第24話:神学論争(ヘリクツと正論)
ポワティエでの尋問は、何日も続いていた。
高い天井の聖堂に、老人たちのしわがれた声が響く。
「……娘よ、神がフランスを救いたいなら、兵など不要ではないか? 神の指先一つでイギリス軍など蹴散らせるはずだ」
意地の悪い質問。一度目の人生でも聞いた、答えのない問いかけだ。
「……いいえ。兵が戦い、そして神が勝利を授けるのです」
私は教科書通りの答えを返した。
けれど、私の後ろで控えていたルイが、我慢できないといった様子で小さく舌打ちをした。
「――あの、ちょっといいですか。司祭様」
ルイが一歩前に出る。
現代の学校なら、先生に質問する時のように、けれどどこか反抗期特有の鋭さを持った態度だ。
「……なんだ、その無作法な少年は」
「神様が人間に『知恵』をくれたのって、それを使って努力しろってことじゃないんですか? テストの前に勉強もしないで『神様、満点ください』って祈るやつがいたら、普通は怒りますよね?」
ルイの口から出た「テスト」という言葉に、司祭たちは困惑した。
「……てすと? 何の話だ」
「あ、ええと……つまり、『試練』のことです! 準備もしないで奇跡だけ待つのは、ただのサボりじゃないかって言いたいんです。俺たちが持ってきたこの作戦図は、神様がくれた知恵を最大限に使った結果です。これを使わないのは、神様のギフトをゴミ箱に捨てるのと同じですよ」
ルイは、現代のネット掲示板や図書室の戦記物で読んだ「それっぽい理屈」を総動員していた。
高校生らしい、少し生意気で、けれど妙に筋の通ったヘリクツ。
「……ほう。この少年、妙に弁が立つな。……では、ジャンヌ。お前が魔女ではないという証拠はどこにある?」
「……それは、すでにヨランド様が確認されました。私の身体に、不浄な印などありません」
私は、現代的な「プライバシー」への怒りを抑え、毅然と言い放った。
数日にわたる激論の末、ポワティエの審議会はついに結論を出した。
「……この娘に、悪魔の影は見えない。……そして、この少年が語る『戦術』とやらは、理屈っぽいが……確かに勝機を感じさせる」
若さゆえの勢いと、現代の合理的な思考。
その二つが、ガチガチに固まった中世の権威を、内側からこじ開けたのだ。
「……ふぅ。ジャンヌ、マジで冷や汗かいたわ。あいつら、話が通じなさすぎてビビる」
審議会の部屋を出た直後、ルイが制服の襟を正すような仕草(今は麻の服だが)で、大きく息を吐いた。
「ルイ、ありがとう。でも『テスト』なんて言葉、こっちの人には通じないわよ」
「わりぃ。つい、現役(高校生)のノリが出ちゃった。……でも、これでようやくオルレアンに行けるな。俺たちの『自習』の成果を見せてやろうぜ」
ルイは、腰に下げた「約束の剣」を軽く叩いた。
それは、放課後の部活動に挑むような、けれど命を懸けた真剣な少年の目だった。
「……行きましょう。私たちの、本当の戦場へ」
私たちはシノンを後にし、軍の集結地であるトゥールへと向かった。
そこには、絶望に沈んだ騎士たちが待っていた。
彼らが目にするのは、祈るだけの聖女ではない。
「一番効率よく勝つ方法」を引っ提げてやってきた、最強の高校生コンビだ。




