第33話:勝利の後の「反省会」
イギリス軍が撤退し、オルレアンの街は祭り空気に包まれていた。
「聖女様万歳!」「奇跡の乙女だ!」
窓から投げられる花びら。抱き合って泣く市民たち。
その狂乱の中を、私はルイと並んで歩いていた。
けれど、ルイの顔はちっとも晴れていない。
「……なぁ、ジャンヌ。今の歓声、聞こえたか?」
「ええ。みんな、あんなに喜んで……」
「違うよ。『奇跡』って言っただろ、あいつら。……せっかく俺が、計算通りに橋を落として、合理的な最短ルートで壁を登らせたのに……。全部『神様のおかげ』で片付けられちゃったよ」
ルイは馬の上で、がっくりと肩を落とした。
高校生の彼にとって、自分の「知略」や「工夫」が正当に評価されないのは、一生懸命作った文化祭の出し物が「運が良かったね」と言われるくらい心外なことらしい。
「いいじゃない、結果は勝ったんだし。……それに、ルイ。あなたがいたから、私は死ななかった。それが一番の『正解』よ」
「……まぁ、そうだけどさ。……でも、次の戦いはもっとシビアになるぞ。イギリス軍だってバカじゃない。俺の『ネタ』が割れたら、次からは対策を立ててくるはずだ」
ルイは懐から、手垢で真っ黒になったノート……もとい、羊皮紙の束を取り出した。
そこには、今回の戦闘での「反省点」がびっしりと書き込まれている。
「……投石機の命中率が悪すぎる。火薬……はまだ無理だけど、せめて『てこの原理』をもうちょっと改良して、射程を伸ばさないと。……あと、兵士たちの『メンタル管理』。勝ち馬に乗ってる今はいいけど、一度負けたら一気に崩れるぞ」
「……ルイ、あなた、本当に休みを知らないわね」
「休んでる暇なんてないよ。……歴史の教科書じゃ、この後、君は捕まるんだ。……その『フラグ』を、俺が一本残らずブチ折らなきゃいけないんだから」
ルイの瞳は、勝利の余韻に浸ることなく、すでに次の「パテの戦い」へと向かっていた。
その夜。
総督府の片隅で、私たちは二人だけで乾杯した。
中世の酸っぱいワインを、水で薄めたものだ。
「……不味い。現代のコーラが飲みたい」
「……ふふ、そうね。炭酸が恋しいわ」
「……ジャンヌ。俺、決めたよ。……君が火刑台に登らない世界線を、俺が作ってやる。……神様が書いたシナリオなんて、俺が全部『論破』してやるからな」
ルイが、少し酔ったような、けれど最高に格好いい高校生の顔で笑った。
「……ええ。期待してるわよ、軍師様」
私たちは、小さなグラスを重ねた。
カチン、と乾いた音が、静かな部屋に響く。
オルレアンの夜は更けていく。
聖女と、その隣に立つ異端の高校生。
二人の冒険は、まだ序章を終えたばかりだった。




