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『火刑台の終止符(ピリオド)〜やり直し聖女ジャンヌ・ダルクは、最愛の騎士と歴史を覆す〜』  作者: れおん
第6章:巴里奪還(アーバン・タクティクス)

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第58話:アーカイブ(記録の力)

パリの市庁舎の一室。ルイは山積みになった羊皮紙を前に、羽ペンを猛烈な勢いで走らせていた。それは戦いの記録ではなく、もっと事務的で、けれど恐ろしく緻密な「報告書」だった。

「……よし、これで整合性は取れた。ジャンヌ、ちょっとこっちに来て署名してくれ。……あ、花押サインでいいよ」

ルイが呼びかける声は、文化祭の後に残務処理を押し付けられていた図書委員の時のように、少し投げやりで、それでいて正確だった。

「ルイ、これなあに? 戦いは終わったのに、まだ何か書くことがあるの?」

私は、剣の訓練を切り上げてルイの机を覗き込んだ。そこには、これまでの戦闘の経緯、使った火薬の量、さらには捕虜に与えた食事の献立まで、グラフ付きで詳細に記されていた。

「……これ? これは『君がどれだけ正しかったか』を証明する、公式なエビデンス(証拠)だよ。現代の……いや、俺たちのいた学校でも、実績をちゃんと書類にしておかないと、後から『あいつはズルをした』とか『運が良かっただけだ』って言いがかりをつけられるだろ?」

ルイは、書き上げたばかりの紙をパタパタと仰いで乾かした。

「……史実の……あ、いや、俺の計算だと、君の裁判(異端審問)は『記録の改竄』から始まるんだ。……だったら、最初から改竄できないくらいガチガチの『公式記録』を、こっちで先に作ってバラ撒いちゃえばいいんだよ」

「……記録をバラ撒く? 誰に?」

「パリ中の大学教授とか、教会の司教たちだよ。……『ジャンヌの戦いは、これほど論理的で、人道的だった』ってデータを添えてね。……数字と事実に裏打ちされた記録には、どんな意地悪な検事だって反論できない」

ルイは、不敵な笑みを浮かべて数枚の写しを束ねた。

高校生の彼が、厳しい部活の顧問に練習メニューを認めさせるために、わざわざ海外の論文から引用して「科学的根拠」を突きつけた、あの執念深いやり方だ。

「……これで、君を魔女扱いしようとする奴らの逃げ道を塞いだ。……『こんなに計画的で、慈悲深い魔女がいるか?』って、世論の知識層に突きつけてやるんだ」

「……ルイ、あなた、本当に抜かりがないわね。……戦場より、こっちの方がずっと複雑だわ」

私が感心してサインを書くと、ルイは満足げにそれを懐に収めた。

「……当たり前だろ。……君を『悲劇の聖女』で終わらせるつもりはない。……ちゃんと、この時代を生き抜いて、笑って『卒業』させてやるのが、俺の――軍師としての責任ノルマだからな」

ルイは、窓の外で夕陽に照らされるパリの街路を眺め、少しだけ誇らしげに鼻を鳴らした。

歴史が用意した「捏造された裁判」という罠を、二人の高校生は、客観的な「記録」という盾によって、木っ端微塵に粉砕しようとしていた。

「……さあ、ジャンヌ。……これで、君の『歴史的な身の潔白』も証明した。……次は、本当に俺たちの時代に戻る『手段ポータル』を探しに行こうぜ」

「……ええ。……でもその前に、あなたに新しい羽ペンを買ってあげなきゃね」

私たちは、静かな事務室の中で、ようやく訪れた「論理的な勝利」を確信していた。

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