私は「理想」で成り立つ女。愛などとうの昔に捨ててしまった。
さて、この「咲人」という人物、私にどれだけ愛というものを教えてくれるのだろう。
とりあえず、愛が生じる場合、体と体が触れ合うことはとても気持ちいいものだということは理解している。心の面はよくわからない。
私はあくまで理想主義者であり、この咲人もまた、私の理想のお手伝いの人物なのだ。