第13話:自警団の胎動
ドンレミ村の広場には、かつてののどかな風景とは異質な熱気が渦巻いていた。
「――槍を引くな! 腕で持つんじゃない、背中で支えろ!」
ルイの鋭い怒声が響く。
そこに並んでいたのは、村の若者たち十数名だ。
彼らが手にしているのは、農具を改造したものではなく、ルイが鍛冶屋を抱き込んで作らせた、一点に重心を置いた実戦用の長槍だった。
「……ルイ、少し厳しすぎない?」
私が横から声をかけると、ルイは額の汗を拭いながら、不敵な笑みを浮かべた。
「これでも手ぬるいくらいだよ。中世の騎士道なんてクソ食らえだ。多人数で一人の騎士を確実にハメ殺す……現代の『集団制圧』の基礎を叩き込んでおかないと、いざって時に村が焼かれるからな」
ルイが指導しているのは、史実にはない「歩兵戦術」だった。
個人の武勇に頼る騎士に対し、統制された集団で面を作り、近づかせない。
現代の機動隊や、あるいは戦国時代の足軽が用いたような、合理的で冷徹な陣形。
「おい、ジャック! 脇が甘いぞ! 隣と肩が離れたら、そこから馬に食い破られるって言っただろ!」
「わ、わかってるよルイ! でもこれ、めちゃくちゃキツいんだって!」
私の兄であるジャックが、悲鳴を上げながらも槍を突き出す。
五年前なら、彼はルイの言葉など鼻で笑っていただろう。
けれど、今のルイには、村の誰よりも速く、誰よりも正確に獲物を仕留める「実力」があった。
村の大人たちは、これを「子供の兵遊び」と見て笑っていたが、最近ではその目が変わりつつある。
彼らの動きが、あまりにも統制され、一糸乱れぬ「武器」へと変貌していたからだ。
「……ジャンヌ。君の方はどう?」
ルイが、若者たちに休憩を指示してから、私に歩み寄ってきた。
「薬草の備蓄と、包帯の煮沸消毒(殺菌)の準備は終わったわ。村の女性たちにも、傷口を泥の手で触らないように徹底させたし」
「……完璧だ。現代の衛生概念があれば、戦場での致死率は劇的に下がる」
私たちは、現代の知識という名の「チート」を、この小さな村に注ぎ込んでいた。
それは、来るべき破滅の運命に対する、私たちのささやかな、けれど執念深い抵抗だった。
「……ねえ、ルイ。噂で聞いたわ。隣の村が、野盗に襲われたって」
私の言葉に、ルイの表情から温度が消えた。
「……ああ。俺も耳にしてる。イギリス軍の残党か、それともただの食い詰め者か。……どっちにしろ、そろそろ『実戦』の機会が来るだろうな」
ルイは、腰に下げた特製の剣の柄に手を置いた。
八歳の頃に作ったあの剣は、今や彼の身体の一部のように馴染んでいる。
「村の連中には、まだ殺しは早い。……汚い仕事は、全部俺がやる」
「ルイ……」
「君は聖女だ。その手は、旗を振るためにある。……血に染まるのは、俺一人でいいんだよ、樹里」
ルイが、一瞬だけ「現代の同級生」のような優しい目で私を呼んだ。
けれどその直後、彼は再び「最強の騎士」としての冷徹な顔に戻り、若者たちに向き直った。
「休憩終わりだ! 次は、盾を持った相手への同時突きをやる。……死にたくない奴から来い!」
ドンレミ村に、再び金属のぶつかり合う音が響き始める。
平和な農村の皮を被ったまま、この村は確実に「要塞」へと作り変えられていた。
運命の日は、もうすぐそこまで来ていた




