第51話:夜の市街戦(シャドー・ボクシング)
崩落したサン=ドニ門から、熱風と黒煙が吹き抜ける。パリの街中へ一気に流れ込んだフランス軍の兵士たちは、自分たちがしでかした「爆発」の威力に腰を抜かしそうになりながらも、ルイの指示通りに動き出した。
「……よし、止まるな! 各小隊、散開! 広い通りには出るな、細い路地を使って背後を取れ!」
ルイが馬の上で、自作のメガホンを口に当てて叫んでいる。高校の文化祭の時、迷子になった子供を放送で誘導していた時のような、少し焦りつつも的確なトーンだ。
「ルイ、街の中は暗いわ。イギリス兵がどこに潜んでいるか分からない……二階の窓から狙われたら終わりよ」
私は、軍旗を短く持ち直し、左右の建物に神経を尖らせた。パリの街並みは、かつての私にとって死の迷路だった。
「……ジャンヌ、大丈夫だ。……あいつら、今の爆発で完全にパニックになってる。現代の……いや、俺たちのいた学校の抜き打ちテストと同じだよ。準備してない奴は、パニックで実力の半分も出せないんだ」
ルイは、懐から「特製の照明弾」……マグネシウムの粉末を詰めた小さな陶器の玉を取り出した。
「……あそこの曲がり角、怪しいだろ? ……いけっ!」
ルイが玉を投げつけると、パッと目も眩むような白い閃光が路地裏を照らし出した。
「うわあああ! 目が、目が潰れる!」
「悪魔の光だ! 逃げろ!!」
物陰に潜んでいたイギリス軍の伏兵たちが、目を押さえて転げ出てきた。彼らにとって、暗闇を切り裂く現代的な「フラッシュバン」のような光は、魔法以外の何物でもなかった。
「……よし、今のうちに無力化しろ! 殺す必要はない、武器を取り上げろ!」
ルイの号令で、フランス兵たちが一気に敵を抑え込む。
かつての泥沼のような市街戦が、ルイの「嫌がらせ(戦術)」によって、まるでパズルを解くような一方的な制圧に変わっていく。
「……信じられん。血を流さずに、敵の防衛網が次々と剥がれていく……」
後ろで指揮を執っていたアランソン公が、震える声で呟いた。
「軍師殿……貴殿は、夜の闇を味方につけるのではなく、闇そのものを消し去ってしまうのか」
「……消し去るというか、ただの『可視化』ですよ。……見えないから怖いんです。見えちゃえば、ただの人間ですからね」
ルイは、少しだけ冷徹な「理系男子」の顔で笑い、次の路地へと馬を進めた。
「……ジャンヌ。次はあそこの広場だ。……パリの中心部まで、一気に『最短ルート』で行こうぜ。……君が、パリの民衆の前で笑って見せるのが、最高の勝利宣言になるんだから」
「……ええ。……あなたの光があれば、どこまでも行ける気がするわ、ルイ」
私は、白い鎧を閃かせながら、光り輝くパリの街路を突き進んだ。
歴史が用意した「パリの悪夢」を、二人の高校生は、科学の光で白日の下に晒そうとしていた。




