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宇宙時代といえどデカ女に囲まれたら不自由だ  作者: 草間
巨大棺構造体”メガコフィン・ストラクチャー”
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5話 海賊ギルドの兵隊長はデカい獣である


巨大遺跡構造体(メガストラクチャー)コントロール・ルーム前 海賊ギルド傭兵部隊防衛陣地


「デリガット様は時間がかかりすぎだと仰っている。かの地球人の男と兵力の損耗、天秤にかけるまでもないということは重々承知しているな」


「貴様に言われるまでもなくわかっている。既に時間は十分稼げた。リアクター反応を2か所で使うまでもない」


「何としてでも確保せよ、最悪遺跡がどうなろうと構わない。男の確保だ、わかっているなと仰ってる。忘れるでないぞ」


 宇宙超常存在ザ・マスターの遺した遺産、巨大遺跡構造体(メガストラクチャー)のコントロール・ルーム前にあるエントランス・ホールの広間。本来静寂であり荘厳な墓地の中枢の入り口であるはずのそこには、聖と相反する邪の宇宙海賊が築いた防衛陣地が組みたたれれていた。そのこれまた中心部、立体投影で映し出される2つの影に応える1人の巨漢。一方で投影された電子の影は潰れて広がった巨大イモムシのような物体。それが蠢く度に、そのすぐ隣にいる側仕えのドロイドが嫌味ったらしく口を開く。


 宇宙の犯罪シンジケートである海賊ギルドの幹部、コレクターの異名を持つデリガット・バフムは損害はさておいても時間がかかりすぎているとお怒りだった。費用効果の話ではない。お目当ての珍獣である再生者が手元に来ないこと、その手際の悪さにご機嫌斜めなのだ。巨大イモムシになじられている巨漢……宇宙世界の毛むくじゃらの獣人でありながら、つるっとしつつもトゲを備えた鎧を着こんだ悪の宇宙蛮族のような男はこれ以上は不愉快だとばかりに投影装置を強制的に切断した。これ以上の小言は聞いているだけで無駄であると。


「どいつもこいつも何をありがたがっているんだか。こんな墓場など、とっととバラバラにしたほうがいい」


「リアクター装置の設置が完了しましたがね、爆破するにしても脱出する時間に間に合いませんぜ」


「報告から地球人の兵士がこちらに向かっているが阻止に手間取っている。最悪諸共に吹き飛ばしても言い訳はつくだろう」


「しかしデリガットの旦那からはそのような命令ではないと……よろしいのですか」


「指令は他にも受けている、他の幹部が干渉するだろう」


 旧世代の駆逐艦クラスに搭載されていたリアクター炉。それを弄り破壊エネルギーを生み出す装置、爆弾に変えたものをセッティングしていた部下が発言の意図を伺う。兵隊長は気にすることなどないと鼻を鳴らし作業を継続するように指示した。彼らはデリガット、あの軟体生物の部下ではなく金で集められた海賊ギルドの兵隊長とその部下。彼らは密輸部門の幹部であるデリガットからたった1つの指示だけ受けている。しかしそれに背くのなら背くでどういう意図があるのかと聞いているのだ。


 この巨大遺跡構造体に眠る地球人の男の一人を確保すること。手足程度なら再生装置を使うから何としてでも確保しろと。



 海賊ギルド内部の対応について、話が少し戻してみる。


 彼ら海賊ギルドは一枚岩ではない。宇宙に広がる犯罪シンジケートである都合上、相互の利益に不干渉である部分の恩恵のため組んでいるに過ぎない。それが巨大遺跡構造体(メガストラクチャー)やその管理者存在についての対応で割れていたのだ。


 多くの銀河系と惑星国家が集まった銀河連邦内でも割れていたのだから、宇宙最大規模の犯罪シンジケートである海賊ギルドの内部でも割れるのは当然。極めつけはならずものの彼らであっても唯一恐れる海賊ギルド大首領様は何も言わない。好きにやれと取ったのか幹部連中は揉めに揉め始める。


 巨大構造体(メガストラクチャー)事態を確保したい、それを操れる管理者(プリム)や後継者である再生者(リマスター)を確保したいもの。それら未だに超常的な技術の遺産である存在の貴重性やこれらを足掛かりに他の遺産も狙いたい者達等。とにかく揉めていたのだが、それらを尻目に我先にとならずもの兵隊を集め乗り込んだものがいる。それが海賊ギルドの密輸部門幹部であるデリガット・バフムである。


 コレクターと呼ばれるデリガットは地球人類の天然モノであり21世紀から保管されていたレアリティの高い標本を求めて真っ先に金を積んで兵隊を呼び集めた。この作戦の上陸指揮を執っている兵隊長、地球の動物でいえば巨猿の如き獣の様相を持つ巨漢もその一人。サイズは違えど地球人類と似たような顔や体を持ちながら海賊ギルドという闇の勢力に種族ごと浸かっているものたち。金や権力、暴力に沈んでいる生涯を生粋の戦士とした種族。彼は自らの境遇を呪うことはあっても望んだことではないし、奴隷商会以外に望まれるものでもない。


 一方で創世者(ザ・マスター)の祝福を受けている、後継者であり再生者(リマスター)と呼ばれるような尊ばれる存在に対してはまだ顔も見ていないが鼻持ちならないという感情が醜くも噴出している。手が空いている時期に金を積まれたから招集された、という体裁ではあるがこの手で捻り手足を()()()()()()()()がためにこの場所にいるのだ。その存在を排除して欲しいと願うものの援助も受けているのを部下は知らない。



「しかし本当に良かったんですか、うちの戦士団からだいぶ出しましたが陸戦の連中はもう残っているのが少ないんですよ」


「こういう生き方を選んだのだ、同意のことだろう。金を受け取り受諾して来ているんだ。どういう結果になろうが納得はしているだろう」


「するような状況にはなっていないと思いますがね、なんなんですかこの勢いは」


「それもそうだな。なら今から逃げるか?タイマーのセットが終わったのなら逃亡も見逃してやるぞ」


「もう一度聞きますが本気ですか、幹部連中は再生者を……」


「完全に作動させる、諸共だろうが目の前で焼いてやるんだ。隔壁が破壊できずともよい」


「それはどういうことで……ちょっとおかしいですぜ兵隊長」


 返事はせず、それが答えだと部下に飲み込ませる。ままならないことばかりで、おかしくなっている。それはそうだ。本来ならば兵隊の頭といえど、雇われ。犯罪シンジケートであるため上の依頼や命令に頼みとあらば拒否権はない。それすらも果たせないのであれば、兵隊としての価値は種族ごとなくなってしまう。


 コントロール・ルームの掌握や再生者の確保より招き入れて諸共に抹殺を選ぶなどあってはならない。だが我々は行儀の言い軍隊ではない、犯罪シンジケート内部でのメンツの話だ。頭が悪いと烙印を押されようが、ここまでやられている相手に好きにさせて終わることはできない。損耗を気にしていないのはデリガットだけなのだ、我々や他の幹部は評価を大きく変えてくるだろう。()()()()()()からデブリ処理の如くみじめに始末されるのだけは受け入れられない。想像するだけで不愉快だという怒りがどんどん湧いてくる。


 だが雇われである手前、報告用の経過という手順や体裁も必要だ、一応は筋を通したことも見せなけばならない。


 デリガットの依頼では再生者という男の確保が最優先、であればこの巨大構造体の内部をうろちょろされるよりも一か所に呼び込んだ方がいい。そのためにここの巨大構造体の中枢であるコントロール・ルームを占領するため攻撃を行っているように見せているのだ。リアクター爆弾もこれなら隔壁を破壊できるだろうという予想があってだが、これもどうなるかはわからない。


 勿論他の幹部の思惑もある。


 海賊ギルドで外の兵器産業とつるんでいる連中からの命令だ。ここの連中には武器を下ろしてもらっている都合上兵士らは逆らえない。それを逆手にとられここ……ザ・マスターのテックの成果である巨大構造体自体の確保を命じてきた。現在にしてもここの施設破壊でドンパチをしているが施設自体が傷ついたという話は聞いていない。


 それほどのテックの塊がここの他にもいくつかある、という話は聞いている。しかし犯罪シンジケートのネットワークをもってしても宇宙全体での遺跡探索は捗らず。それら秘密のヴェールを剥がす鍵となることを期待してた。


 また銀河教導院から破門された者達が自らの正当性を新たに示したいがため再生者の身柄と遺跡も欲しがっている。そんな各々の要求もあって幹部連中が堂々と手を組むことなく。したがってある程度の干渉が出来る兵隊をごちゃまぜにして送り込んできたのが今の状況だ。


 そんな混沌とした内部状況でありながら強襲揚陸からの白兵戦に持ち込めていたのは、再生者が目覚めたから管理権限の移行時のドサクサの隙を付けたところが大きい。いやそれがほぼ全てといっていい。巨大構造体を宇宙の暗闇の中に鎮める隠ぺい装置が解除されているものであるから、兵隊らで真っ先に乗り込み再生者が眠っているだろう場所を手あたり次第調べていたのだ。


 ただ相手であるこの構造体の管理AI(プリム)が一枚上手だった。構造の把握が完了する前に別の場所に移されていたがため、構造体内部に侵入し展開は出来たが制圧ならず。それどころか今は制圧されかかっているのだ。最初に手に入った好機をモノにし続けられなかった、ということは敗因となる始まりとしてあまりに大きい。結果はもうわかりきったことかもしれない、だからこそ考えれば考えるほど、ハラワタが沸騰しそうなほどに煮えくり返る。祝福されたものの、持てるものが運べる都合の良さ。


「こちら第2セクション!防衛ラインが落ちている!下げているんじゃあない!落ちているんだ!」


「第6!わからない!下に落とされているのはわかったが、マップが不明だ!さっき第11を見たぞ!」


「落とされている!落とされているんだ!こちら第4、敵が車両で向かって」


 最後にこちらに向けられた通信は()()()()()()()()でかき消された。異様な通信連絡を聞いてか、リアクター爆弾を仕掛け終えた部下が兵隊長である自分の顔を見てきた。逃げてもいいのだろうか、という顔であった。先程の返答の通り、セットが終わったのなら見逃すと言ったことが思い出される。行けとばかりに顎でこのエリアの階上にあり、侵入口ともして使った出口を指す。部下が一目散に逃げたところを確認すれば、既に役に立たなくなった1時間前のマップを確認した。


 デリガットの物言いはさておいても、敗色が濃厚になり既に当初の目的らを果たせる可能性は潰えた。確保のための足並みが揃わなかったところがケチのつけ始めだろうが、それ以上に再生者はこの巨大構造体の機能を掌握し始めているがため地の利を取られる形になってしまっているのだ。現段階でもやつが望めばどのようなこともできるのではないか。


 最初に強襲した時はいい、だが再生者が目覚め地球人の兵士らと組んで瞬く間に機能掌握を進めているとこの構造体の支配権は移り変わっていく。宇宙の支配権が変わっていく未来の始まりなのだろうか。ここでもその未来でも海賊ギルドの兵士は完全な異物として排除されいる姿が嫌でも見えてしまう。外の航空部隊の様子がわからなくなってだいぶ経つ。デリガットがその辺りに言及していなかったところから見て、外も外で旗色が悪いのだろう。


 この巨大構造体に強襲揚陸、接弦する地球人の巡洋艦の攻撃に出した連中から連絡がないのも、この場から逃れられない敗北の臭いを強くするスパイスだろう。構造体内部で巡洋艦を自爆させ、その衝撃で構造体のコントロール・ルーム付近の隔壁に歪みを生み出せれば掌握の可能性が出てくる。そうした僅かに目のあった手も考えていたがため持ってきていた対艦砲台を全て派遣したが、破壊であったり制圧の連絡もない。


 再生者が目覚めるまではこうではなかったはずだ。内部の制圧も順調、周辺宙域での巡洋艦との対艦隊戦もだ。航空部隊を用いて一方的に攻撃している程ではなかったが、数の面で圧倒していたはずだ。巡洋艦2隻と航空部隊の中隊がいくつかを殲滅できるのも時間の問題であったはずなのに、今ではこちらが殲滅されかかっている。望めばどのようにもできる相手から、自身は生れ落ちた最初から望みなどないと烙印を押されるかのようだ。


 とかく持ち得る手札、持ってこれるものは全て用いたが目的を果たすことは出来なかった。後に可能性があるとすれば、こちらに向かっているだろう再生者ら一行を打倒してこちらが確保するぐらいしかない。どのような戦力を持ってきていようが残された道はただ一つなのだから。プラズマアックスを構えなおし一息つく。それでもひき肉にしたい怒りを抑えきれない。確保しようとする姿、などという体裁はもう捨てられている。


「もうだめだ!そこまで来ている!逃がして!」


「壁が!壁がなくなる!助けて!」


 このエリアの前の防衛線からの声が聞こえた。いや声だけではない、機関銃の掃射音と何かの衝撃音。

そして爆発。それらに構わずまた衝撃音が連続し、発砲音と爆発音が通り過ぎた。このエリアに入るのならばここから入るしかないのだが、こちらに向かって来ているだろう再生者ら一行は通りすぎてしまった。


 と思えば、また引き返してくるようになにかの駆動音が近づいてきてこのエリアに入るための扉を開けて入ってきた。おそらく地球帝国で製造されている地球人類用の軍用車両だろう。傍から見てもひどい形状になった姿のそれと、それにのった兵士二人と兵士ではなさそうな人間が一人。そして隣に浮かぶ浮遊構造体、おそらく報告にあった管理者AIユニットがここに踏みこんできたのだ。


「無事コントロール・ルーム前に到着したようね」


「素晴らしい運転でした。周辺の海賊ギルドの兵士は一掃できましたのも我が主、再生者様のお力です」


「ベコベコだよぅ!!!」


 管理AIユニットから流れる間延びした音楽、それに似つかわしくない騒がしさの人間ども。何もかも不愉快だった。誰も彼もひき肉にしてポッドに詰め込んでやる。

tips


海賊ギルド:宇宙の犯罪シンジケート。宇宙のダークネット、犯罪者集団の寄せ集め、悪いことはこいつらみたいな連中。大首領が一番上に存在し、巨大組織となっている部門の大幹部と幹部が纏めているらしい。傭兵部門は一番雑多で実働であったり有事の雑用の兵隊でしかない。

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