100万回死んだ冒険者
酒場に入った俺は、いつもの席に目を向ける。
そこでは赤ら顔のエルフ――友人のレミタルがだらだらとグラスを傾けていた。
俺はレミタルの前に立って話しかける。
「おっす」
「その魂の色……オズか。二百年ぶりだな。寂しかったぞ」
「前のダメージが酷くてな。思ったより時間がかかっちまった」
俺はぽりぽりと頬を掻く。
レミタルは酒を一口飲んでから尋ねてきた。
「それで、どこまで行ったんだ?」
「十五階。バジリスクのブレスにやられた」
「おお、そりゃおっかないな」
小さく笑ったレミタルは肩をすくめる。
いつも通りの反応に安堵しつつ、俺は踵を返した。
そこにレミタルが残念そうに声をかけてくる。
「もう行くのか」
「お前に挨拶できたからな。用は済んだ」
「少し休んでおけよ。一杯くらい飲もうぜ」
「俺が百階に到達したら祝ってくれ」
酒場を出た俺は、魔神の塔に挑んだ。
それなりに頑張ったつもりだが、斧で頭をかち割られて死んだ。
◆
昼頃、俺は酒場に赴く。
レミタルはやはりいつもの席で飲んだくれていた。
「おっす」
「よう、オズ。十八年ぶりだな。今回は早く復活できたじゃないか」
「そんなに傷を引きずらなかったんだ」
俺の発言にレミタルは意外そうな顔をする。
それから前のめりになって尋ねてきた。
「今回は何階だ?」
「十階。門番が強かった。あいつの魔術、避けにくくなってやがる」
「おいおい、前より記録が悪いぞ。引退するか?」
「絶対しねえよ。百回に到達するまでな」
俺は意地になって酒場を飛び出した。
力押しで進んでみたが、スケルトンの群れに負けて死んだ。
◆
「おっす」
「すごいぞ、最後の死からちょうど一年だ。新記録じゃないか? どんな裏技を使ったんだ」
「別に……」
「ん? 何か不満そうだが……というかお前、その濁った魔力は……」
レミタルが俺の背後を気にする。
そこにはローブを着込む怪しげな女が佇んでいた。
女は不敵な笑みを湛えている。
レミタルは面倒そうに眉を曲げて言った。
「ネクロマンサーか。つまり塔で死んだお前の魂をこの女が拾って使役しているわけか」
「ご名答。さすがエルフだね。説明が省けて助かるよ」
女は得意げに応じる。
ちなみにこいつの名前は知らない。
目覚めると既に死霊術で操られていたのだ。
ここまで来れたのも、俺がレミタルに会いたいと懇願し、こいつが気まぐれで承諾したからだった。
酒瓶を置いたレミタルは、女をじっと見つめて要求する。
「モズを解放してくれ。俺の数少ない友人なんだ」
「嫌だ。死んでも記憶が劣化しない魂なんて珍しすぎるもん。あたしのコレクションとして――」
「じゃあ死ね」
レミタルが遮るように述べる。
ほぼ同時に風の刃が放たれ、女をバラバラに切り刻んだ。
撒き散らされた肉片を見たレミタルは、申し訳なさそうに酒場の店主を呼ぶ。
「すまんね、マスター。お詫びにこいつの遺品をやるよ。迷惑料として取っておいてくれ」
「ありがとうございます、レミタルさん」
「お互い様だ。あんたの爺さんの爺さんの爺さん、そのまた爺さんくらいからの付き合いだからなぁ」
二人が会話する間、俺の肉体は崩れ始めていた。
俺は親友の名を口にする。
「レミタル……」
「おっ、術者が死んでアンデッドの肉体が保てなくなったか。次は捕まらずにちゃんと転生しろよ」
ひらひらと手を振るレミタルはいつも通りの態度だった。
俺は思わず微笑み、軽く手を挙げてみせる。
「――来世もよろしく」
「こちらこそ。まあ、俺は長生きして待ってるがね」
レミタルの笑顔を最期に、俺の意識は闇に落ちた。




