第2話:ふたりの鼓動が重なる瞬間
翌日の朝。
柊は、いつもより少し早く学校へ向かっていた。
昨日の“共鳴”――あの謎の現象が、ずっと頭から離れない。
「澪……」
名前を呟くたびに、胸の奥が不思議と熱くなる。
恐怖に近い感情だったはずなのに、今は違う。
まるで、心の奥が“もっと知りたい”と訴えているかのようだった。
校門の前で立ち止まった瞬間――
「柊くん」
背後から声がした。
振り向けば、昨日と同じ静かな瞳をした澪が立っていた。
「……澪。昨日のことだけど」
「うん。話したいこと、いっぱいあるよね」
ふたりは、校舎裏のベンチへと歩いた。
朝の光が差し込む中、澪は制服の袖を握りしめ、小さく息を吐く。
「私ね……ずっと“傾聴力”を隠してきたの。怖かったから」
「怖かった?」
「うん。触れちゃいけない声も、たくさん聞こえてしまうから。誰かの心の奥が、直接入り込んでくるみたいで……」
澪の指が震えていた。
孤独を抱えてきた彼女の痛みが、柊の胸に流れ込んでくるようだった。
「澪……俺も同じだよ。俺の力は、全部“視える”。世界の状態も、人の心の動きも……。真実が見えてしまうから、ずっと怖くて」
「……柊くん」
そのときだった。
ふたりの心が、ふっと重なり合った感覚が訪れた。
コトン――胸の奥で、小さな音が響く。
鼓動だ。
柊の鼓動と、澪の鼓動が、ぴたりと同じリズムで鳴り始めた。
「これ……昨日の……共鳴?」
「うん。でも、昨日よりずっと……あたたかい」
澪がそっと、柊の手に触れる。
その瞬間、柊の“全体把握”が自動的に動き出し、彼女の心の輪郭が鮮やかに映った。
――孤独。
――不安。
そして、それ以上に。
――誰かと繋がりたいという願い。
「澪……」
「拒まないで、柊くん。私は……共鳴したい。怖いけど、それ以上に……君となら、大丈夫だと思えるの」
その言葉に、柊の胸が熱くなった。
自分の能力を肯定されたのは、生まれて初めてだった。
「俺も……逃げたくない。昨日の共鳴で感じた。ふたりなら、何か変えられるかもしれないって」
視界が溶けていく。
色彩が鮮やかに弾け、空気が震える。
――共鳴発動。
柊と澪の意識がひとつに縫い合わされるように繋がり、心の奥が透き通っていく。
まるで二人の心臓が同じ場所で鼓動しているかのようだった。
「これが……共鳴の“第二段階”……?」
「きっとそうだよ。柊くんと私の“絆”が進化してるんだ」
共鳴が収まったあと、澪はふわりと微笑んだ。
「今日はこれだけでいいよ。ね、また一緒に練習しよう?」
「……ああ」
朝の光がふたりを包み込む。
その瞬間、まだ始まったばかりの物語が、静かに動き出していた。
――これは、世界を変える“絆の進化”の物語。
まだ誰も知らない、二人の共鳴の序章である。




