第66話:放電の儀式(ラスト・バースト)
地下室の空気は、肌がチリチリとするほどの静電気に満ちていた。
地上に立てた鉄の棒から引き込まれた銅線が、青白い火花を散らしながら唸り声を上げている。中央の台座には、あの青く光る結晶がセットされ、狂ったように点滅を繰り返していた。
「……ジャンヌ、装置のレバーを離すなよ! 電圧がピークに達した瞬間に、回路を直結させる。現代の……いや、俺たちのいた物理準備室で、コンセントをショートさせて火花を楽しんでたバカな男子たちの実験とは、規模が違うからな!」
ルイは、絶縁体代わりの分厚い革の手袋をはめ、複雑に絡み合った配線の「接点」を睨みつけた。
高校の文化祭のフィナーレ。巨大な電飾を点灯させる直前の、あの吐き気がするほどの緊張感が今、地下室全体を支配している。
「ルイ、外の雷鳴が……。まるですぐ上で、巨人が暴れているみたいだわ」
私は、木製のレバーを両手で握りしめた。鎧越しに伝わってくる振動が、私の鼓動と同期していく。
かつての私は、この「天の怒り」を神の啓示だと思っていた。けれど今は、それがルイの計算通りに動く「莫大なエネルギー(リソース)」に見える。
「……くるぞ! 三、二、一……今だ、落とせ!!」
ルイの絶叫とともに、私は渾身の力でレバーを押し下げた。
――カァッ!!
視界が真っ白に染まり、轟音が鼓膜を突き破る。
地上に落ちた雷が銅線を伝い、地下の結晶へと一気に流れ込んだ。青い結晶は一瞬、太陽のような輝きを放ち、周囲の空間を「ノイズ」のように歪ませ始めた。
「……よし、ゲートが開いた! ジャンヌ、俺の手を離すな! 現代の……いや、俺たちの図書室に戻るぞ。……あそこには、火あぶりも、裏切りも、不潔な病気もないんだ!」
ルイが、光の渦の中に手を伸ばした。
その手は煤で汚れ、あちこちにペンだこがあったけれど、私にとってはどんな聖遺物よりも尊い、相棒の証だった。
「……ルイ。あなたがいなければ、私はまた同じ悲劇を繰り返していたわ。……ありがとう、私の軍師さん」
「……礼を言うのは、向こうに戻ってからアイスを食べながらにしてくれよ!」
光の渦が私たちを飲み込み、パリの地下室の風景が、溶けるように消えていく。
歴史が用意した「最期」を、二人の高校生は、天の雷を燃料に変えるという「物理の奇跡」によって、次元の壁ごとブチ抜いていった。
「――さあ、ログアウトだ。……最高のハッピーエンドへ!!」
ルイの声が、光の中に溶けて消えた。
歴史の教科書が語る「ジャンヌの物語」の最後の一ページは、今、誰も知らない「空白」へと書き換えられた。




