第26話:白い甲冑と、特注の「相棒」
オルレアンへの出陣を控え、トゥールの街には異様な緊張感と期待が混ざり合っていた。
「……お待たせ。ジャンヌ、これが君の『戦闘服』だ」
ルイが工房の奥から持ってきたのは、眩いばかりに磨き上げられた白い甲冑だった。
史実でも私は白い鎧を纏ったが、これはルイが現代の「人間工学」の知識を総動員して、鍛冶屋に何度も作り直させた特注品だ。
「……軽い。それに、腕を回しても全然引っかからないわ」
「関節の可動域を広げて、重さを分散させるように設計したからな。現代のスポーツウェア……とまではいかないけど、中世のガチガチな鎧よりはマシなはずだ」
ルイは、私の肩のベルトを締めながら、文化祭の衣装チェックでもするかのような真剣な目で細部を確認している。
「あと、これ。……本当は持たせたくないけど」
差し出されたのは、一本の剣だった。
サント=カトリーヌ=ド=フィエルボワの教会で見つかったという、あの「伝説の剣」。
……ということになっているが、実際にはルイが「演出」として、あらかじめ古い教会の床下に埋めておかせ、掘り出させたものだ。
「『神が授けた剣』って設定、やっぱり効くな。兵士たちの士気が爆上がり(バク上がり)だよ」
「……ルイ、あなたって本当に……」
「ははっ、いいだろ? 使えるものは何でも使う。それが現代流……いや、俺たちの勝ち方だ」
ルイ自身も、動きやすさを重視した軽装の革鎧を身に着けている。
その腰には、あの泥だらけの森で作った、細身の鉄剣。
高校生の彼が選んだのは、騎士の誇りではなく、実戦での「生存」だった。
「さあ、旗を持てよ。……ジャンヌ・ダルク」
手渡されたのは、百合の花が描かれた大きな軍旗。
それを受け取った瞬間、私の身体の奥で、かつての記憶が熱く疼いた。
一度目は、ただ神を信じてこの旗を振った。
けれど今は、隣にいるルイを、そして私を信じてついてくる兵士たちを守るために、この旗を掲げる。
「……行くわよ、ルイ」
「応。……オルレアンまでの『遠足』、開始だ」
城門が開くと、そこには整列した兵士たちが待っていた。
ルイの「スパルタ教育」と「装備のメンテナンス」によって、見違えるほど精悍になった男たち。
「「「おおおおおっ!!」」」
白い鎧を纏った私が現れると、地を揺らすような歓声が上がった。
彼らが目にしているのは、もはやただの村娘ではない。
勝利という名の「理論」を背負った、美しき戦神だ。
「……シビれるね。これ、現代のスマホで動画撮れたらバズるのにな」
ルイが少しだけ、不謹慎な高校生らしい顔で笑った。
私たちは馬に跨り、力強く大地を蹴った。
向かうは、包囲された絶望の街、オルレアン。
歴史の修正力なんて、知ったことか。
私たちは、現代の知恵という名の「最強の武器」を手に、運命の喉元へ食らいつきに行く。




