第10話:闇に沈むトラウマの叫び
夜の校舎は、静まり返っていた。
明かりの少ない廊下を、柊は一人歩いていた。
昨日の共鳴練習での成功があっても、心の奥にはまだ影が残っている。
「……どうして、こんなに胸が重いんだ」
ふと足を止め、壁にもたれる。
視界の端に、誰もいないはずの空間で微かな揺れを感じる。
――心の奥底に眠るトラウマが、ささやき始めた。
柊の頭に、幼い頃の記憶が蘇る。
失敗を責められ、期待に応えられず、孤独を抱えて泣いた夜。
その時の恐怖や痛みが、まるで昨日の出来事のように鮮明だった。
「……また来るのか?」
心の中の声が叫ぶ。
恐怖が、無力感が、何度も何度も押し寄せる。
しかし、その時――
「柊くん!」
澪の声が廊下に響いた。
小走りで駆けつけた彼女の瞳は、真剣そのものだった。
「大丈夫? ひとりで抱え込んで……」
「……大丈夫だ。澪には心配かけたくない」
そう言いつつも、柊の胸はざわつく。
心の奥底に沈む痛みは、まだ澪に触れさせてはいけないもののように思えた。
「柊くん……力に頼りすぎないで。
昨日の暴走みたいに、無理に我慢しなくていいの」
澪の手が、そっと柊の肩に触れる。
その温かさが、沈んだ心を少しずつ解きほぐしていく。
「俺……怖いんだ。
また……制御できなくなるんじゃないかって」
「でも、ひとりじゃないよ。私がいる」
澪の声が胸に響く。
恐怖を抱えたままでも、受け止めてくれる誰かがいるという安心感。
柊の心が、少しずつ落ち着きを取り戻す。
暗い感情は消えないけれど、もう暴走することはない。
共鳴は、力のためだけじゃない。
互いの心を守り、支えるためのものだと、改めて感じる。
「……ありがとう、澪」
「泣かなくていいの。恐怖を隠さなくていいって、覚えておいて」
柊は小さく息をつき、頷いた。
夜の校舎に差し込む月明かりが、二人をそっと照らしている。
――闇に沈むトラウマは、完全に消えることはない。
でも、共鳴によって支え合えることを知った今、もう一人で苦しまなくてもいい。




