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『火刑台の終止符(ピリオド)〜やり直し聖女ジャンヌ・ダルクは、最愛の騎士と歴史を覆す〜』  作者: れおん
第5章:戴冠式の光と影(ロイヤル・マーケティング)

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第44話:祝賀会(ロビー活動)

大聖堂での厳かな儀式が終わり、ランスの街は夜を徹しての祝宴に包まれた。

総督府の大広間には、豪華な刺繍を施した服を着た貴族たちがひしめき合い、ワインの香りと、どこか刺々しい笑い声が渦巻いている。

「……ジャンヌ、背筋を伸ばして。疲れてるのはわかるけど、あそこの公爵がこっちを値踏みするように見てる。……カメラ……じゃなくて、常に誰かに見られてると思え」

ルイが私の隣で、給仕から受け取ったブドウの房を口に運びながら、小声で指示を出してきた。

高校生の彼が、文化祭の後の打ち上げで、他校の生徒会役員を警戒していた時のような、油断のない目つきだ。

「……ルイ、鎧を脱いでもいいって言ったのはあなたじゃない。このドレス、胸が苦しくて息がしにくいのよ」

私は慣れない絹のドレスの裾を気にしながら、周囲の貴族たちに愛想笑いを振りまいた。

戦場の方が、よっぽど気が楽だ。

「……我慢しろよ。……『戦場では無敵の聖女が、ドレスを着れば高貴な淑女になる』。……このギャップ(ギャップ萌え)が、おじさん連中の支持率を上げるんだ。……ほら、あそこのラ・トレモイユ卿が近づいてくるぞ」

ルイの言葉通り、王の側近でありながら、内心では私たちを疎ましく思っている実力者、ラ・トレモイユが、嫌味ったらしい笑みを浮かべて歩み寄ってきた。

「……おやおや、救世主殿。戦場での勇姿も素晴らしいが、こうして見ると、ただの村娘には見えぬ美しさですな。……して、隣におられるこの……『軍師』殿は、どこの馬の骨ですかな?」

トゲのある言葉。

周囲の貴族たちが、ニヤニヤしながらこちらの反応を伺っている。

中世の身分社会において、出所不明の高校生であるルイは、格好の攻撃対象だ。

「……馬の骨、ですか。……面白い例えですね、閣下」

ルイは、少しも動じずにグラスを掲げた。

高校の時、理屈をこねて先生を言い負かしていた時の、あの少し鼻につく、けれど圧倒的に論理的な口調だ。

「……骨といえば、閣下の領地の財政も、少しばかり『骨が折れる』状態だとか。……去年の凶作で、税収が二〇%落ち込んだそうですね。……俺の計算だと、このままの徴収方法を続ければ、あと三年で閣下の金庫は空になりますよ」

「なっ……!? なぜ、それを……!」

ラ・トレモイユの顔が、一瞬で土気色に変わった。

ルイは、道中の街で集めた断片的な情報と、現代の経済感覚(収支計算)を組み合わせて、この男の弱点を一瞬で「スキャン」していたのだ。

「……魔法じゃないですよ。……ただの『算数』です。……もしよろしければ、後で俺が『もっと効率的な徴収方法』を教えてあげましょうか? ……もちろん、ジャンヌと王様への『協力』を約束してくれるなら、ですけど」

「……ぐ、ぬぬ……」

ラ・トレモイユは、捨て台詞も吐けずにその場を立ち去った。

周囲の貴族たちの目が、侮蔑から「畏怖」へと変わっていく。

「……ルイ、あなた、またあんな危ない橋を渡って。……あんな言い方したら、恨まれるわよ」

「……いいんだよ。……『こいつには隠し事はできない』と思わせるのが、一番の防衛バリアになるんだ。……現代の……いや、俺たちのいた学校でも、情報を持ってる奴が一番強かっただろ?」

ルイは、最後の一粒のブドウを口に放り込み、満足げに笑った。

「……ジャンヌ。政治ここは、剣を使わない戦場だ。……でも、俺の『論理ロジック』という剣は、あいつらのどんな盾もブチ抜ける。……君は安心して、美味しい肉でも食べてろよ」

祝賀会の喧騒の中、ルイの冷徹な知略が、フランス宮廷のドロドロした人間関係を、一つ一つ解きほぐし……あるいは、自分たちの都合のいいように「上書き」していく。

二人の高校生による、王座の裏側の「支配」が、静かに始まっていた。

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