6話 デカいスペース・ソルジャーVSデカい海賊兵隊長
■巨大構造体コントロール・ルーム前エントランスホール防衛陣地
「フロントがさぁ!ベコベコでさぁ!これもうダメだよ!」
「無事着いたんだからいいじゃない、帰りの事なんて考えなくていいわよ」
「そうです、それにナンブ様が運転していただいたからこそこの程度の損害で収まってんですよ」
「さっきふっとんだ免許はこちらで確保してありますので、また後でお渡ししますね」
「免許没収じゃんッ!」
巨大遺跡構造体の中枢部、コントロール・ルームに向かう道のりの激しさを語る軍用車両の有様。ディア・バンパーとか鹿よけと呼ばれるフロント周りのパイプフレームは外れ、ボンネット・グリルもベコベコ。煙はぶすぶすと燻りながらも噴出している上に、フロントガラスはソニアの光る剣で切断された箇所や叩き割られた痕跡。海賊ギルドの小柄な兵士の頭がぶち当たった跡が残っている。
それを見るだけでもう、ここにくる道中のスリルドライブを思い出して吐き気がしてしまった。
■ここに来るまでの道中のドライブ。
「どいてくれーっ!ひき殺してしまうーっ!」
「なんだ!うわっ!こちら第5ブロッ」
「残敵2!」
「そのまま直進してください、徐々にカーブしていくルートですので」
生まれて初めてハンドルを握った左ハンドルの外車、34世紀でのドライブは最悪のスリル・ドライブだった。思い返せば免許を習得してから些細な違反があった。走馬灯のように蘇る嫌な思い出……その時は大きく気落ちし、立ち直るのにも時間がかかった。より一層気を付けてゴールド免許に戻ることを必死に求めていた数年をかけて再びゴールド免許に戻った時の喜び。それはいつまでも安全運転を心がける心の柱になっていた。
それが34世紀、再びハンドルを握って1時間にも満たないドライブでは免許取消だけで済むわけがない事態を連続させていた。最初に海賊ギルドの兵士を轢いてしまった衝撃も抜けないままに、隣の助手席のソニアはアクセルペダルに置かれた私の右足を押し込み続けるのだ。やめてくれと頼んでも前を見るように、としか言わないしアンジェラに至っては口を開くタイミングで軍用車両の銃座にある機関銃をぶっ放すのだ。当然無駄に引き金を引いているのではなく、ひき殺し損ねたギルドの兵士を始末している。ひき逃げ戦術をやる際のコンビネーション・アタックに慣れ過ぎている。
こんな運転はしたくない、変わってくれと叫んでもソニアは変わってくれなかった。理由は簡単、このフロントガラスにぶち当たった痕跡が物語っている。それを刻み付けたのは海賊ギルドの兵士の頭。
「武器を取れない人が助手席に座っていてもトラブル対処は出来ません。ですのでここはあなたにハンドルをお任せして……おっとまた湧いてきましたね」
「お前ら!これを今すぐ止めろ!」
「降りて!!!」
「止まるのはあなたですよ、手を放してください」
そう話していると小型ではない、ちょっと体格がいい海賊ギルドの兵士が車で衝突してもフロントにしがみ付いて止めようとしてくる。私は一生懸命クラクションを鳴らして無理やりの降車を頼んだが当然聞いてくれるわけはない。そこにトラブル対処が出来るというソニアの右手が突き出されるのだ。光る剣が瞬くと、フロントガラスがちょうど左右半分になる形に両断され……右側だけが取り除かれる。下側の縁を切り取る時のついでか、そのためか。海賊ギルドの兵士の左足が切断され、そのまま倒れて転ぶ。落ちた先は……車の前。そのままタイヤが踏みつぶす音が前輪と後輪と続いて伝わってきた。
「あーっ!あーっ!またっ!」
「そのままですよ、フロントの護衛はこちらにお任せして運転をしてください」
「落ちてくるタイミングを狙って当てるのは難しいから、ひき殺すことがメインになりそうね」
「腕と足、失礼しますね」
助手席のソニアはついに左足で私の脚を踏み、アクセルペダルから放さないようにしてしまった。そのまま半身で立ち上がる姿勢で、切断されたフロントガラスに手を置きつつも……右手に瞬き光る剣を振るう。行先で落ちてきた兵士をひき殺させる一方で、飛び掛かる少々タフな兵士を剣で切り落としていくのだ。辻斬りのようなロードキル、引き漏らしはアンジェラが機関銃で始末していく。暴力ドライブがしこたまお腹いっぱい、ゲップが出そうなぐらい続いていった。
「あれっあれっ!あそこで終わりだよね!もう止めて向かおう!」
「プリム、時間がないから短縮で講習してあげて。こっちは手が離せないから」
「それではナンブ様。マップをご覧ください、あぶないので左目の視線だけで構いません。海賊ギルドの兵士はコントロール・エリアに入るためには隣接するエリアの入り口しかない、そこを防御すればいいと思っています」
「そうだね、このままだとバリケートにぶつかるかね!」
暴力ドライブの終着点と思われていたコントロール・ルームに入る前のエリアが近い。ここまで来たら敵の防御陣地構築も分厚いだろう。であるなら車で突っ込むだけではとてもではないが突破はできない。ウェポン・クローゼットを出して高い火力や支援をもって突破するのが最適だろう。しかし私以外の誰一人としてそのような話はせず、ソニアは私の足を押さえつける足を離してくれない。
「そこで防御を崩します。既にお見せしたように管理権限があれば、構造体の一部は変形と変更が可能。巡洋艦ドックではこちらの防御に使いましたが、今度は相手の防御を崩すために使います。このように」
「えっ」
「アーッ!?」
「バリケートが!」
海賊ギルドが封鎖しているバリケート、その真下にあっただろう構造体らを下に引っ込ませたのだと気づいたときにはもう1人轢いて吹っ飛ばしていた。踏みっぱなしのアクセルで出される速度は、その程度の穴で止まるものではない。吹っ飛ばした先にいる兵士が、呻いた時にはもう一度跳ね飛ばす音が続くのだ。エリアに入る扉を飛び越えて、またもう1人跳ね飛ばしていた。後ろでは周囲で慌てふためく兵士に向けてアンジェラが機関銃の引き金を引いている。
「あわてるな!撃て!武器を!」
「ハンドル失礼!」
ソニアがぐいっと左手でハンドルを回すとそのまま車両は回転。一度通り過ぎた防御が落ちてしまった防衛陣地に戻り、また1人2人と跳ね飛ばしながら機関銃が掃射されて始末していった。暴力的なドライブの終焉は静寂。それすらも焼け付き熱を放つ機関銃を銃座から引きはがすアンジェラが立てる破壊音で端折られた。
「このように内部であれば、ではありますが。遺跡構造体内部の構造体を操作することで戦いを一方的であったり有利にすることもできるんですよ」
「だったら敵と遭遇せずに侵入することも出来たんじゃないかなぁ!?」
「無視できない要素がこの先に待ち構えています。その対処を皆さまでお願いするため、このような運びになったのです」
それは一体何なんだと聞いても見ればわかる、と言われてしまい。結局それが明らかになったのは到着してベコベコの車を見て自分の遵法であったり交通安全の精神をもベコベコにされたかのような悲しみに沈んでしまった後のことだった。
■エントランス・ホール
「返却不要の車のことはもういいから、あれをみて。形状からしておそらくリアクター爆弾よ」
「爆弾!?あれでコントロール・ルームへ!?」
「いえあれぐらいなら破壊はできませんが施設内で開放されているエリアの生体サンプルにダメージはいきます。現状では危険です」
それはまずい!と思った瞬間、ソニアに腕を掴まれそのまま車外に引きずり出されていた。海賊ギルドの兵士が作っていたものだろう。防衛陣地でバリアーのためのエネルギーを放つ装置、それが巨漢の兵士によって投擲されていたのだ。軍用車両のボンネットに突き刺さった結果、爆発炎上。完全に廃車になってしまった。私はそのまま引きずられて、最初から配置されているブロック構造を壁にするように隠された。
「再生者とやら!見たところ他の地球人どもより小さいな!ほっそい地球人類の貴様がいつまでも好き勝手に出来ると思うな!」
「私は兵隊を掃除する!ソニアはあのデカいのを相手して。あれは海賊ギルドの兵隊種族、一対一に持ち込ませる」
「承りました。ナンブ様は如何しますか、アンジェラの支援を任せたいのですが」
「プリム、こっちに引っ張ってきて。相手の数からして支援と構造体使っていかないと爆弾をどうこうできない!」
「了解しました。牽引ロープを用います。ナンブ様は遮蔽物を」
あぁでもうんとも言う前にアンジェラの下へ向かうルート上に構造体の障害物を作るように指示すると、それらが上から落ちてくる。工事現場で鉄筋が落ちてくるような衝撃と音が響く中、それをなぞるようにプリムが牽引ロープで繋げた私の体を引っ張ってアンジェラの下に連れて行くのだが……アンジェラはもう戦い始めていた。
エリア内部に軍用車両から引きはがした機関銃で重苦しい銃声を響かせながら移動を続けている。彼女がここに遮蔽物となる構造体が欲しい、と意識するとその場所を見ている私の視界にデジタルなワイヤー・フレームのヴィジョンが現れてくれるのがありがたい。視界情報と指示情報が重なってくれているのだろうか。そこに出てくれるように指示すると、アンジェラはそちらへ移動し私が移動してもいい程度に安全を確保し招く。プリムに犬の散歩をされているような姿勢、這いつくばるように進んでいくが頭の上には光線がゆるやかにも飛んでいく過激な戦場。
エリアはそこそこに広い。流石に全長1kmの艦船を収める巡洋艦ドックほどではないが、移動のためにごろりと仰向けになって見上げれば方々に荘厳な装飾が見えてくる。この構造体内部がそもそも薄暗く冷たいもので、暗色のライトばかり連なる視界。サブコントロール・ルームから出立しコントロール・ルームで完全に管理権限を移す前だからとプリムは暴力ドライブ中に話していたことを今思い出した。取り戻したらもっと明るくなるのだろうか?そんな薄暗い場所を今、暖色のレーザーとかビームとかみたいなものが飛び交っているのだ。
「一騎打ちに専念できるようにしたいけど、数が多い!ソニアもう少し辛抱して!」
「わかっています!この種族とやり合うのは初めてではありませんから、負けることはありませんよ」
「貴様、そのセイバーは教導院の騎士か!再生者の確保に来ているのは当然だろうが……まさか」
「だったらどうというのですか、この聖櫃の世界。騎士であるならば私が誰であろうと負けることはない」
「あの地球人はまずい!近づいたら首が飛ぶぞ!」
「こっちもおかしい!首狩りの人間だ!」
弾切れになったのか、アンジェラが機関銃を投げ捨てた後に求める武器を床からせり出させる。物理的な剣、マチェットを受け取った彼女は軽妙に駆け出し、細身の海賊ギルドの兵士の武器を打ち払ってから首を跳ね飛ばす。どう収めているのかわからないが、背中にマチェットを引っ付かせるとバトルライフルに変えて引き金を引いて走っていく。私はそれを追うように引きずられていく。
とかく多い兵隊をエントランス・ホールの外周からアンジェラが制圧し、ソニアがその内部から切り込んで攪乱していく。兵隊の頭と見れる巨漢の兵隊……顔をソニアの視界超しに確認するとゴリラのようだ。メカではない生物ゴリラ。その兵士が指揮をしているのだが、うまくいっていないようだった。重厚で光りエネルギーを放つバトルアックスを振り回すがソニアは一歩のところで身を捻り避けていく。そして避けたかな、と思ったところで他の兵士のところに走り……盾や銃器らしいものごと腕や頭を切り飛ばすのだ。あの兵隊ゴリラが言ってたものであれば光る剣はセイバーと呼ばれるものだと今知る事となった。
「ちょこまかとよく動く!教導院の中でも地球人の騎士、あの魔剣使いの弟子!」
「弾が当たらない!早すぎる!読まれているのか?!グレネード投擲!」
「叫んでは意味がありませんよ、お返しします」
読まれている、とは相手の動きのことだろうか。やせ細った犬のような海賊が手りゅう弾と思われる丸い物体を投げようとした時である。その手元には別の誰かの手が放り投げられており、投擲は叶わず。兵士は足元に落としてしまい、そのまま一緒に爆発してしまった。あまりに早く、過激に戦っていく騎士。彼女の位置を確認しながら兵隊の数を減らしているアンジェラの視界越しに見るも全く追うことが出来ない。追えるとしたら、セイバーの光る軌道……ラインだけだ。
騎士と宇宙蛮族の戦いを視界の隅で確認しながらも、アンジェラと共にエントランスの掃除とその手伝いをしていれば既に雑兵と呼ばれそうな兵隊の姿はなく……兵隊頭とそれと対峙するソニア。そしてそれに続くようにエントランス中央部に歩き出すアンジェラの手にはマチェット。
私はプリムに引きずられて遮蔽物の影から彼らを見ている。
「あなた達の装備、エネルギー兵器や実弾は効果が薄いのは知れているわ。マチェットとセイバーで対応させてもらう」
「やれるものならやってみろ。最も時間をかけ過ぎればお前たちも諸共に消え去るだけだ」
「その前に手足と首を跳ね飛ばす!」
アンジェラとソニアが一斉に兵隊頭のゴリラに飛び掛かる。しかし影から覗き見ると彼女らは2mぐらいあるはずなんだが、あのゴリラさん3mぐらいはあるんだよな。全体的にデカすぎないかここの規模は。話の規模もなのだが。アンジェラやソニアの比較からでしかないが、私の倍はありそうだ。3mと半分ぐらいか?
「ナンブ様あまり状況がよろしくありません、海賊といえど中々のツワモノのようで。このまま手間どらせるとナンブ様はさておきアンジェラやソニアが危険です」
「そうだ、爆弾だ。爆弾の解除は出来ないの?」
「このままでは接触できません。あの戦いの中に干渉するのが厳しいのです。ナンブ様のディスプレイに要請すらも出ていない余裕のなさ、危険です」
「そうなってくると出来ることはないか……」
「ガーディアンユニットを出したところで同じです。またウェポン・クローゼットや障害物となる構造体を出し支援することは、彼女らの邪魔になるかもしれません」
出すことは、となると。プリムの何か引っかかりを作るような言い方はすぐ分かった。結構に単純なことなのだろう。増員も補給もとなるが、それ以外に出来ることはあるという含みのある言い方。危険な運転中も講習していた内容。それは構造体を出すことではあるが、出すこと……移動、動かすことだ。出すのならば、ひっこめることもできるはず。
「アンジェラ!ソニア!」
「今余裕がないのだけれど、何か!武器はいいわよ、マチェット折れたら次のをくれれば!」
「セイバーに代わりはありませんのでお気になさらず。もう少しで首を落とせますから」
「はっ救世主様の前で恰好をつけるな、そろそろ爆弾の起爆が近いぞ」
彼女らには意図が伝わっていないだろうが、これから何かをするという意志は伝わっただろう。それが何かはわかっていなくてもいいのだ。とにかくやることがわかってさえいれば対処はしてくれる。海賊ゴリラと互角に渡り合っている、あうような相手ならたった1つの隙……穴でも作ればなんとかしてくれるだろう。
そう、穴。
「プリム、これ、今!」
「了解。お任せください」
そんな単純な指示をすれば意図が伝わってたのか。あの海賊ゴリラの真下にそのままの意味での穴、大穴があく。構造体を引っ込め移動させ……真下に穴が出来るようにずらしてしまえば後は落ちるだけ。重力がしっかり働いているからだろう、虚空に落ちる海賊ゴリラはぎょっとしたが、すぐさまバトルアックスをひっかけることで落下を防ごうとする。壊れやしない構造体の素材にひっかりさえすれば助かる見込みはある。
だがソニアがセイバーでバトルアックスを両断したことで叶わず、そのまま穴に吸い込まれるように落ちて……プリムが構築した排出されていくルートを辿って行った。
「構造体外への排出を確認しました。上ってこないように床面からルートを封鎖していきます」
「……まぁこれも勝利のうちよ、本題はこっちの爆弾なんだから」
「体力と時間を無駄にせずに済みましたが、爆弾の対処はどうしますか」
コントロール・ルームへの入り口前に鎮座する……動力炉そのままみたいなリアクター爆弾。その解除の時間はあるのか、ないのか。わかりはしないのだが目の前で起きたもの、単純に行われる敵対者の排除方法がわかっているなら対処は楽だ。
「どうするも何も同じでいいしょ……ナンブ、プリムに同じように頼める?」
「えぇ、お任せください。ルートに関してですが最も良いものを見繕いましょう」
「頼みました。シュポーンってやってください、シュポーンて」
そうしてプリムにより考えられた最も良いルートで、ダストシュートから捨てられるゴミのようにリアクター爆弾は捨てられた。シュッとやってポイッという具合に宇宙の彼方へ……