第14話:静寂を裂く蹄の音
その夜、ドンレミ村を包んでいたのは、不気味なほどに凪いだ静寂だった。
村の境界に立てた、ルイお手製の「監視塔」――といっても、ただの背の高い樫の木の上だが――で、私は冷たい夜気に身を削っていた。
「……ジャンヌ、交代だ。少し休めよ」
下からひょいと顔を出したのは、音もなく木を登ってきたルイだった。
十三歳。少年の幼さは消え、その動きには獲物を狙う豹のようなしなやかさが備わっている。
「いいえ、まだ大丈夫。……ねえ、ルイ。感じる?」
「……ああ。風の色が変わった。鉄と、獣の臭いだ」
ルイが鼻をひくつかせ、腰の剣の柄にそっと手を置いた。
現代の軍事教本で読んだ、夜襲の予兆。
あるいは、一回目の人生で私が何度も嗅いだ、略奪者の気配。
「……来たわ」
地平線の向こう、闇に紛れて動く影があった。
松明の火は消している。
手慣れた連中だ。
馬の蹄に布を巻いているのか、音も極限まで抑えられている。
「数は?」
「……二十、いや、三十はいる。村の自警団だけじゃ、正面衝突は厳しいわね」
「正面からやる必要なんてないさ。ここは俺たちの『ホーム』なんだから」
ルイが不敵に口角を上げた。
彼は木を滑り降りると、懐から現代のホイッスルを模して作った、甲高い音の出る笛を取り出した。
ピーーーーッ!!
静寂を切り裂く、鋭い警告音。
「総員、配置に付け! 『プランB』だ! 欲張りな狼どもに、現代の戦術を教えてやれ!」
ルイの怒声とともに、眠っていた村が爆発するように動き出した。
大人たちは、あらかじめ決めていた強固な家へと避難を始める。
そして、私たちが鍛え上げてきた若者たちは、闇に紛れて配置についた。
「……ジャンヌ。君は広場の中央で、聖女を演じてくれ。……あいつらを、一番深い泥濘に誘い込むんだ」
「わかってるわ。……ルイ、死なないでね」
「……バカ言うな。俺は君の騎士だぞ。こんな雑魚に、君の隣を譲るつもりはないよ」
ルイはそう言い残すと、闇の中に溶けるように消えた。
彼の足音は、もう私にも聞こえない。
私は深呼吸をし、白い修道服を模した麻の服を整えた。
そして、広場の中央、教会の灯りがわずかに届く場所へ、毅然と立ち尽くす。
「……神様。見守っていてください」
私は、腰に隠した細身の剣の感触を確かめた。
一度目の私は、祈ることしかできなかった。
けれど今の私は、その手に「力」を持っている。
闇の向こうから、野盗たちの下卑た笑い声が聞こえ始めた。
略奪と暴行を夢見る、愚かな狼たちの群れ。
「……さあ、いらっしゃい。地獄の入り口へ案内してあげるわ」
私は、闇に向かって静かに微笑んだ。
それは聖女の慈愛ではなく、獲物を誘う冷徹な戦士の笑みだった




