第40話:ランスへの花道(凱旋パレード)
オセールの門が開いたことは、周囲の街々にドミノ倒しのような影響を与えた。
「略奪をせず、メシを食わせ、おまけに無敵の聖女がいる軍隊」
その噂は、ルイが放った斥候たちの口伝(口コミ)によって、実像以上に膨れ上がり、ランスへの道筋にある全ての街を戦わずして降伏させていった。
「……なぁ、ジャンヌ。これ、もう戦争っていうより、ただの地方巡業だよな」
ルイが馬の上で、沿道の市民たちに軽く手を振りながらぼやいた。
かつての人生で、私たちは一歩進むごとに血を流し、交渉に疲れ果てていたはずなのに。
今の私たちの前には、戦場ではなく、熱狂的な歓迎の列が続いている。
「……いいじゃない、誰も死なないんだから。ルイ、あなたの『ブランド戦略』ってやつ、本当にすごいのね」
「……まぁな。現代の……いや、ネットの知識じゃ、イメージが九割だからさ。……あ、ほら、そこの角。もっと軍旗を高く掲げて! シャッターチャンス……じゃなくて、みんなが一番拝める角度で!」
ルイは、もはや軍師というより、アイドルのマネージャーかイベントプロデューサーのような顔をしていた。
高校生の彼が、文化祭のパレードの列を整えるように、兵士たちの歩幅や鎧の輝きまで細かくチェックしている。
「……おい、そこ! 槍が曲がってるぞ! 市民が見てるんだ、ピシッとしろ! 現代の……いや、俺の軍隊に『だらしない奴』は要らない!」
「……へい、軍師殿!」
兵士たちも、以前のような荒くれ者ではない。
ルイに「清潔感と規律が信頼を生む」と叩き込まれ、今や見違えるほど精悍な、誇り高い「正規軍」の顔つきになっていた。
ついに、地平線の向こうにランスの大聖堂の尖塔が見えてきた。
歴代のフランス王が戴冠式を行う、聖なる街。
「……あそこね、ルイ」
「ああ。……あそこで王太子を王様にする。……それが、俺たちの『メインクエスト』の大きな区切りだ」
ルイは望遠鏡を畳み、少しだけ真面目な顔で私を見た。
「……ジャンヌ。史実の君は、ここで最高の栄誉を手にしたけど、そこから運命が暗転し始めるんだ。……でも、俺がいる。……戴冠式の後の『政治』も、全部俺が論理で跳ね返してやるからな」
「……ええ。信じてるわ、ルイ」
私は白い軍旗を、青い空に向かって力強く突き上げた。
背後には、かつてないほど統率された、一万の軍勢。
そして隣には、生意気だけど頼りになる、現代の高校生。
「――全軍、入城用意! フランスに、真の王を誕生させるわよ!」
私の号令とともに、ランスの街から一斉に鐘の音が響き渡った。
それは、古い中世の終焉と、二人の高校生が作り出す「新しい歴史」の幕開けを告げる音だった。




