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第6話:澪の涙と“傾聴力”の真価

放課後の図書室は、窓から差し込む柔らかな夕陽に満たされていた。

 静寂の中、澪はひとり席に座り、本を開いたまま視線を落としていた。


 ページを追っているようで、何も読めていない――

 その様子を見て、柊はそっと声をかけた。


「澪、大丈夫か?」


 澪は少し驚いて顔を上げ、すぐに笑顔を作った。


「うん、大丈夫。ちょっと、疲れただけ」


 嘘だ。

 柊にはわかってしまった。

 彼女の声、その震え、視線の揺れ……“全体把握”が自然に読み取ってしまう。


「無理してるんだろ?」


「……柊くんは、そういうところ鋭いよね」


 澪は苦笑したあと、机の上で両手を重ねた。

 その指が小さく震えている。


「実は……今日、また聴こえちゃったの。クラスの子の本音が」


 柊は黙って耳を傾ける。


「笑って話してたのに、心では“うざい”って……何度も何度も、響くみたいに」


 言葉を絞り出すように、澪は続けた。


「わたしね……人の声が怖くなるときがあるの。

 どんな声が飛んでくるかわからないから。

 本当の気持ちって、こんなに刺さるんだって……」


 涙が落ちた。

 静かな図書室で、その音がやけに大きく響いた。


「澪……泣かなくていい」


「泣きたくないよ……でも……止まらないの……。

 “傾聴力”なんて、いらない力だよ……!

 優しい声より、傷つける声のほうがずっと強く響くのに……!」


 柊は迷わず手を伸ばし、澪の手をそっと包んだ。


「澪の力は……いらない力なんかじゃない。

 澪は誰よりも心に寄り添える。

 優しい声を、大切にできる人だ」


「……でも……」


「俺は、澪の声に救われたんだ」


 澪の肩が震えた。

 ゆっくりと顔を上げると、涙でにじんだ瞳の中に、少しだけ光が戻り始めていた。


「昨日の暴走を止めてくれたのは……澪の声だよ。

 あのとき、澪が“ひとりにしないで”って言ってくれなかったら……

 俺はきっと戻ってこれなかった」


「……柊、くん……」


 澪の涙が新たにこぼれ、けれどその表情は泣き笑いだった。


「ほんとに……ほんとに、そう思ってくれるの……?」


「思ってるよ。心の底から」


 ふたりの手が重なる。

 その瞬間、共鳴がふっと起動した。


 昨日の暴走のような激しさはない。

 澄んだ水面に落ちる一滴のように、静かに心同士が繋がっていく。


 澪の痛みが、柊に流れ込む。

 同時に、澪にも柊の温かな想いが伝わる。


「……あったかい……」


「澪の心は、優しいよ。誰よりも」


 共鳴が終わると、澪は目元を拭いて、小さく笑った。


「ありがとう……柊くん。

 泣きたくて泣いてるんじゃないんだって……初めて思えた」


「それでいい。澪は澪だよ」


 図書室の窓から、夕陽がふたりを照らす。

 その光は、どこか祝福のように優しかった。


 ――澪はまだ、自分の力に戸惑っている。

 けれど柊と繋がることで、“傾聴力”はただの苦しみの力から、誰かを救う力へと変わりつつあった。

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