表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『火刑台の終止符(ピリオド)〜やり直し聖女ジャンヌ・ダルクは、最愛の騎士と歴史を覆す〜』  作者: れおん
第2章:ドンレミ村の再起

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/67

第15話:泥濘(でいねい)の罠

「ヒャッハー! 運のいい夜だぜ、聖女様がお出迎えだ!」

闇を切り裂いて、野盗の頭目らしき男が馬を躍らせた。

その後ろから、獣のような息遣いをさせて二十数人の男たちが広場になだれ込む。

「……止まりなさい。ここは神に守られた地です」

私は、あえて震える声を装い、教会の聖母像の前に立ち塞がった。

演技だ。

現代の心理学で言うところの「デコイ」としての役割。

「神だと? 祈って腹が膨れるかよ! 後の野郎どもは家を回れ! 女と食いもんを――」

「――今だ、引け!!」

私の背後、教会の影からルイの鋭い号令が飛んだ。

ガシャァァアン!!

広場の入り口と出口。

隠されていた太い麻縄が跳ね上がり、馬の脚を掬い上げる。

「ぎゃあぁっ!?」

「なんだっ、この罠は!?」

転倒する馬。放り出される男たち。

そこは、私たちが数日前から水を撒き続け、わらを敷き詰めて偽装した「底なしの泥濘ぬかるみ」だった。

「ジャック! 左右から挟め! 現代の『機動隊ライオット』戦術だ、押し潰せ!」

「応よ! 突けぇぇ!!」

闇の中から、月光を反射させて十数本の長槍が突き出された。

村の若者たちが、ルイに教え込まれた「方陣」を組み、一糸乱れぬ動きで泥に足を取られた野盗を包囲する。

「クソっ、ガキどもが……! 殺してやる!」

一人の野盗が、泥にまみれながらも剣を抜いて立ち上がろうとした。

その瞬間。

シュッ、と風を切る音がした。

「……悪いけど、君の相手は俺だ」

闇の中から、影のような速さでルイが躍り出た。

彼の手に握られているのは、私と一緒に作ったあの細身の鉄剣。

キンッ!

野盗の粗末な大剣が、ルイの剣によって弾かれたのではない。

ルイは剣の腹で相手の剣筋を「撫でる」ように受け流し、その勢いを利用して懐へと潜り込んだ。

「……あ…………?」

野盗の男が、呆然と立ち尽くす。

ルイの剣先は、男の喉元数ミリのところで止まっていた。

中世の重い剣術しか知らない者にとって、ルイの「脱力」した現代的な体術は、魔法のように見えただろう。

「動くな。命を捨てたいなら、勝手にしろ」

ルイの声には、十三歳の少年とは思えないほどの冷徹な殺気が宿っていた。

現代で一度死を経験した彼にとって、暴力は「恐怖」ではなく、管理すべき「事象」に過ぎない。

「……ル、ルイ! 殺しちゃダメよ!」

私は駆け寄り、ルイの腕を掴んだ。

ここで彼に「殺人」という一線を越えさせたくなかった。

それは、聖女としての慈悲ではない。

私のエゴ。大好きなルイを、この汚い時代に完全に染めたくないという願い。

「……わかってる。死なせるのはもったいないからな。こいつらには、村の新しい防壁を作るための『労働力』になってもらう」

ルイは剣を引くと、背後の若者たちに合図を送った。

「縛れ! 抵抗する奴は、アキレス腱を突いて動けなくしていい。……殺すなよ、効率が悪くなる」

圧倒的な統制。

圧倒的な知略。

数分前まで略奪を夢見ていた男たちは、今や家畜のように縛り上げられ、地面に転がされていた。

「……ジャンヌ。怪我はないか?」

ルイが、返り血を一滴も浴びていない端正な顔で私を見た。

「ええ。……でも、ルイ。今の戦い方、少し怖かったわ」

「……そうか。でも、これが俺の選んだ『最強』への道だ」

ルイは月を見上げ、静かに微笑んだ。

ドンレミ村に、勝利の歓声は上がらない。

ただ、重苦しい敗北者の呻き声と、淡々と戦後処理を進める若者たちの足音だけが響いていた。

この夜、ドンレミ村は「守られる村」から「戦う拠点」へと、完全に生まれ変わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ