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『火刑台の終止符(ピリオド)〜やり直し聖女ジャンヌ・ダルクは、最愛の騎士と歴史を覆す〜』  作者: れおん
第5章:戴冠式の光と影(ロイヤル・マーケティング)

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第46話:王への進路相談(プレゼンテーション)

翌朝。ランスの離宮の一室で、新王シャルル7世は豪華な朝食を前に、どこか煮え切らない表情を浮かべていた。

その周囲には、ラ・トレモイユ卿をはじめとする側近たちが、まるで行く手を阻む壁のように立ち並んでいる。

「……ジャンヌ、ルイよ。戴冠式は無事に終わった。これ以上の戦は、民を疲れさせるだけではないか? イギリス軍とも、そろそろ休戦の交渉を……」

王の言葉に、側近たちが満足げに頷く。彼らにとって、戦争の継続は自分たちの利権を脅かす「リスク」でしかない。

「……殿下、いえ、陛下。……それ、学校の……じゃなくて、俺たちのいた場所でよくあった『テストが終わったから、もう勉強しなくていいや』って油断と同じですよ」

ルイが一歩前に出て、王の目の前のテーブルに、昨夜書き上げた大きな地図と「収支予測」の羊皮紙を広げた。

「な、無礼な! 陛下のお言葉を遮るとは!」

「……静かに。……陛下、これを見てください。……今のパリは、イギリス軍の補給路が完全に伸び切っています。……現代の……いや、俺の計算だと、あと一週間放置すれば敵は体制を立て直しますが、今突けば、パリの城門は戦わずして開きます」

ルイは、指でパリの一点をトントンと叩いた。

高校生の彼が、部活動の遠征予算を校長先生に直談判していた時のような、理知的で、けれど情熱的な口調だ。

「……休戦すれば、イギリス軍は息を吹き返します。……そうなれば、またオルレアンの時のような地獄が始まりますよ。……陛下、今パリを落とせば、来年の税収は……ざっと見積もって三倍です。……この羊皮紙に、その『根拠』を全て書いておきました」

「……ぜ、税収が三倍だと?」

ラ・トレモイユ卿の目が、欲望でギラリと光った。

ルイは、道中の商隊から聞き出した物価のデータと、パリの市場規模を現代の経済感覚で弾き出し、中世の貴族たちが最も抗えない「数字の魔力」をぶつけたのだ。

「……ジャンヌ、君からも言ってやれ。……『神様が、今行けって言ってる』ってさ」

ルイが小声で私に合図を送る。

私は、腰の剣に手をかけ、王を真っ直ぐに見据えた。

「……陛下。……神が私に授けた知恵は、今、パリへの道が黄金に輝いていると告げています。……迷うことはありません。……この勢い(モーメンタム)を止めてはならないのです」

私の言葉に、王はごくりと唾を飲み込んだ。

ルイが提示した「理屈(数字)」と、私が提示した「奇跡(予言)」。

二つの強力な武器に挟まれ、優柔不断な王の心は、一気に天秤の片側へと傾いた。

「……よし。……パリへ進軍する。……ルイ、お前の言う通り、鉄は熱いうちに打たねばな」

「……賢明なご判断です、陛下」

ルイは深々と頭を下げた。その口元には、かすかに「計画通り」という不敵な笑みが浮かんでいる。

「……よっしゃ、ジャンヌ。第一関門突破だ。……これで『パリ攻略失敗』っていうバッドエンドのフラグ、半分はへし折ったぞ」

退出する廊下で、ルイが小さくガッツポーズを作った。

高校生の彼が、難解な数学の証明を解き明かした時のような、清々しい表情だ。

「……でもルイ、あんなに税収が増えるなんて、本当に大丈夫なの?」

「……大丈夫。……パリを落とした後に、俺が『現代の物流改革』を導入して、無理やり数字を合わせるからさ。……嘘を真実にするのが、軍師の仕事だろ?」

ルイは、いたずらっぽく笑ってウインクした。

歴史が用意した「休戦という名の罠」を、二人の高校生は、知略という名の跳び箱で軽々と飛び越えていった。

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