意地悪な家族に奴隷扱いされていた薬師。せかされて大急ぎでポーションを作ったら、ヤバイ薬ができてしまった……
「アゼリア、なにチンタラしてやがる! ポーション二つ、とっとと作りやがれ!」
いつも通りの叔父さんの怒鳴り声に、私は「はーい、ただいま」と言葉を返す。
ここは、王都の裏通りにあるローン薬草店。
ローンは私の苗字。つまり、私のフルネームはアゼリア・ローン。
でもここは、私の店じゃない。
叔父さんの店。
正確には、私の両親が事故死した後、叔父さんが継いだ店。
両親の死亡時、私はまだ12歳。店を継ぐにはあまりにも幼すぎた。
だから、叔父さんが私を引き取り、店を継いだ。
「おいアゼリア! 聞いてんのか! ポーション二つって言ってんだろ!」
はいはい。
聞こえてますってば。
私は小さくため息を漏らし、大急ぎでポーションを二つ作る。
叔父さんは、薬学の素人である。
だから、調合は全部私の仕事。
私のいる調合室と、薄い壁一枚を隔てたカウンターで、叔父さんは接客をしている。そこから、私に向かって怒鳴っているのだ。叔父さん以外にも、数名の客の大声が響いて来る。
「よぉ~、バロイの旦那。ポーションはまだかよ。傷が痛ぇよ」
バロイというのは、叔父さんの名前だ。
そして今の声は、このお店の常連の戦士、ボーンさんのものだ。
「うるせぇよ、ボーン。戦士の癖にめそめそすんじゃねぇ」
「だいたいよぉ。なんでポーションの作り置きをしてねぇんだよ」
「馬鹿、おめぇ、作り置きなんかしたら、ポーションの効果が落ちるだろうが」
「へぇ。そうなのか」
「おうよ。常識よ。よく覚えとけ」
「確かに、ここのポーションは出てくるのは遅いが、効果は抜群だからな」
叔父さんは自慢げに語ったが、全部私の受け売りである。それにしても、『出てくるのが遅い』という言葉は、少々聞き捨てならない。自慢じゃないが、私がゼロからポーションを作るスピードは、通常の三倍は早い。他のお店で『出来立てのポーション』を頼んだことがないから、ボーンさんはそれを知らないのだ。
なんて思っているうちに、はい完成。
よーし。新記録。
今までで最速の作成速度だわ。
「叔父さん。できたわよ」
「チッ。やっとか。おっせーんだよ、グズ」
はぁ。
別に、感謝してとまではいわないけどさ。
この、毎度毎度の暴言、何とかならないかなぁ。
身内の私じゃなかったら、とっくに逃げ出してるわよ。
いや、身内の私だって、たまに逃げ出したくなるもん。
一日みっちり働かされてるのに、お小遣い程度の給料すらもらえないし。
そんなひどい環境なのに、なぜ逃げないのか?
それは、三年前、両親が死んで一人ぼっちになったとき。
叔父さんが誰よりも早く駆けつけて、かけてくれた言葉を忘れられないから。
『辛かったな、アゼリア。でも、もう心配ない。これからは叔父さんがずっと一緒だからな』
突然両親を亡くした、薬学以外は何も知らない12歳の私。心にあるのは、困惑と不安、悲しみ、そして絶望。そんな私に、優しく頼もしい声をかけてくれ、抱きしめてくれた温もりを、どうしても忘れることができない。たとえ今、どんなに横暴で、酷い叔父さんだとしても。
だから私は、奴隷同然の扱いを受けていても、逃げないのだ。
叔父さんのことを、家族だと思ってるから。
・
・
・
「アゼリア、注文が入ったぞ! ポーション四つだ! 急げ!」
「はーい、ただいま」
今日も今日とて、ポーションを作り続ける忙しい私。
それにしても、一度に四つか。これは大仕事ね。
額に汗をかき、大急ぎで作る私に、カウンターのお客さんの声が聞こえてくる。
「な~、まだかよぉ~、おせぇな~」
「なんでこんなにかかるんだよ~。な~。いい加減にしてくれよ~」
「亀が作ってるのか? おせぇよ~。いくらなんでも遅すぎるって~」
「もう他の店行こうぜ? これ以上待ってらんねぇよ~」
か、勝手なことを。
他の店に行きたければどうぞ。
出来立てを頼む場合、私の三倍は時間がかかるけどね。
しかし、この四人はかなりの上客らしく、叔父さんは珍しく腰の低い声で謝った。
「へへへ、すいませんね、旦那方。ウチの薬師、腕はいいんですが、ちょいとノロマでして。今、急かしてきますんで、もう少々お待ちくだせぇ」
そして、調合室に怒鳴り込んでくる叔父さん。
「おい! こるぁ! いつまで待たせやがるんだ! 今日のお客は影響力の強いA級パーティ御一行様だぞ! 変に待たせちゃ、俺の店の評判が落ちるだろうが! あと5分で作れ! いいな!」
汗だくで薬鍋をかき混ぜながら、私は言う。
「そう言われても、"安全で純度の高い"ポーションを作るには絶対に飛ばせない工程がいくつもあるから、5分じゃ絶対無理よ。最低でもあと10分はかかるわ。これでも、相当早い方……」
「うるせぇうるせぇうるせぇ! 俺が5分で作れって言ったら、5分で作るんだよ! お前はいつも通り『はーい、ただいま』とだけ言ってりゃいいんだ!
そして、乱暴にドアを閉めて出て行く叔父さん。
カウンターから、またお客たちの声が聞こえてくる。
「あー、おっそ。スロウの魔法でもかけられてんじゃねぇの」
「だよな。マジおっせぇよな。魔導具屋の婆さんの方がまだ素早いぜ」
「おいおい、あの婆さん、10メートル歩くのに10分かかるんだぞ?」
「だからさ、その婆さんより、この店の薬師はノロマだっつってんだよ」
……
…………
………………
ブチッ。
頭の中で『何か』がキレる音がした。
あー。
あー。
あーそーですか。
じゃーやったろーじゃないの。
"安全で純度の高い"ポーションなんてクソくらえよ。
安全性重視の工程なんかすっ飛ばして、超絶やばいポーションを作ってやるわ。
私は、完全にキレていた。
もう自分でも訳が分からない状態で、色んな工程を省き、完成を早めるため、普段は使わない薬草もドバドバ鍋にぶち込んでいく。
その結果、四つのポーションは、5分どころか3分で完成した。
どーよ。
これで、もう二度とノロマなんて言わせないわよ。
「できたわよ! 叔父さん!」
ふんすと胸を張る私。そんな私に、叔父さんは「おせーよ、ノロマ」と言って、ポーション四つをひったくっていった。……ほ、本当に辞めてやろうかしら、こんな店。
徒労感にぐったりしながら、慌てて作ったせいであちこち汚れた調合室を掃除する私。その時、カウンターの方から妙な声が聞こえてきた。
「フォウ! フォウ! フォウ! フォウ! フォウ! フォォォォォォ!!」
何、この声……
さっきのお客さんの一人の声よね。
まったく知性を感じない、異様な声だ。
続いて聞こえてきたのは、一応は意味の分かる声だった。
「おっほ! すっげ! おほっ! おっ! おぉっ!? おっほぉぉぉぉぉ!?」
訂正。
やっぱり意味が分からない。
『すっげ!』と言っているので、何かが凄いんだろうけど。
「ほおぉんほおぉぉぉ……ぐすっ……ママ……ママぁ……何で僕を捨てたの……?」
今度はダウナー系だ。
なんだか悲しい過去の持ち主のようだ。
「くるくるくるくるくるくるぅ! きたきたきたきたきたきたきたきたきたぁ!」
この人は、もう完全にキマっちゃってる。
『きたきた』と言うのと同時に、何かを壁に打ち付ける音が聞こえる。
調合室と店を隔てる壁に、ヒビが入った。後で修理費を請求しておこう。
あー。
やばい。
やっぱり、安全工程を飛ばしたのはまずかった。
ポーションが、なんか変な薬になっちゃったみたい。
まあ、違法な素材はないし、基本的にはポーションなわけだから、体には良いはず。でも、さっき叔父さん言ってたよね。この人たちは『影響力の強いA級パーティ御一行様』だって。そんな人たちが『変な薬を飲まされた』って言いまわったら、この店、もう駄目かもね。
……まあ、それはそれでいっか!
どうせ、最悪の労働環境だったし!
もうなんかキレちゃってる私は、深く考えるのをやめた。
・
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しかし、私の予想とは正反対に、翌日からローン薬草店は大繁盛した。あの『A級パーティ御一行様』が、『すげぇ薬を売る店がある』とあちこちで言いまわったからである。
彼らはこの世界のインフルエンサー。その影響力は絶大で、多くの人が私の作る『超絶やばいポーション』――略してCYP(CHOUZETSU YABAI POTION)を求めて店にやって来た。
自慢じゃないが、調合には自信があるので、たとえキレて作った薬だとしても、私は一度作れば何度でも再生産できる。でも、CYPを継続的に売るのは反対だった。いくら違法な素材は使ってないとはいえ、あの効果はやばすぎる。私は叔父さんにそう進言したのだが……
「アホかお前! こいつはでかい商売になる! とんでもねえ大金をつかめるんだぞ! ここでやめてどうすんだよ! お前はいつも通り、『はーい、ただいま』っつって、何も考えずにCYPを作ってろ!」
あーそーですか。
私、忠告しましたからね。
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そして、CYPを生産するようになってから一ヶ月後。叔父さんの歯が全部金歯に変わり、首にはゴールドチェーンが巻かれ、太い指がギラッギラの指輪で埋め尽くされたころ。
突然ローン薬草店のドアが蹴破られた。
蹴っ飛ばしたのは、いかにも『騎士様』という感じの長身の青年だった。
騎士様は、凛々しくも厳しい眼差しで私と叔父さんを見て、一喝する。
「私は国王陛下直轄の、薬物取締局捜査官だ! きみたちに聞きたいことがある!」
あー。
ほら来た。
そりゃこうなるよね。
違法だろうが適法だろうが、やばい薬物をばらまいて商売してるんだもん。
わかりきっていた帰結に、驚きもせず「はぁ」とため息を漏らす私。
もうどうにでもしてちょうだいって感じだった。
叔父さんは、死ぬほど驚いていた。
どうやらほんの少しも、こういう事態を予想していなかったらしい。
しかし、現状を理解してからの行動は早かった。
叔父さんは一瞬たりとも躊躇せず、私を捜査官さんに突き出してこう言った。
「こ、こいつです! CYPは、全部こいつが作ったんです!」
うぐ。
反論できない。
だって、それは事実だから。
黙ったままの私の代わりに、叔父さんはさらに叫び続ける。
「俺は『あの薬はやばすぎるからやめておけ』って散々言ったんですけどね! こいつは『これはでかい商売になる! とんでもない大金をつかめるのよ! ここでやめてどうすんのよ!』って俺を叱り飛ばしたんですわ! ああ、恐ろしい! ええ、恐ろしいですとも! こいつは悪魔の子だ!」
……は?
「このアゼリアは、元々この店の店主であった俺の兄貴の娘! つまり、この店の現在の店主! なので俺は、この娘に逆らえんのです! それで、それで俺は……泣く泣く従うしか……おーん! おおおーん!」
テンプレな泣き声を上げて、その場に倒れ込む叔父さん。
そこで私は、やっと口を開く。
「ねえ叔父さん。『やばいからやめておこう』って言ったの、私だよね」
「おーん! おおおーん!」
「なのに『でかい商売になるのにやめてどうする』って言ったの、叔父さんだよね」
「おーん! おおおーん!」
こ、この中年男。
幼児のように泣き喚くふりをして、ごまかしとおすつもりだ。
私一人に、すべての罪を押し付けて。
私。
私。
馬鹿だわ。
辛いときに、ちょっと優しくされたからって。
こんな人を、家族だと思っていただなんて。
今。
この瞬間。
わずかに残っていた、この男への『家族の情』が。
完全にぶっ飛んだ。
私は調合室から『薬剤をかき混ぜる棒』を持ってくると。
四つん這いでウソ泣きを続ける叔父さんの後頭部を。
思いっきりぶん殴った。
「お゛んっ!? アゼリア、てめぇ、なにしやがる!? ぶっ殺すぞ!」
「私には逆らえないんじゃなかったの?」
「うるせえ! ガキのくせに大人に手を上げるとどうなるか、思い知らせて……」
そこで、事態を静観していた捜査官さんが間に入る。
「そこまでだ。とりあえず、話をまとめさせてもらおう。……CYPを作っていたのはアゼリア。これは、間違いないことだな?」
「はい」
私は頷いた。
ごまかす気はなかった。
叔父さんはほくそ笑んだ。
私がCYP作成を認めたことで、自分は罪を逃れられると思っているのだろう。
「捜査官の旦那! こいつ、認めましたぜ! さあ、さっさと連行して、刑務所でも何でも、ぶち込んでやってくだせえ!」
「いちいち大きな声で喚かないでくれ、耳が痛い。……どうやらきみは、何か勘違いしているようだな。私は今回、CYPの作成者を罪に問うために来たのではないよ」
「は?」
「考えてもみろ。CYPに違法な素材は使われていない。強い高揚効果があるとはいえ、基本的にはポーションであり、体にもいい。その作成者に、何の罪があるというんだ? まあ、高揚効果が強すぎるため、いずれは違法薬物に指定されるかもしれないが、少なくとも現在は合法だ」
「えっ、じゃあ、なんでドアを蹴飛ばして強制捜査みたいに入って来たんです?」
「あれをやると、みんな素直に話を聞いてくれるから楽なんだ」
「えぇ……」
「とにかく、私は強制捜査に来たのではない」
そこで私は、やっと会話に入る。
「では、何をしにいらしたのですか?」
捜査官さんは、私に向き直って頷いた。
「順を追って話そう。きみの作ったCYPの存在は、王宮でも噂になっていてね。宮廷薬師がその成分を分析した。すると、CYPが非常に高度な調合技術で作られていることが分かったのだ。エリートの宮廷薬師たちですら、再現できないような技術でね。皆、驚いていたよ。『いったいどこの天才がこんなものを作ったのか』と」
「あ、あはは……」
「その話を聞いた国王陛下は、『それほど優秀な薬師なら、探し出して王宮に招き入れたい』とおっしゃったのだ。私がここに来たのは、つまり、まあ、そういうことだ」
「じゃあ、私を薬師として王宮に? 私、宮廷薬師になれるのですか?」
「ああ、特別待遇でね。もちろん、きみさえよければだが」
よいに決まっている。宮廷薬師は、薬を扱う職業のトップオブトップ。その少ない席は、生まれながらの超エリートたちで占められており、本来なら私のような平民なんぞが入り込む余地などない。
それが、国王陛下からの要請を受けて特別待遇で入れてもらえるなんて。
まるで夢のようだった。
一応、自分の頬を思いっきりつねって夢かどうか確認する。
超痛い。
よし、現実だ。
嬉しい!
そんな喜びをぶち壊すように、叔父さんのダミ声が響いてきた。
「ガハハハハハ! まさか、身内から宮廷薬師が出るとはな! これで俺も安泰だ! おい、アゼリア! 宮廷で稼いだ金は、ピシピシ仕送りするんだぞ! なぁに、俺も鬼じゃないからな、全部とは言わん! 半分だ! たったの半分でいい! 宮廷薬師の給金なら、それでも充分に大金のはずだからな! ガハハハハ!」
そんな叔父さんを、しらけた目で見る私と捜査官さん。
ああ。
駄目だ、この人は。
ハッキリ言わないと、わかんないんだろうな。
「ねえ、叔父さん。さっき、私に全部の罪を押し付けて切り捨てようとしたくせに、仕送りをしてもらえるとか、そんなこと、本気で思ってるの?」
「思ってるさ! 俺は、お前の唯一の親族だぞ!? 三年前、両親を失ったお前に優しくしてやったこともあるだろう!? お前には、俺に恩を返す責任がある! 違うか!?」
「そうね。お父さんとお母さんがいなくなった時、すぐに駆けつけてくれたことは今でも忘れてないわ。あの時感じた温かさも、感謝の気持ちも本物。だから『恩返し』として、このお店は正式に叔父さんにお譲りします」
「譲られなくても、ここは俺の店だが?」
「いえ、法的には私が相続した店なのよ。お役所の書類にも、そう記されてるわ。だから私、今日のうちにお役所に行って、この店の名義を叔父さんのものにしてくる。これで『全部終わり』よ」
「何が? 何が『全部終わり』なんだ?」
「私と叔父さんの関係がよ。恩を返し、これっきり、私はあなたと縁を切ります」
「そ、そ、そ、そんなこと、まかり通ると思ってるのか!?」
私は、捜査官さんの方を向いて尋ねた。
「まかり通ると思います?」
捜査官さんは頷いた。
「思う」
叔父さんは叫んだ。
「ふ、ふざけんな! 関係ないあんたはすっこんでろ!」
そこで、これまでは比較的穏やかだった捜査官さんの目がスッと細められた。その迫力に、喧嘩っ早い小型犬のようにキャンキャン吠えていた叔父さんは、黙り込んでしまう。
「あまり図に乗るんじゃない。さっきから聞いていれば、お前のアゼリアに対する態度はあんまりだ。お前、彼女を自分の奴隷か何かだと思っているんじゃないのか? 人を舐めるのもいい加減にしろ」
鋭く、重い言葉だった。声色そのものは静かで、叔父さんのように声を荒げたりはしないのに、叔父さんの何倍も迫力のある声だった。
「すべて、自業自得だ。お前がアゼリアに真摯に接していれば、頼みなどしなくても、彼女はお前に仕送りをしただろう。叔父として――いや、義父としてお前を慕い、良い関係を築けただろう。その『あり得たはずの未来』を、お前は自分で壊したのだ。店を譲ってもらえるだけでも、ありがたいと思え」
「うっ、うぐっ、ううぅ……」
叔父さんはもう、反論しなかった。捜査官さんにやり込められたから、というより、本当に落ち込み、反省しているように私には見えた。……そう、思いたかった。
そんな叔父さんを残し、手早く支度を終え(私物がほとんどないので、10分もかからなかった)、私は捜査官さんと店を出る。
二人並んで路地を歩きながら、捜査官さんは私に言う。
「本当に、あんな男に店を譲っていいのか? ご両親が、きみに残してくれた店なのだろう?」
捜査官さんは背が高いので、私は彼を見上げるようにしながら答える。
「いいんです。あの店がないと、叔父さん、路頭に迷っちゃうし」
「わからないな。あんな男の生活の心配など、してやる必要はないと思うが。きみだって、あんな男、好きではないはずだ」
「ええ。私、叔父さんが嫌いです。今後も付き合いたいとは思わない。だから縁を切った。……でも、だからと言って、叔父さんが不幸になり、苦しんでほしいとは思いません。あんな人でも『家族』だったから」
「ふむ……」
「あれでも、少しだけ……ほんっと~に少しだけ、いいところもあるんです。これからは心を改めて、幸せになってくれることを願ってます。かつての家族として」
「そうか。優しいんだな。……おっと、そういえば、まだ正式な自己紹介をしていなかったな。私は国王陛下直轄の、薬物取締局捜査官にして、王宮の騎士、ディルック・フェルナンデスだ」
「私はアゼリア――昨日までは、何者でもなかったアゼリア。今日から王宮の薬師、アゼリア・ローンです。どうぞ、よろしくお願いします!」
言ってから、『今日から王宮の薬師』だなんて、ちょっと調子に乗りすぎたと思う。カァッと顔が赤くなるのが、鏡を見なくてもわかった。
でも捜査官さん――ディルックさんは、優しく目を細めて、優雅な礼儀作法にのっとった拝礼をし、敬意をこめてこう言ってくれたのである。
「こちらこそよろしく。新たなる、宮廷薬師殿」
そこで、薄暗い路地が終わった。
太陽の光が、私たちの向かう先に大きく差し込んでいた。
その日から、私の新しい人生が始まったのである。
終わり。




