第35話:斥候の眼(ビジョン・コントロール)
オルレアンを離れ、パテへと向かう街道。
ルイは時折馬を止め、じっと周囲の茂みや丘の起伏を観察していた。
「……はぁ。やっぱり、敵の配置が全然見えねーな。マジでドローンとかあれば一発なのに」
ルイが、周囲の兵士に聞こえないような小声で、私にだけ向かってぼやいた。
現代のゲームならマップの黒塗りが晴れるのに、リアルの中世は情報の霧だらけだ。
「……そうね。上空からの視点があれば、伏兵なんて怖くないのに」
私も小声で返す。
高校の頃、ルイが部活の練習試合をドローンで撮影していたのを思い出す。
あの「上からの視点」が、今の私たちには決定的に足りない。
「……しょうがねえ、人力でやるしかないか。……おい、お前ら! 聞け!」
ルイは声を張り上げ、護衛の兵士たちに向き直った。
高校生の彼が、部活の後輩に指示を出すような、少し生意気で、けれど的確な口調だ。
「ただ前を見るんじゃなくて、景色の中の『バグ』を探せ。……不自然に草が揺れてたり、鳥が一箇所から急に飛び立ったりしたら、そこには何かがいる。……現代の……いや、俺がさっき教えた『動体視力』のトレーニングだと思って、集中しろ!」
ルイは、ネットのサバイバル知識や、FPSゲームでの「敵の索敵」のコツを兵士たちに叩き込んでいた。
漫然と歩くのではなく、情報の「違和感」を察知させる。
「……おい、そこ! 止まれ!!」
ルイが鋭く叫んだ。
街道の先、わずかに草が不自然になびいた場所がある。
「……あそこの茂み、なんかテクスチャがおかしい……じゃなくて、密度が不自然だ。……ジャック、あそこに火矢を一本、威嚇で放ってみろ!」
兄のジャックが半信半疑で矢を放つと、果たしてそこから数人のイギリス軍の斥候が、慌てて飛び出してきた。
「……なっ!? なぜ分かった!?」
「……『間違い探し』だよ。……あんたら、隠れるのヘタすぎ」
ルイは冷淡に言い放ち、逃げる敵を追わずに、手元の羊皮紙(自作のマップ)にその地点を書き込んだ。
「……ジャンヌ。敵の『目』を一人潰した。これで、あいつらの情報網には穴が空いたはずだ」
「……すごいわ、ルイ。魔法みたいに敵を見つけるのね」
「魔法じゃないよ。ただの『観察』と『予測』。……でも、これだけで、俺たちの生存率は二〇%は上がったはずだ」
ルイは、現代のゲームでの「視界確保」の重要性を、この中世の戦場で身をもって証明していた。
情報を制する者が、戦場を制する。
高校生の彼が、理系の冷静さで、この不透明な時代に「光」を当てようとしていた。
「……さあ、次は本番だ。……パテの平原。……イギリス軍のロングボウが、手ぐすね引いて待ってる場所だ」
ルイは馬を走らせた。
その瞳には、すでに数手先までの「勝利のシナリオ」が描かれているようだった。
「……ジャンヌ。準備はいいか? ……君が、歴史を塗り替える瞬間が、また一歩近づいてるぞ」
「ええ。……あなたの『目』を信じてるわ、ルイ」
私たちは、夕焼けに染まる街道を、迷うことなく突き進んだ。
情報の霧を切り裂きながら




