【第1話:出会いは共鳴のはじまり】
放課後の教室は、夕焼けに染まっていた。
誰もいないはずの空間に、柊はひとり立ち尽くしていた。胸の奥がざわついている。理由はわかっていた。今日――自分の中の“何か”が動き出したからだ。
「……まただ。視界が、勝手に広がっていく」
目を閉じても、教室全体の空気の流れが読めた。椅子の傾き、黒板のチョークの位置、誰がどこに立てばどんな感情になるのか――“全体把握”。
そんな大げさな名前をつけるほどの能力じゃない。けれど柊は、その力をずっと怖れていた。
自己不信。それが彼を縛る鎖だった。
「その力……苦しそうに見えるね」
不意に声がして振り返る。
そこに立っていたのは、同じクラスの少女――澪だった。
彼女の瞳は、光を吸い込むように深く、どこか寂しさを抱えている。
「どうして、ここに?」
「なんとなく……かな。でも、柊くんがひとりでつらそうなのはわかったよ」
澪は微笑むわけでもなく、ただ静かに言葉を置く。
その声には、まるで心の底を覗き込むような優しさがあった。
「君……どうしてそんなことがわかるんだ」
「――傾聴力っていう、私の変な特技。相手の“声にならない声”が聞こえるの」
柊は息を呑んだ。
自分と同じだ。人とは違う“何か”を抱え、それを隠して生きてきた存在。
「私たち、同じなんだと思う。だから――」
澪が言葉を続けようとした瞬間、教室にビリ、と電流のような空気が走った。
床が震え、窓ガラスがかすかに揺れる。
「な、なんだ……!?」
「共鳴してる……柊くんと私の力が!」
ふたりの視界が重なるように、世界の輪郭が色を変えていく。
胸の中で、二つの鼓動が重なりあう。
――初発動。
心の奥に押し込めていた不安、孤独、焦り。
そのすべてが、互いの心へと流れ込み、混ざり合う。
「こんな……俺、力を暴走させてるのか……?」
「違うよ、柊くん。私がいる。ふたりで共鳴すれば、怖くない」
澪がそっと手を伸ばす。
その手は震えていた。孤独を抱えて生きてきた彼女自身も、怖いはずなのに。
だからこそ、柊の心に火が灯った。
「……わかった。信じるよ、澪」
次の瞬間、二人の能力が溶け合い、教室に広がっていた重圧がふっと消えた。
まるで嵐の後の静けさのように。
「やっぱり……できたね。共鳴」
澪の声は、今度は確かに微笑んでいた。
――この日。
柊と澪の出会いは、“絆”という名の力を目覚めさせた。
これが、後に世界を揺るがす物語の第一歩となることを、ふたりはまだ知らない。




