霧の王
「ごきげんよう。今日も霧が心地よく晴れ渡る、素晴らしい日ですね」
「朝の霧はほどよく朝陽を遮り、植物たちに最適な水滴をもたらす。夜の霧は悪意ある視線を覆い隠し、夜遅くに帰る人々に安全を与える」
「ここにあるすべては『霧の王』の注視の下にある。心に善意を抱く者は病も災いもなく過ごし、心に悪意を宿す者は永遠にこの濃霧の中に迷い込むことになるだろう」
「そうは言っても、私はやっぱり霧が嫌い。だって身体がジメジメするし、何も見えなくなっちゃうんだもん」
「それなら、君は雲が好きかい?」
「好き! 白くてふわふわしてて、空を飛んでて、それにいろんな形があるんだもん!」
「でもね、霧っていうのは、雲が地面に降りてきた時の姿なんだよ」
「ええー……じゃあ、もう雲も好きじゃない」
「そんなぁ……」(男はガックリと項垂れた)
「うふふ……」
「何を楽しそうに笑っているんだい?」
「いえ、何でもありません。あの恐怖で名高い『霧の王』が、まさか孤児院の小さな女の子一人に手も足も出ないになるなんて思わなくて」
「じゃあ、どうしろって言うんだ? 『我は霧の国の統治者なり、貴様は霧を好きにならねばならぬ!』とでも言えと?」
ぷっ!
「そんな幼稚なこと、僕がするわけないだろう! 大人になれば、あの子だって霧の良さが分かるようになるさ!」
いまだにプンプンと怒りながら腰に手を当てている、自称「ちっとも幼稚じゃない」男を見つめながら、女性は口元を手で隠して優しく微笑んでいた。
霧の王、アルスター。この土地を統治する領主であり、その穏やかな性格から領民に深く慕われている。そして同時に、彼は一騎当千の『領域の強者』でもあった。
至る所に変異生物が蔓延るこの末世の荒れ野において、この濃霧に守られた土地は、紛れもなく豊かで、そして幸運な場所だった。
「実はね、元々僕は『雲の王』だったんだ。風の向くまま、流されるままにどこへでも飛んでいけた。だけど……」
男は少し照れくさそうに笑った(へへっ、と笑った)。
「――ここに絆ができて、一つの場所に留まるしかなくなった時。雲は地面に降りてきて、『霧の王』になるしかなかったのさ」




