第28話:入城のパレード(イメージ戦略)
夕闇に包まれたオルレアンの街。
その北門が開くと、私たちは市民たちの狂乱に近い歓声の中に迎え入れられた。
「……うわ、すごいな。これ、文化祭の盛り上がりどころじゃないぞ」
ルイが馬を並べ、耳をつんざくような喧騒に少し圧倒されたような顔をした。
街の人々は、飢えと絶望のどん底にいた。
そこへ現れた「白い鎧の乙女」と、なぜか皆顔色がよく、整然と歩く兵士たち。
彼らにとって、それは教科書で見る「奇跡」そのものに見えただろう。
「ジャンヌ、手、振ってやれよ。……ほら、アイドルがファンサするみたいに。ここでは君が『勝てる!』って思わせるだけで、街のやる気が全然違ってくるからさ」
「……わかっているわ、ルイ。でも、みんなの目が……期待が重くて、少し怖いの」
縋り付くような、熱狂的な視線。
一度目の人生で、私はこの期待に応えようとして、自分を追い込みすぎた。
けれど今は、隣でルイが「これ、完全に人気投票1位のノリだな」なんて場違いな冗談を言ってくれるおかげで、足が震えずに済んでいる。
「……怖がるなよ。君は俺たちが準備した、この作戦の『顔』なんだから」
ルイは馬を操り、群衆を適度に避けながら、私を総督府へと導いた。
そこには、オルレアンの守備隊長、ジャン・ド・デュノワが待っていた。
「……お初にお目にかかる、ジャンヌ・ダルク。……そして、その少年。……ヴォークルールからの噂は聞いている」
「……デュノワ様。フランスを救うために来ました」
私は礼を執ったが、デュノワの瞳には不信感が隠せていなかった。
無理もない。
包囲を解くには、ロワール川の向こうにある強固なイギリス軍の砦を落とさなければならない。
気合だけでどうにかなる相手ではないことを、プロの軍人である彼は知っている。
「……明日、すぐに攻撃を仕掛けるつもりか? 川の向こうには、イギリス軍の『トゥーレル砦』が居座っている。あそこを壊滅させぬ限り、この街は干上がるぞ」
「……いや、明日はやりません。……明日は『準備』の時間にします」
ルイが横から口を出した。
中世の武人であるデュノワに対し、高校生の彼は、部活の合宿のスケジュールを決めるような口調で話し始めた。
「まずは兵士たちをちゃんと寝かせます。あと、晩飯は肉多めで。……それから、あっちの砦の形、もっと高いところからじっくり観察して、どこがボロいか調べたいんです。物理の……あ、いや、ええと、石の積み方とか重心の仕組みを考えれば、どこを叩けば崩れるか、たぶん分かると思うんで」
「……何を言っているんだ、この少年は。……じゅうしん? 物理?」
デュノワがポカンとしている。
騎士道に基づいた真っ向勝負でも、祈りによる奇跡でもない。
「よく観察して、効率よく壊す」という、理系高校生的な発想。
「……いいから、俺を信じてください。……明後日の朝、一番マシな方法でブチ抜きますから。……ジャンヌ、行こうぜ。まずは寝床の掃除と、荷物の整理だ。散らかってると忘れ物するしな」
「……ええ。……デュノワ様、失礼します」
私たちは呆然とする守備隊長を残し、作戦室へと引き上げた。
「……ルイ、今の言い方、完全に子供のワガママだと思われてたわよ」
「いいんだよ。テストの結果で黙らせるのが、一番スッキリするだろ? ……さあ、ノート広げようぜ。……あの高い石壁、どこを狙えば一気に崩せるか、計算してみるからさ」
ルイは、図書室で読んだ城郭の歴史や、学校で習った力学の公式を必死に思い出しながら、羊皮紙に図を描き始めた。
オルレアンの長い夜。
絶望の中で眠る市民たちの頭上で、二人の高校生による「中世の常識をブッ壊す」作戦が、着々と練られていた。




