表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『火刑台の終止符(ピリオド)〜やり直し聖女ジャンヌ・ダルクは、最愛の騎士と歴史を覆す〜』  作者: れおん
第1章:運命の交差点

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/67

第4話:泥の匂いと、小さな掌

頬に触れる、湿った土の感覚。

鼻を突くのは、家畜の排泄物と、乾いた草が混じり合った野性的な匂い。

現代の日本には存在しなかった、生命の根源的な「泥臭さ」がそこにはあった。

「……っ……はぁっ!」

私は弾かれたように上身を起こした。

肺に流れ込んできたのは、驚くほど冷たく、そして澄んだ空気。

「ここは……どこ……?」

震える声で呟き、自分の手を見る。

そこにあったのは、スマートフォンの画面を叩いていた細い指でも、血に濡れた樹里の指でもなかった。

節くれ立ち、泥に汚れ、日焼けした……小さな子供の掌。

「戻って……きたの?」

周囲を見渡す。

そこは、石造りの粗末な小屋の裏手だった。

遠くでは、羊の鳴き声と、村人たちが互いを呼ぶ野太い声が響いている。

忘れもしない。

私の故郷、ドンレミ村だ。

「ルイ! ルイは!?」

私は必死に辺りを探した。

現代の路地裏で、私の腕の中で冷たくなっていった彼。

もし、私だけが戻ってきたのだとしたら。

あの地獄のような孤独を、また一人で歩まなければならないのか。

恐怖で心臓が早鐘を打つ。

「……じゅ……り…………?」

背後から、掠れた声がした。

振り返ると、そこには私と同じくらいの年齢……七、八歳ほどに見える少年が、地面に尻餅をついたまま呆然としていた。

ボロ布のような服をまとい、顔は泥だらけ。

けれど、その瞳には、現代の教室で私を見ていた「彼」の光が宿っている。

「ルイ……! ルイなの!?」

私は泥を跳ね飛ばしながら駆け寄り、彼の小さな体に抱きついた。

「い、痛いよ、樹里……。っていうか、ここ、どこだよ……。俺、刺されたはずじゃ……」

「よかった……本当によかった……!」

彼の胸に耳を当てると、トクトクと力強い鼓動が聞こえる。

生きている。

温かい。

私は、彼の鼓動を確認しながら、溢れ出す涙を止めることができなかった。

「落ち着けよ、樹里。……いや、今はジャンヌって呼んだ方がいいのか?」

ルイが、戸惑いながらも私の背中を小さく叩いてくれる。

「……知っているのね? 私が、ジャンヌ・ダルクだったこと」

「ああ。現代で一緒に世界史の授業受けてただろ。正直、信じられなかったけど……。でも、今の俺たちの格好を見て、この空気の匂いを嗅いだら……認めざるを得ないよ」

ルイは、自分の小さな掌を握ったり開いたりしながら、苦笑いを浮かべた。

「どうやら、俺たちは中世フランスに『逆転生』しちまったみたいだ」

その言葉に、私は涙を拭って立ち上がった。

そうだ。

感傷に浸っている暇はない。

ここからの歴史が、どれほど残酷で、どれほど救いがないか、私は誰よりも知っている。

イギリス軍の侵攻。

村を焼く炎。

そして、味方の裏切り。

けれど、今回は違う。

私の隣には、現代の知識を持ち、私を「一人の人間」として見てくれるルイがいる。

「ルイ。聞いて」

私は、彼の目を見据えて言った。

「私は二度と、あんな結末おわりを迎えない。あなたを死なせないし、この国も、私の人生も、私が書き換えてみせる」

ルイは少し驚いたような顔をしたが、すぐに不敵な笑みを浮かべた。

「……決まってんじゃん。現代で守れなかった分、今度は俺が君を守るよ。最強の騎士になってさ」

幼い二人の誓いが、フランスの空に溶けていく。

火刑台の終止符ピリオドを打つための、本当の戦いがここから始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ