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御厨リゾート怪異ファイル  作者: しろいぬ
第四話 マグロには勝てませんでした。
33/36

4−5

「俺達は、特殊な家に生まれ育った。簡単に言えば、祓い屋の家系だ。明生家は関西、百瀬家は九州、九条家は東京を拠点に祓い屋家業をしている。御厨家とは平安時代から繋がりがあったとされていてな。今でも、次期当主候補は御厨当主に仕えるという仕来りが続いている」


 淡々と語る九条さん。

 さらっと言ってるけど、これ完全にマンガやアニメの設定じゃないですか!?


 御厨当主――つまり御厨リゾートの創始者にしてグループ会長の、御厨宗一郎会長のことらしい。

 でも私にとってはニュースの見出しで名前を見たことあるくらいで、会ったことなんてもちろんない。


(勝手に「お金持ちのおじいちゃん像」を想像してるけど……実際どうなんだろう。ひげ長そう。シルクハットとか似合いそう……って違う違う!)


「なら将来、九条さんは家を継ぐんですね」


 思わず口に出すと、九条さんは一拍も置かずに答えた。


「ああ、そうなるな」


(……やっぱり。うわ、次期当主とか、重すぎるワード!)


 ってことは、明生さんは明生家を、百瀬さんは百瀬家を――みんな御三家の跡取り。

 うっかり普通のOL感覚で混ざってるの、私だけ!?


「で、お前はこのまま仕事を続けてもいいのか?」


 急に話を振られて、心臓が跳ねた。


「嫌なら元の部署に戻すこともできるぞ」


(え、そんな真顔で聞く? こっちの気持ちが試されてる感すごいんですけど!)



「わ、私は……みなさんと一緒に仕事をしたいです。……役に立たないかもしれませんが……」


 言ってから、声がだんだん小さくなっていく。


(ああーっ、なんでいつも決めゼリフでしょんぼり系になるの私!?)


 九条さんは一拍置いてから、静かに言った。


「お前の仕事は、俺達のサポートだ。現場で無理をする必要はない」

「……!」


 その言葉に胸がじんわり熱くなる。けれど次の瞬間――


「……百瀬に乗せられて、のこのこ出てくるな。この先が思いやられるぞ」

「~~っ!!」


 最後の一言で一気に赤面。


「今回のことは、本当に勝手な行動をして申し訳ないと思っています。百瀬さんのことも……ちょっと期待してしまって……」

「期待?」

「もしかしたら、私にも何か力があるのか? みたいな……?」


 椅子からずり落ちそうになりながら抗議する私を、九条さんは無表情のまま横目で見ていた。


「ないな」


 一刀両断された。

 私の方が普通なんだけど、断言されるとちょっと悲しい。


 お説教タイム(?)が終わると、九条さんは「疲れた」と言って自分の部屋に戻っていった。


 あの人が「疲れた」って口に出すの、珍しい気がする。……いや、たぶん私のせいなんですけど。


 とにかく私は「自由に夕食を取れ」と放牧されたので、一人でビュッフェスタイルのレストランを予約することにした。

 この夕飯代、経費で落ちなかったら――相当な出費だ。(請求書が怖い。カード明細見るのが怖い。誰か助けて)


 けれど付近にはカジュアルなレストランなんて皆無だし、外はちょっと雰囲気が不気味で、気軽に出歩ける感じじゃない。


(でも……“悪いもの”はこのホテルに集められてるんだよね? だったら逆に安全? ……いやいや、どう考えても不安要素しかないんですけど!)


 日が落ちれば街灯もなく真っ暗になるらしいし、夜に出歩くのは絶対アウト。

 そう思っていた矢先――


「くるみーん! 九条さんのお小言は終わった?」


 ひょっこり現れる百瀬さん。声のトーンが軽すぎて、さっきの重苦しい空気が全部リセットされる。


「……終わりましたよ。百瀬さんこそ、二階のお祓いは終わったんですか?」

「秒で終わらせてきた」


(ドヤ顔で言うことじゃないと思うんですけど!)


「で、夜ご飯はどうするの?」

「ビュッフェスタイルのレストランがあったので、そこに行こうと」

「だったら、一緒に市内まで行こうよ。車出すから」

「……勝手に外に出ても平気なんですか?」

「仕事が終わったから今はプライベートの時間だよ」


(いやいやいや、仕事とプライベートを分けすぎじゃないですか!?)


「せっかくここまで来たんだから、大間のマグロ食べさせてくれる店に案内するよ」

百瀬さんがキラッキラした笑顔で言う。


(……なんだその旅番組みたいなノリ!?)


「え、いや、私はホテルのビュッフェで十分です! むしろああいうのでちょこちょこ食べるの好きなんで!」

「えーっ、ダメダメ! わざわざ青森まで来て、ホテル飯だけで帰るとか、観光客失格だよ!」

「観光に来たわけじゃありません!」


(仕事ですから! しかも心霊案件ですから!)


「大丈夫大丈夫! 俺、運転うまいし、店もちゃんと予約するし。くるみんは隣で“わー美味しそう”って言うだけでいいから」

「そんな気軽なノリで夜に外出していいんですか!? 九条さんに怒られますよ!」

「静さんは、爆睡してると思うよ。ここの仕事、相当体力持っていかれるから、明日の朝まで起きないね」


(……確信犯か)


「ね? せっかくだし!」


 ぐいぐい来る百瀬さんに、気づけば私の返事がだんだん押されていく。


「で、でも……」

「マグロだよ? しかも大間の」

「…………」

「赤身も中トロも大トロも食べ放題!」

「食べ放題じゃないですよね!? ……ああもうっ!」


 気づけば私は、すっかり百瀬さんのペースに巻き込まれていた。


(ダメだ……百瀬さんに乗せられるなと、言われたばかりなのに。理屈では勝てない。食欲でも勝てない……!)


 ――こうして私は、気がつけば車の助手席でシートベルトを締め、大間のマグロを目指して出発していた。


(九条さんにバレたらまた説教かも……でも……マグロ……!)


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