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『火刑台の終止符(ピリオド)〜やり直し聖女ジャンヌ・ダルクは、最愛の騎士と歴史を覆す〜』  作者: れおん
第3章:オルレアンの奇跡(ロジカル・ウォーズ)

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第32話:チェックメイトの残響

「……落ちた。本当に、落ちたぞ……!」

デュノワの震える声が、夕暮れの戦場に響いた。

フランス軍が数ヶ月かけても指一本触れられなかった「トゥーレル砦」の最上階に、今、百合の紋章が描かれた白い旗が翻っている。

「……やった。……やったんだ、ジャンヌ!」

ルイが馬から転げ落ちるように降りて、私に駆け寄ってきた。

彼の顔は煤と汗でドロドロだったが、その瞳は期末テストで満点を取った時のような(取ったことはないけれど、きっとそんな顔だろう)達成感に満ち溢れていた。

「ルイ……! あなたの計算通りだったわ」

私は城壁を降り、彼の手を強く握った。

鎧越しでも伝わってくる、ルイの震え。

冷徹な軍師のふりをしていたけれど、やっぱり彼は、ただの、本当にただの高校生なのだ。

「……怖かった。マジで怖かった……。矢が飛んでくるたびに、物理の……空気抵抗の計算とかして、当たらないって自分に言い聞かせてたけど……心臓止まるかと思った」

ルイが地面にへたり込み、情けない声を漏らして笑った。

その姿を見て、周囲の屈強な兵士たちも、つられたように笑い声を上げた。

神がかり的な奇跡ではなく、一人の少年の「理屈」と「勇気」が、絶望を打ち破ったのだ。

けれど、戦いはまだ終わっていない。

砦を失ったイギリス軍の主力は、まだ川の向こう側で息を潜めている。

「……ジャンヌ、休んでる暇はないよ。敵はまだ『負け』を認めたわけじゃない」

ルイがフラフラと立ち上がり、乱れた息を整えながら言った。

「今のうちに、イギリス軍の司令官……タルボットに『最後通告』を出すんだ。……現代の心理戦……あ、いや、一番効果的な『脅し』をさ」

「脅し……? 降伏を勧告するのね」

「そう。でも、ただ『降伏しろ』じゃダメだ。……『俺たちは、お前たちが想像もできない方法で、次の砦も同じようにブチ壊す。抵抗しても無駄だ』って、論理的に絶望させるんだよ」

ルイは、懐からクシャクシャになった羊皮紙を取り出した。

そこには、イギリス軍の残りの陣地を、どの角度から、どのくらいの「力」で壊せるか、緻密な……あるいはハッタリに近い計算式が並んでいた。

「……恐怖ストレスが極限に達した時、人は一番合理的な判断を誤る。……でも、追い詰められた奴らに『逃げ道』だけ見せてやれば、あいつらは自分から撤退していくはずだ」

ルイの瞳には、再び「知略」の光が宿った。

高校生の彼が、ネットのゲームや動画で学んだ「相手を動かす方法」。

「……分かったわ。ルイ。あなたの言葉を、私が届ける」

私は再び軍旗を手に取り、夕陽に染まるオルレアンの原野へと向き直った。

翌朝。

イギリス軍は、昨日までの猛攻が嘘のように、静かに包囲を解いて撤退を始めた。

戦わずして勝つ。

現代の戦略理論が、中世の戦場に「無血の勝利」という最大の奇跡をもたらした瞬間だった。

オルレアンの街中に、歓喜の鐘が鳴り響く。

けれど、ルイと私は、ただ静かに、冷たくなったスープを分け合って飲んでいた。

「……不味いな。現代のカップラーメンが恋しいよ」

「……ふふ、そうね」

二人の高校生の、本当の戦いは、ここから始まる。

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