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『火刑台の終止符(ピリオド)〜やり直し聖女ジャンヌ・ダルクは、最愛の騎士と歴史を覆す〜』  作者: れおん
第6章:巴里奪還(アーバン・タクティクス)

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第56話:平和のコスト(経済制裁)

パリに王が入り、街はかつての活気を取り戻しつつあった。けれど、ルイの表情はまだ晴れない。彼は市庁舎の片隅で、計算尺代わりの木棒と格闘していた。

「……ジャンヌ、やっぱりな。王様が来れば万々歳かと思ったけど、今度は『宮廷の維持費』が跳ね上がってる。現代の……いや、俺たちのいた学校の部費が、遠征のたびに足りなくなるのと一緒だ」

ルイが、数字で埋め尽くされた羊皮紙を指で弾いた。

高校生の彼が、文化祭の赤字をどうやって埋めるか、放課後のファミレスで頭を抱えていた時と同じ、切実な表情だ。

「ルイ、お金が足りないの? 市民からこれ以上の税金を取るなんて、私は反対よ」

私は、窓の外で復興に励む人々の姿を見て、眉をひそめた。

「……分かってる。だから、税金は取らない。……その代わり、イギリス軍に『退去費用』を請求する。……あいつら、まだ北部の港をいくつか握ってるだろ? あそこを返す代わりに、今までの略奪分の賠償金を払わせるんだ」

「……そんなこと、あっちが素直に聞くかしら?」

私は半信半疑で問い返した。敗走中とはいえ、イギリス軍はまだ強力な海軍と本国の支援を持っている。

「……だから、ただ頼むんじゃない。……『情報の封鎖ブラックアウト』だ。……俺は今、パリを通る全ての商隊に、イギリス支配地域への物資供給を止めさせてる。……現代の……いや、俺の計算だと、あいつらの陣地はあと一週間で塩と酒が底をつく」

ルイは、少しだけ意地悪な「策士」の顔で笑った。

「……あいつらが『もう戦いたくない、家に帰りたい』って泣き言を言うまで、経済的に締め上げる。……名誉とか騎士道じゃなくて、胃袋を人質に取るんだ。……あっちの兵士だって、お腹が空けば反乱を起こすだろ?」

「……ルイ、あなた、本当に……。……でも、それで血を流さずに済むなら、それが一番いいわね」

私は、ルイの「戦わずして勝つ」という冷徹な合理性に、改めて舌を巻いた。

数日後。ルイの計算通り、イギリス軍の使者が、青い顔をしてパリの門に現れた。

「……和睦の条件を……条件を聞きたい……。……兵士たちが、塩のない生活に耐えられんのだ……」

使者の震える声が、市庁舎のホールに響く。

ルイは、私の後ろで満足げに頷き、あらかじめ用意しておいた「請求書」を恭しく差し出した。

「……よし、交渉成立クロージング。……これで、イギリス軍は自発的に海を渡って帰っていく。……君が捕まる隙なんて、一ミリも作らせないよ、ジャンヌ」

ルイが、私にだけ見えるように小さくガッツポーズを作った。

高校生の彼が、厳しい顧問の先生を理詰めで説得して、部活の合宿を勝ち取った時の、あの達成感に満ちた表情。

「……さあ、ジャンヌ。……これで本当の『戦争終わり』が見えてきた。……次は、俺たちの帰る場所……現代への『ルート』を、少しだけ探し始めようか」

「……ええ。……でもその前に、パリの美味しいパンを、あなたとゆっくり食べたいわね」

私たちは、夕暮れに染まるパリの街並みを眺めながら、ようやく訪れた静かな時間を噛み締めていた。

歴史が用意した「捕縛」も「異端審問」も、二人の高校生は、欲望と胃袋をコントロールする「知恵」によって、完全に過去のものへと葬り去っていた。

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