第8話:三人目の共鳴者、試される絆
ある雨の午後、校庭にひとりの少年が立っていた。
名前は、まだ柊も澪も知らない――新しい共鳴者だった。
水たまりに映る影が、曇天の下で揺れる。
その瞳は冷たく、どこか警戒心に満ちていた。
「……君が、三人目か」
柊は少し距離をとりながら声をかける。
昨日までの暴走を乗り越えた自信と、未知なる不安が胸を混ざり合う。
「……ああ。俺の名前はまだ教える必要はない」
少年は無表情のまま、微かに頭を下げた。
その仕草に、柊は直感的に理解する。
――強い孤独を抱えている。
「ふたりで共鳴の練習をしているんだ。
君も……やってみないか?」
澪が優しく声をかける。
けれど少年は、少しも心を開こうとしない。
「……やる意味があるのか?」
「意味は……あるよ。共鳴は、力を暴走させるだけじゃない。
心を重ねることで、互いに支え合えるんだ」
その言葉に、少年はしばらく沈黙した。
やがて、ゆっくりと視線を上げる。
「……俺の力も、試すのか?」
柊はうなずいた。
昨日までの経験が、まだ身体に残っている。
だからこそ、怖れずに前に出る覚悟があった。
「うん。失敗してもいい。
でも、一緒にやるなら信じ合わなきゃ」
少年の瞳が揺れる。
初めて他人と力を合わせるという感覚。
それは、孤独しか知らなかった彼にとって、恐怖でもあり希望でもあった。
「……わかった。やる」
柊と澪は互いにうなずき、少年の手を取った。
静かに、心の準備をする。
――共鳴開始。
心の奥から湧き上がる感覚。
互いの思い、孤独、恐怖、希望――それが三人の中で混ざり合う。
最初は制御が難しかった。
少年の強い壁が、二人の共鳴を一瞬遮る。
「焦らなくていい。君のペースで……」
「……わかってる」
澪の声が心の隙間を埋める。
柊の視界が少年の微かな感情を読み取り、ほんの少しずつ波が整い始める。
そして――
バランスが取れた瞬間、三つの鼓動がひとつのリズムで共鳴する。
雨の滴が、空から落ちる音が、まるで祝福のように響いた。
「……すごい。信じられる……」
少年の表情に、わずかに笑みが浮かぶ。
孤独だった瞳が、初めて他者と繋がる温かさに染まった瞬間だった。
柊は小さく息を吐く。
「これが……三人の絆なんだ」
澪も微笑みながら手を握り返す。
新しい仲間と繋がる力。
それは、互いを強くし、未知の力に立ち向かうための“共鳴”の第一歩だった。




