第27話:兵站(ロジスティクス)の鬼
オルレアンへと進軍する私たちの軍列は、これまでのフランス軍とは明らかに異質だった。
「……ルイ、本当にこんなに食料を積んでいくの? 足が遅くなるって、古参の騎士たちが文句を言っているわ」
私は、延々と続く荷馬車の列を振り返った。
通常の軍隊なら、現地調達……つまり略奪を前提に軽装で動くのがこの時代の常識だ。
「無視していいよ。現代の部活の合宿だって、メシが不味けりゃ士気が下がるだろ? 戦争の半分は『胃袋』で決まるんだ」
ルイは手元の羊皮紙(自作の進捗管理表)にチェックを入れながら、事務的に答えた。
彼は現代の家庭科や保健体育、そしてネットでかじった「栄養学」をフル活用していた。
「塩漬け肉だけじゃビタミンが足りなくて口内炎……じゃなくて、病気になる。だから、乾燥させた野菜と果物、それに煮沸消毒した水。これを徹底させるだけで、行軍中の脱落者はゼロだ」
「……確かに、みんな顔色が良くなっているわね」
兵士たちは最初、重い荷物を運ばされることに不満を漏らしていた。
けれど、毎日決まった時間に温かいスープと清潔な水が提供されるようになると、彼らの目は「絶望した敗残兵」から「管理されたプロフェッショナル」へと変わっていった。
「ジャンヌ、これが現代の『ロジスティクス』だ。神様に祈る前に、まずは炭水化物を摂らせる。……あ、また変な言葉使ったな。要は『腹が減っては戦はできぬ』を科学的にやってるだけだよ」
ルイが少し得意げに鼻を鳴らした。
高校生の彼にとって、これは壮大な「シミュレーションゲーム」の実践に近いのかもしれない。
「……でも、ルイ。オルレアンを包囲しているイギリス軍は、私たちの数倍よ」
「わかってる。だからこそ、この『健康な身体』が必要なんだ。……疲労困憊の敵軍に、栄養満点の俺たちが突っ込む。……これだけで、勝率(期待値)はグンと上がるからな」
ルイは馬を私の隣に寄せ、声を潜めた。
「……それにさ。ジャンヌ、君の『聖女』としてのカリスマ。……これに『ちゃんとした飯』っていう実利が加われば、こいつらは死ぬ気で君を守る。……神様よりも、明日のパンをくれるリーダーの方が信じられるってわけさ」
「……ルイ、あなたって本当に……夢がないわね」
私は苦笑いしたが、その言葉の裏にある「私を絶対に死なせない」という執念を感じ取っていた。
遠く、夕闇の向こうに。
巨大な塔と、それを取り囲む無数の敵の陣地が見えてきた。
「……着いたな。オルレアンだ」
「ええ。……私たちの、最初の『テスト』の会場ね」
私は白い軍旗を高く掲げた。
城壁の上から、絶望に沈んでいた市民たちの、地を這うような地鳴りのような歓声が聞こえてくる。
科学的な兵站と、神がかり的なカリスマ。
中世の戦場に、かつてない「異物」が降り立った。




