表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『火刑台の終止符(ピリオド)〜やり直し聖女ジャンヌ・ダルクは、最愛の騎士と歴史を覆す〜』  作者: れおん
第3章:オルレアンの奇跡(ロジカル・ウォーズ)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/67

第30話:開戦の号砲(ドミノ倒し)

五月七日の夜明け。

霧が立ち込めるロワール川の河岸に、異様な静寂が広がっていた。

対岸にそびえ立つイギリス軍の要塞「トゥーレル砦」は、石造りの巨大な怪物のように、こちらの軍勢を威圧している。

「……緊張して、喉がカラカラだわ」

私は白い軍旗の柄を、指が白くなるほど強く握りしめた。

かつての人生で、私はここで矢を受け、土にまみれた。

その記憶が、冷たい汗となって背中を伝う。

「……水、飲むか? 糖分もしっかり摂っとけよ。脳が働かなくなったら終わりだからな」

隣で馬を並べるルイが、現代のスポーツドリンクを模した「蜂蜜と塩を混ぜた水」の革袋を差し出してきた。

彼の顔も、どこか青白い。

高校生の彼にとって、これは部活の大会どころではない、本物の命のやり取りなのだ。

「……ねえ、ルイ。本当に、あんな巨大な石壁が壊れるの?」

「……計算上は、いけるはずだ。物理の授業でやった『共振』の理屈だよ。……あそこの橋の継ぎ目、石が摩耗して少し隙間ができてるだろ? そこに、昨日作った特製の破城槌を、一定のリズムで叩き込むんだ」

ルイは、双眼鏡……などはないので、筒の先にレンズを嵌めた粗末な望遠鏡を覗き込みながら、震える声で続けた。

「……一発で壊そうとするな、って兵士たちには言った。……メトロノームみたいに、正確に。……橋の揺れが一番大きくなるタイミングで、一点を突く。……そうすれば、巨大な橋もドミノみたいに崩れるはずだ」

「……ドミノ。……ルイ、あなたの言葉は時々、魔法みたいね」

「魔法じゃないよ。……ただの『理屈』だ。……さあ、ジャンヌ。出番だぜ。……聖女様の一喝で、みんなのやる気を最大まで引き上げてくれ」

私は深く息を吸い、全軍の先頭へと躍り出た。

「――フランスの兵士たちよ! 神は、我らに勝利の『知恵』を授けられた!」

私は軍旗を高く掲げ、太陽の光をその白い鎧に反射させた。

「祈るだけでは門は開かない! だが、我らにはこの鉄の腕がある! 突き進め! オルレアンの呪縛を、今こそ断ち切るのだ!!」

「「「おおおおおっ!!」」」

地を揺らすような歓声とともに、フランス軍が動き出した。

先頭を行くのは、ルイが設計した「軽量・高速型」の破城槌を担いだ精鋭たちだ。

「……行けっ! リズムを合わせろ! ワン、ツー、スリー……突け!!」

ルイの鋭い号令が響く。

ドォォォォン!!

重い衝撃音が、砦の周囲に木霊した。

一度、二度。

イギリス兵たちが嘲笑いながら矢を放つが、ルイが工夫した「防弾(防矢)屋根」がそれを弾き飛ばす。

三度、四度。

そして、十数回目。

「……今だ! 最大の振幅が来るぞ!」

ルイが叫んだ瞬間。

バリバリ、と不気味な音が石造りの橋から響き渡った。

一点に集中し続けた振動が、ついに中世の堅牢な建築物を内側から破壊し始めたのだ。

「なっ……!? 橋が……橋が崩れるぞ!!」

イギリス兵の悲鳴が上がった。

轟音とともに、トゥーレル砦を支える重要な橋の一部が、まるで砂細工のように崩れ落ちていく。

常識ではあり得ない、理論による「奇跡」。

「……よしっ! 計算通りだ!!」

ルイが拳を突き上げた。

その顔は、難問を解き明かした時の、一人の高校生の輝きに満ちていた。

「……ジャンヌ、今だ! 突っ込め!!」

「ええ! ……全軍、突撃!!」

私は馬の腹を蹴った。

白い旗が、崩れゆく砦の煙の中へと、一直線に吸い込まれていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ