第31話:跳ね橋の断末魔
崩れ落ちる石橋の轟音が、戦場全体を震わせた。
イギリス軍の無敵を誇った「トゥーレル砦」が、今や孤立した島のように川の中央に取り残されている。
「……う、嘘だろ!? あの頑丈な橋が、あんな細い丸太で……!?」
背後で、フランス軍の騎士たちが呆然と呟いた。
彼らにとって、城壁や橋は時間をかけて削り取るものだった。
けれどルイがやったのは、学校の物理で習った「共振」……つまり、決まったリズムで叩き続けることで、巨大な構造物を自重で自壊させるという、えげつないほど効率的な破壊だった。
「……見とれてる暇なんてないぞ! ほら、次! 門の隙間に油を流し込め! 火矢の準備だ!」
ルイが馬上から、声を枯らして叫んでいる。
その手は手綱を握りすぎて白く震えていたが、目は獲物を逃さない野良猫のように鋭い。
「ジャンヌ、今だ! 敵が混乱してるうちに、一番低い壁にハシゴをかけろ! 現代の……あ、いや、俺が教えた『最短ルート』で登るんだ!」
「ええ、わかっているわ! ルイ!」
私は軍旗を振り下ろし、白い鎧を閃かせて城壁へと駆け寄った。
上空からはイギリス兵の放つ矢が雨のように降り注ぐ。
ガツッ、と鈍い音がして、一本の矢が私の肩を弾いた。
「っ……!」
「ジャンヌ! 大丈夫か!?」
ルイの悲鳴のような声が響く。
けれど、私は止まらなかった。
ルイが作ってくれた「積層装甲」の胸当てが、矢の威力を殺してくれていた。
痛みはあるが、骨までは届いていない。
「……平気よ! ルイの鎧が守ってくれたわ!」
私はハシゴを一気に駆け上がった。
かつての人生では、ここで深手を負って後退した。
けれど今は、ルイが計算してくれた「死角」と、彼が持たせてくれた「防具」がある。
城壁の上に立ち、私は力の限り叫んだ。
「――イギリスの兵士たちよ! 降伏なさい! あなたたちの運命は、すでに詰んでいるわ!」
私の言葉は、ルイから教わった「チェックメイト」という言葉を中世風に言い換えたものだった。
目の前に現れた、傷一つ負わずに壁を登りきった聖女の姿に、イギリス兵たちは恐怖で顔を引かせた。
「……化け物だ。……あの娘、矢が当たっても死なないぞ!」
「神の御加護だ……! いや、悪魔か!?」
混乱が、砦の中に伝染病のように広がっていく。
その隙を逃さず、ルイに鍛えられた兵士たちが次々と壁を乗り越えてきた。
「……よし、フェーズ2終了だ。……あとは、一番奥の司令塔を抑えるだけだ……!」
ルイが、汗を拭いながら馬を城門のすぐそばまで進めてきた。
彼の顔には、怖さと、興奮と、そして「計画通りに物事が運ぶ」ことへの、一人の理系高校生としての冷徹な満足感が同欲していた。
トゥーレル砦の陥落まで、あと数分。
歴史の教科書が、激しい音を立てて書き換えられようとしていた。




