第16話:敗残兵の再利用
昨夜の喧騒が嘘のように、ドンレミ村の朝は静かだった。
広場には、泥にまみれ、縄で数人ずつ数珠繋ぎにされた野盗たちが転がされている。
「……ルイ。本当に、この人たちを『働かせる』つもりなの?」
私は、朝露に濡れた石畳を歩きながら、隣のルイに問いかけた。
彼は手に、現代の「出席簿」を模した羊皮紙の束を持っている。
「ああ。殺せばただの死体だけど、生かしておけば立派なインフラ整備の労働力だ。……あ、現代用語だった。ええと、村を強くするための『手足』だよ」
ルイは悪びれもせず、縛られた男たちの一人を蹴って起こした。
「おい、起きろ。朝飯だ。……働いた分だけ、食わせてやる。サボる奴や逃げようとする奴には、昨日俺が見せた『技術』を今度は実戦で骨に刻んでやるからな」
男たちは、自分たちを制圧したのがたった十三歳の少年であることに、恐怖と屈辱が混ざったような表情を浮かべていた。
けれど、ルイの瞳にある「一度死んだ者の冷徹さ」に射すくめられ、誰も逆らおうとはしない。
「ジャック、悪いけどこいつらの監視を頼む。……逃がしたら、明日からの特訓メニューを倍にするぞ」
「う、わかったよルイ。……お前、本当に俺の弟分かよ……」
兄のジャックが、震えながらも長槍を構えて男たちを連れて行く。
彼らが向かうのは、村の北側。
そこには、ルイが設計した「現代的な防塁」の建設予定地があった。
「……ねえ、ルイ。これじゃ、まるで私たちが領主みたいね」
「領主どころか、独裁者って言われてもおかしくないな。……でも、ジャンヌ。史実では、この村は焼かれるんだ。俺たちがエゴを捨てて、泥にまみれなきゃ、結局はみんな死ぬ」
ルイは、遠くの空を見つめた。
そこには、平和な現代日本で、一緒にアイスを食べて笑っていた頃の面影は微塵もない。
「俺は、君が旗を振るその日まで、このドンレミを最強の『盾』にする。……そのためなら、俺は悪魔にだってなるよ」
「……ルイ。あなたは悪魔じゃないわ」
私は、彼の強張った右手を、そっと両手で包み込んだ。
剣を握りすぎて硬くなった掌。
けれど、その奥にある震えを、私は感じ取っていた。
「あなたは、私の騎士。……それだけで、十分よ」
ルイは一瞬、目を見開いたが、すぐに照れ隠しのように顔を背けた。
「……ったく。聖女様は、言うことが違うね。……さあ、仕事だ。村の井戸の浄化システム、今日中に完成させるぞ」
「ええ。手伝うわ」
私たちは、朝日を背に歩き出した。
略奪者の襲撃を退け、逆にその力を取り込んだドンレミ村。
歴史という名の濁流の中で、この村だけが異質な光を放ち始めていた。
運命の時は、確実に刻まれている。
私が「王太子に会いに行く」と決断するその瞬間まで、あとわずか。




