第5話:柊の“全体把握”が覚醒する理由
共鳴暴走から一夜が明けた。
柊は、自分の部屋で天井を見つめながら深い息を吐いた。
あの瞬間、自分の能力は確かに“壊れかけた”。
制御不能になり、世界が押し寄せ、意識が砕けそうになった。
だけど――
澪の声だけは、確かに届いていた。
「……どうして俺は、あれほどまでに暴走したんだ」
問いは胸の奥に沈んだまま答えを返さない。
考えれば考えるほど、あの暴走は偶然ではない気がしてならない。
翌朝、教室に入ると澪が心配そうに近づいてきた。
「柊くん……大丈夫?」
「ああ、昨日は……その、ごめん」
「謝らないで。巻き込んだのは私も同じだから」
澪の声は優しく、それでいて少し震えていた。
彼女だって怖かったはずだ。
それでも離れなかった――その事実が柊の胸を温かくした。
「実はね、共鳴のこと……少し調べてきたの」
「調べた?」
澪はスマホのメモを開き、小声で続けた。
「“能力は心の傷と密接に関わる傾向がある”って。心が不安定になるほど、能力が暴走しやすいって」
「心の……傷……」
柊は言葉を飲み込んだ。
昨日、澪に見せてしまった“壊れかけの自分”。
あれは、心の奥に押し込めていた恐怖そのものだった。
「柊くんの“全体把握”って……もしかして、無理に世界を全部見ようとしてるのかもしれない」
「……どういう意味?」
「自分を信じられないから、全部を把握しなきゃって、無意識に……」
胸が痛んだ。
図星だった。
幼い頃、柊は何をしても周りから期待だけを押し付けられた。
失敗が許されない環境で育ち、正解を求め続け、いつしか“間違えないために全てを把握しなければならない”と思い込んでしまった。
「俺は……ずっと怖かったんだ。
間違うのが。
信用されないのが。
期待に応えられないのが」
「柊くん……」
澪は迷わず手を伸ばし、そっと彼の手を握った。
その手は小さくて温かくて、昨日と同じ安心をくれた。
「大丈夫。期待に応えなくてもいいよ。
全部を把握しなくてもいい。
私は……柊くんのこと、ちゃんと見てるから」
その瞬間、胸の奥で何かがふっと軽くなった。
――カチリ。
心の鍵が外れる音がした気がした。
目を閉じた瞬間、世界の気配が自然に広がった。
昨日のような暴走ではない。
静かで、穏やかで……まるで霧が晴れるように情報が整理されていく。
「……視える。暴走しないで……全部が、ちゃんと見える」
「覚醒、したの……?」
「たぶん……澪がいてくれるからだ」
そう言うと澪の頬がほんのり赤くなった。
「そんな……大げさだよ……」
「大げさじゃない。俺はひとりじゃ立てなかった」
澪は驚いたように目を見開き、そして静かに微笑んだ。
その表情を見た瞬間、柊は確信した。
――自分の“全体把握”は、もう孤独の力じゃない。
澪と繋がり、支え合うための力へと進化し始めている。
「これからも……共鳴の練習、付き合ってくれる?」
「もちろんだよ。ふたりなら、もっと強くなれる」
放課後のチャイムが鳴り響く。
ふたりの絆はまた一歩、確かなものへと進んだ。
覚醒はまだ序章に過ぎない。
柊の力も、澪の力も――これからさらに、大きな変化を迎えることになる。




