第4話:初めての共鳴暴走
放課後の校舎裏。夕日に染まった空気が、どこかざわついていた。
柊と澪は、昨日よりも少し距離を縮めた心で向かい合っていた。
「今日も……少しだけ共鳴、やってみる?」
澪が不安げに問いかける。
まだ心の傷は完全には癒えていない。だが、それでも前に進もうとする強さがあった。
「無理はしないよ。俺たちのペースでやろう」
柊が返すと、澪は安心したように頷いた。
ふたりが手を軽く触れ合わせた瞬間、共鳴がゆっくりと起動した。
心と心が、透明な糸で結ばれる感覚。
昨日よりも、少しだけ深い場所まで自然に繋がっていく。
「……大丈夫。落ち着いて」
「うん……柊くんがいるなら……」
ふたりの気配が静かにひとつになる。
しかし次の瞬間、その繊細なバランスが急激に崩れた。
バチッ――!
「っ……なに、これ……!?」
突然、柊の脳裏に大量の情報が流れ込んできた。
校舎の空気の流れ、教室の温度、校庭の足音、遠くで話す生徒たちの感情の揺らぎ――
一度に抱えきれないほどの“世界の情報”が押し寄せる。
「柊くん!? 離れて……!」
「だ、だめだ……制御が……!」
柊の“全体把握”が暴走していく。
世界が分解され、同時に重なり、音も色も感情も全部が柊の中で混ざり合う。
視界が白く染まった。
「柊くん!!」
澪の声だけが、遠くで響いていた。
怖がらせたくないのに。
守りたいのに――自分が壊れていく音がしていた。
「離れなきゃ……巻き込まれる……!」
柊が手を振りほどこうとした瞬間、澪が強く握り返した。
「嫌だ!! 離れない!!」
澪の声が震える。
その声には、孤独と恐怖を知る者の強い決意があった。
「共鳴で苦しいのは……柊くんだけじゃない!
私も苦しい。でも、それで終わりにしたくない!」
澪の“傾聴力”が暴走寸前の柊の心を必死に引き寄せる。
ただ声を聴くだけじゃない。
心を抱きしめるような強さで。
「戻ってきて……柊くん。私、ひとりにしないで……!」
その瞬間、暴走した柊の心に、一筋の光が差し込んだ。
――孤独じゃない。
胸の奥にある小さな叫びが、澪の願いに応えるように震える。
「あ……ああ……聞こえる……澪の声が……」
「よかった……! 柊くん……!」
波のような暴走が少しずつ収まっていく。
柊の力が沈静化したあと、ふたりはその場に座り込んだ。
「ごめん……澪……俺……」
「謝らないで。怖かったけど……それでも……」
澪は涙をこらえながら微笑んだ。
「初めてだよ。誰かと一緒に“暴走”を乗り越えられたのは」
その笑顔を見た瞬間、柊の胸にあった重たい鎖が少し外れた。
――共鳴暴走。
それは危険な力だ。
けれど同時に、ふたりの絆が本物であると証明する出来事でもあった。
この日から、ふたりの共鳴は“ただの能力”ではなくなった。
心を繋ぎ、互いを支え合うための、確かな力へと変わりつつあった。




