愛は存在しないものだった!
飾りと書いて、つよがりと読みます。
愛が本当は存在しないものだとしたら?
◇
そう、愛は単なる哲学者が作り出した夢物語だった!
お気に入りのイヤフォンも、毎週楽しみにしてたあのアニメも、絶対持ち歩いてる本も!
全部全部、愛によるものではない、そう、違うはたらきがもたらされているものだった!
ひらひら、と風にたなびくスカートをちょっと気にしながら、それでもスキップで私は進む。
じゃあじゃあ、一つ問題です!
結婚は愛を誓うための大切な儀式!
でもでも、愛は単なる夢物語でしかありませんでした!
それじゃあ、結婚って、何の為にするんだろう!
「その答えは、私だけが知ってるんだ!」
そう、その名前は...私だけの意味を持つ、この世で一番尊い言葉。知ってる人は知ってるけれど、私だけにしかわからない意味を持つ、世界一綺麗なあの子...「もう一人の自分」が教えてくれたこの言葉。
「アイディール!」
◇
「ごめん、俺たち終わりにしよう。」
それは一年前の春。出会いの季節でもあるし、別れの季節でもある、曖昧でうやむやで大嫌いな春。
返事をしたのかしてないのかも覚えていなくて、私の中にほんのりと生まれていた温かくて色彩を帯びたまんまるの何かが、ねずみ色になって砕けたのだけを覚えてる。
その日から私の体に巻き付いていた緑色のツルは、愛の色をなくしてカサカサになって、枯れたみたいに茶色になって、寒くて不安で毎晩泣いた。
でもある日、夢を見たんだ。
「愛は夢物語!結果的にはみんな夢!幻を見ている!温かくて優しい気持ちになるのは、愛を勘違いして、自分が自分を認めたからという事実によるもの!そう、それを何と呼ぶか!」
緑色のツルでぶわっと囲まれた空中ブランコの上で、堂々と、高らかに叫んでいる女の子。それはもう一人の私、愛野夢香。
頭の上には小さなクラウンをのせて、腰までなびく憧れのロングヘアーはゆるいウェーブがかかっていて、シャンプーの香りが私の感覚器官を鈍らせていく。
「夢香、あなたは私。これがあなたがあなた自身を認める、究極の証なの。」
ピンク色の空。色とりどりの星は視力の悪い私にも確かに目に見えるほど近くにあって、思わず手を伸ばしてみると、私よりもずっと綺麗なもう一人の「私」が、空中ブランコからゆったりとした動作で降りて、星に向かって伸ばす手にウエディング手袋した手を触れ、そっと指を絡ませた。
「あなたに特別な言葉を教えてあげる。」
薄いピンク色のグロスをたっぷりとのせた唇に目が離せなくなって、私は早く唇が動いて、そのツヤツヤした光沢が綺麗に移動するのを見たいと思った。
「言葉を...教えて?」
もう一人の私は満足そうに不敵な笑みを作ってから、両手で私の頬を包んだ。そして、キスしそうなくらいギリギリな距離に顔を近づける。狂いそうなくらいのシャンプーの香りに倒れそうになりながらも、私はその唇から目を離さなかった。
目を覚ましたら、全然違う世界が...きっと...
「アイディール。」